なかなか楽しかったアフターレインシリーズも遂に最終作を迎えた。といってもそれは約15年前の話だけどれども。2005年3月発売のゲームを今更遊んで楽しんでいる者が世界の端っこにいる。そう思うと、ゲームにも歴史アリと言える。
タイトルに「卒業」とあるだけに、主人公達の卒業式までを描く物語になっている。
高校三年生の三上智也、伊波健それぞれが高校卒業を控えた段階から物語が始まり、最後には卒業式が待っている。しかしこれは、単純に学校からの卒業を描いただけのものではなく、モラトリアムからの脱却をも意味する卒業を描いている。これは人間心理の成長における結構深い点を突いていたと思う。
智也、健のシリーズ初代と二代目の主人公がそれぞれメインを張る二つのルートが楽しめ、どちらもクリアすればつばめ先生が美味しいところを持っていく特別ルートが解放される。
ヒロイン攻略の要素は無く、智也は最初から唯笑ルート、健はほたるルートのまま物語が進む。
智也はまさかのお受験全滅を迎え「サクラチル」の通知を受け浪人が決定する。これには「マジか!」って思えた。ギャルゲー主人公のバラ色の人生にはスムーズに入って行けないのだな。
自慢ではないが、桜を散らした経験ジェロ(0)の私からすると、本当にサクラチル通知って来るんだって思えた。
初代メモオフを遊んでの智也に関する記憶といえば、とにかく勉強サボりがちということが上げられる。授業に出ずに屋上で寝たり、出たところで居眠りしたり、起きていたらペンとかの身近なアイテムを使って遊んだりと、学問に不真面目なキャラのイメージが強い。まぁそんな感じなら、大学受験にあたって強いカードを揃える準備が出来ていないのも納得。
唯笑は看護学校に進学、かおるは映画関係者の道を目指し、信はインドに渡って人生をエンジョイしている。今回も声無き出演の詩音は、東京の大学に合格して既に引っ越してしまっている。皆の進路がリアルなものになってきている。
才能がある者、明確にやりたいことがあるからそれを信じて突っ走る者が周りにいる中、自分は浪人であり、合格していたとしても将来やりたいことなどまるでない。そんな具合に皆に遅れを取ったことで沈む智也の鬱屈とした青春が前半数時間を占める内容となる。
人生の先輩の小夜美さん、静流さんのビューリホー女子大生ズからアドバイスを受けたりする点には、リアルに道に迷った若者感が見えたりする。
恋人の智ちゃんが鬱屈とした日々を送ることに唯笑もまた傷つき、苦悩するシーンが見られる。今回は彩花のことを思い出してウジウジするアレとはまた別の観点から唯笑を困らせて泣かせるから、再び「お前しっかりしろや!」と智也に叱咤と共に激励を飛ばしてしまう。そんな悩ましい青春物語が楽しめる。
智也がそんな感じの中、健の方はというと、無事大学に合格している。こちらは安心と思いきや、健もただ進学しただけでその先は何も見えていないという悩みがあった。
ほたるは音大に行くし、鷹乃は水泳の才能が認められて大学推薦を取っている。才能を持ち、それを役立てて進路を決めた者達がいる中、自分には何もないと健は焦るのである。そして可愛い彼女のほたるはそれを心配するので、こちらも女子に迷惑と負担をかけるのだ。ほたるがめっちゃ可愛い。
メモオフ2の時から、健の青春の未練といえばサッカーに関することだった。サッカー部最後の大会で早期敗退したことを悔いていることが今回も描かれている。そしてもうひとつは、子供の頃から憧れを持っていた宇宙世界に関すること。
なんだかんだと悩んだ末、健は大学に上がってサッカーをする。そして夢だった宇宙飛行士には届かずとも、それ関係の仕事を目指すと決意する。2の頃から健の心の中にあったサッカーと宇宙に関することでのモヤモヤが解消され、これにて青春の悩みの中にある状況を卒業出来た。
自分は出来ると信じない内には何も始まらないではないかと吹っ切れる健の考えは大事だと思えた。
智也と健はモッテモテのギャルゲー主人公だから、その点ではファンタジックな男子だと言える。
しかし進路に関して持っている悩みは実に等身大のものだったので共感も好感も持てた。もっとしっかり決めろや!とも思えるが、このくらいに皆悩んでウジウジする時期はきっとあるはず。
各ルート前半シナリオではこんな具合な鬱屈とした青少年の心情が描かれるわけだが、後半はお祭り企画となっていて楽しい。
信がインドから帰国したことをきっかけに、皆がルサックに集まってパーティーを開くこととな。ここで東京に行ってしまった詩音以外の初代、2のメンバーが勢揃いする。信だけが予てから全員と接点があるという点がすごい。社交性あるおもしろ人物だよな。
みなもちゃんもしっかり生き残っているルートとなっていて、彼女が元気にパーティーに出席するのも嬉しい。みなもちゃんはファッションセンス良いよな。
実は中学が一緒だった唯笑、ほたるのツインヒロインが共演して天然ボケキャラが渋滞する展開には萌えた。
2では新人バイトで頼りない感じだった希ちゃんが、こちらではしっかり仕事人になっていて頼もしい。物言いにも逞しさを感じてなんか良い女になっている気がする。
ルサックで突然始まるクイズ大会も地味に楽しい要素だった。
智也から見た健がやはり優柔不断で女にだらしないということになり、健に非難が集まる展開がちょっと気の毒だが、言ってることは的を得たものだった。
智也と健の二人の主人公がぶつかり合う信プロデュースの三本勝負も楽しめた。
何気にアフターレインシリーズ三作連投となった不良二人組の存在も忘れられない。最後にはムカつく不良共を二人の主人公が共闘でやっつける展開が見られた。愛すべき不良達だった。
この作品ではある意味ラスボスの位置づけの彩花の語り部分も心に残る。彩花も遂に青春の旅立ちを迎え、真に天へと旅立って行くことになる。ええやん、この感じ。
つばめ先生にはやはり不思議な感覚があるのか、彩花とつばめ先生が魂の交流を行うスピリチュアルなシーンも用意されていた。つばめ先生は美しい。
最後には皆のその後が彩花視点から語られ、色々安心してゲーム終了を迎えられた。なんだかんだあっても、最後は救いがある落ち着いたエンドで良かった。
修学旅行、文化祭ときて、最後には卒業式、学園ライフのハイライトシーンを捉えたアフターレインシリーズも味わい深いものとなった。なんといってもシリーズキャラがコラボするのが良かったな。
青春ってのはとにかく悩んで迷っての末に出口を探す折の中での戦いのようだ。智也と健の青春にはそんなイメージを見ることが出来る。
青春に降りしきる雨は上がり、今は雨後の虹が見えている。智也と健の心情が、そんな晴れやかなものとなって終わるあたりしっかり「アフターレイン」感が演出されていた。
私もプレイ後には心晴れやかな思いになって良かった。ありがとう青春。
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