エヴァンゲリオンの舞台となった2015年が過ぎ、2020年の日本オリンピックを目前に控えたAKIRAの世界も過ぎて遂に2020年に入った。このように未来を描いた何らかの作品世界に現実世界が追いついた時、オタクはオタク的反応を示して湧くのである。
2020年のオタクネタとして上がるのが「ウルトラＱ」第19話「2020年の挑戦」。この第19話では名物モンスターのケムール人が登場する。ウルトラＱが放送したのは1965年ということで、一つ前の日本オリンピックのすぐ後だ。そんな60年代の日本に2020年の世界を生きるケムール人がやって来る。
ケムール人は過去の世界にやってきて人間を誘拐する。科学が発達した未来では内蔵器官の寿命は伸びているが、それに伴って体までは丈夫になっていない。肉体の中身よりも先に外見にガタが来るので、健康な体を求め彼らは60年代の人間を狩りに来る。恐ろしいことをやってのける連中だった。
我々人間の誘拐がコイツらの仕事だからそれだけでもやっかいなのに、加えてケムール人は非常に足が速く、煙のように消えて物をすり抜ける能力も有している。パトカーで追いかけ回しても、良いフォームで走ってパトカーをまいてしまう。走って逃げる画が何かシュールだった。
ケムール人のデザインは歪で恐ろしい感じもするが、左右アンバランスな位置についた目や頭に生えるチョウチンアンコウのような一本触手などはどこか間抜けな感じもして愛嬌がある。でも、夜にコレにあったらちょっと怖いかもしれない。私も大変気に入っている名作キャラで、スーツの完成度も高かったため次作の「ウルトラマン」にも流用されている。
ケムール人の想い出と言えば、わが青春のお供となったアイテム「タイムスリップグリコ」の第三弾にケムール人のジオラマフィギュアがあったこと。こちらのグリコは大人向けで、本来お菓子のグリコのおまけとされるフィギュアの方が皆の真のお目当てとなった。というわけで逆にグリコがおまけだった。このシリーズが大変好きで、特に鉄人28号とウルトラシリーズのフィギュアを集めていた。当時の少ない小遣いで色々と考えて集めた日々は青春のかけがえない想い出である。買ったものは今でも観賞用プラスチックケースに入れて我が家に飾っている。
走りながら電柱をすり抜けておっさんを驚かせるケムール人の一幕をフィギュア化したものは私のハートをガッチリ掴んだ。2020年に入ったということで今回改めて眺めるとやはり良い商品だと思える。もう15年くらい前の商品だが大変出来が良い。
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こうして2020年になった今日の日本にウルトラＱのリアル放送を見た者達は一体何人生き残っているのだろう。当時の白黒放送を見た子供達からすると50年以上先の未来の話なんて「めっちゃ先やん！」とか思ったことだろうが、そのめっちゃ先があっという間に来たからな。どうなのだろうか、ケムール人をリアルタイムで知る生き残り達には「遂に俺たちの世界がケムールに追いついた」といった感動があったりするのだろうか。私はウルトラＱ放送から圧倒的に遅れを取ってこの世に生を受けたのでこればかりは分からない。
1965年から見た2020年なら、全くのフィクション感がある遠い世界でもなく、当時の人間からすると生き残っていると言えばそうだし、死んでいると言えばそれもそれで分かる生々しい時間差だったと思う。
私の親戚にリアル放送でコレを見て今日までダラダラと生き残ったジジイがいるので、話を聞いて見たところ「別になんとも思わん」とだけ返ってきた。
一説ではケムール人は未来の地球人の姿を描いているとも言われている。先程自分の顔面を鏡で見ると、均整の取れた端正な顔でケムールのように目の位置が左右アンバランスなことはなかった。これは素直に良かったと思う。ウルトラＱは好きだが、さすがにケムール面にはなりたくない。
今オタク界隈で熱いネタはやはりケムール人がやってくる2020年の世界が遂に来たことだろう。今頃彼らはどこかで地球を見ていて、1960年代に飛ぶ準備をしているのだろう。いつまでも人生にオタク熱を灯している私は、2020年1月の夕空を見ながらそんなことを思うのである。
ケムール人の回のみならず、ウルトラＱという作品は全部まとめて考えさせられる面白い怪奇劇だった。この作品が良いものだと知ってまだチビだった私にビデオを与えた我が父には感謝する。人生の多感な時期に本作に出会えて良かった。
青春の想い出をありがとうケムール人。元気に走ってパトカーから逃げてくれ。
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