こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

汚染される美しき星「宇宙戦士バルディオス」

宇宙戦士バルディオス」は、1980年6月から1981年1月にかけて放送した全31話のテレビアニメ。他に未放送回3話が存在する。

 

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 ロボットものでは定番の三体のメカが合体して完成する巨大ロボット バルディオスの戦いが描かれる。バルディオスはザンボットとダイターンを合体した感じに見える。とりあえず格好良い。

 主役ロボのバルディオスが4話まで登場しない。かなり引っ張ったな。いつになったら出てくるのだろうと思った。

 

 ロボは格好良く、キャラ絵もなかなか好きだった。そんな感じで入りはスムーズに行ったが、その内容を見てみるととても子供向けとは思えないハードなものだった。

 

 まず物語の最初の舞台となるのは主人公青年マリン・レーガンが住む惑星S-1星。この惑星の状態というのがほぼ終わったものとなっている。地表は放射能汚染がひどく、人々は全身スーツとガスマスクを装備しないと表に出られない。空は真っ赤になり、かつての青色を忘れている。地表奥深くの地下世界で人々は暮らしている。テーマとして環境汚染を全面に押し出しているこの設定からもうキツイ。

 S-1星内部では、こうなったらよその星に移民しようと考える派と環境改善の研究を進める派で派閥抗争が起こっている。

 マリンの父は環境改善研究を進める博士だったが、軍事派の連中からは邪魔者扱いされていた。軍事派のガットラーの頭の切れる部下アフロディアの策略によってマリンは皇帝を暗殺した疑いが駆けられ(本当はアフロディアが殺っている)、その逃亡の際に父や研究チームの仲間を殺される。マリンはアフロディアの弟を殺して母星を脱し、地球を目指す。

 

 S-1星が移民先に選んだのが我らが青き星地球。S-1星の軍人達は地球人を滅亡させて自分達が住むつもりでいた。実に勝手だ。

 マリンは先に地球に向かい、その危険を地球人に伝える。がしかし、普通に「スパイだろ?」という疑いを駆けられて信じてもらえず牢屋に囚われる。この時、地球に初めて降りたマリンが、スーツとマスクなしに地上に出られること、息を吸えること、海と空が青いことに感動して泣くシーンが印象的だった。マリンの父は「もう一度青い空が見たかった」と言って死んでいった。S-1星と比べて地球の汚染がいかに軽度のものかが分かる。アニメだけど、これを見れば今後も地球を汚染から守らなければならないと頷ける。

 

 地球軍のチーム「ブルーフィクサー」に囚われたマリンだが、スパイ容疑を受けて仲間達とぶつかり合いながらも徐々に絆を深めていく。ブルーフィクサーの一員となってマリンはS-1星の軍勢と戦う。

 バルディオスは全編を通して地球侵略を企む異星人とブルーフィクサーの戦いを描いている。

 

 ストーリーはかなり重い。

 軍以上に力を持つメディア組織があり、その代表者によって和平会談が設けられるが、敵の手酷い裏切りによって会談は処刑場と化す。どの星の生物も自分が生き残るために「平和」を望んで当然だから、こちらに歩み寄ってくれると信じた地球人側が見事に裏切られた。命の価値観が全く違う生物もいるという恐ろしい真実が浮き彫りになるキツい回だった。和平会談を勧めた人間達の平和を願う考えは間違ったものではなく、むしろ正しいのに、結果としては止めておいた方が良かったということになる。正義の使い道が問われるエピソードだった。

 

 地球では敵の侵攻が進んだことで作物生産が出来なくなる地も増え、兵隊が戦うために必要な飯が確保できないという食糧危機が起こる。力を合わせて異星人を討たないといけない時に、地上では米騒動のようなことが起こっている。戦争という広い事件を、戦場以外からもえぐったこのエピソードは印象的だった。

 

 兵隊は一切の私情を捨てなければならないと言っているシーンもきつい。自分の村や家族が襲撃を受けても、自分の管轄でなければ兵隊は持ち場を離れて助けにいってはならない。居ても立っても居られなくなった若い兵隊が、持ち場を離れて自分の村を助けに向かった後に命令違反者として処刑される回はキツかった。

 

 水爆、原爆を用いる作戦があるなど、恐ろしい展開がなされた。

 しかし一番恐ろしいのは作品後半で展開される人工太陽を地球に落とすというS-1星の秘策。

 地球にそれが落ちることで北極と南極の氷が全て溶け、世界の海の水位が65メートルも上昇し、人々が住む街々は水に飲まれる。次には一気に蒸発した氷が大雨となって降り注ぐことで上も下も水責め状態になる。この作戦によって地球はありえない程侵略され、35億人の死亡者が出る。こうなったら地球だってもう終わっている。

 ブルーフィクサーの活躍虚しくここまで汚染されるのか、とびっくりして見ていた。人が死にすぎ。地下シェルターに籠もって生き延びるブルーフィクサーのメンバーだが、地上の家族達が死んでも助けに行けない悔しさで涙を飲む。ここら辺りが鬱すぎた。

 

 で、酷いのがこんな最悪なことになって打ち切りで急に終わること。テレビ放送は、敵のボスであるガットラーを残したまま、そして地球を水浸しにしたまま終わる。

 

 調べると、この終わりは酷いし後味が悪いということで抗議の声が殺到したとか。ファンとかの署名活動などもあり、後に一応完結させた劇場版が公開される。こちらでも地球が大事になることは免れない。もっと悪いことに核が打ち込まれ、地球はかつてのS-1星と同じく汚染されまくって人が住めたものでない星になる。どっちにしろ後味が悪い話だった。

 

 地球の汚染を扱ったこの作品は、リアル世界で暮らす人々に対して「地球の未来を考えよ」という重めのメッセージを投げかけているようでもある。私にはそうとしか取れない。地球の自然の美しさをそれとなく歌っているOP曲歌詞を見てもその辺のことを強く意識する。

 イデオン並に終わりがキツくて後味が悪い話だった。しかし、それゆえに重くとも見応えある展開がなされ、戦争の中で起こる人間ドラマも見応えがあった。

 

 人間ドラマといえば、戦場のラブの話である。

 マリンに弟を殺されたことで執拗にマリンを追跡する敵の女長官アフロディアだが、中盤で登場した第三勢力を討伐する際にマリンと共闘したことで、そこの関係が変わってくる。マリンにとってもアフロディアは自分に暗殺者の疑いをかけ、果には父の死を招いた恨むべき相手だが、その辺の事情があっても深まるのが男女のラブである。敵対関係にありながら、確実に二人の絆が深まっていく。中盤からは敵対するこの二人の関係から目が離せない。がしかし、やはりここの関係の決着も半端な感じで終わる。なにせ打ち切りという最大の壁があるのだから。劇場版ではもう少し突っ込んで二人の関係が描かれる。

 それまではブルーフィクサーに所属する女性隊員のジェミーとデキるのかと思っていたが、ここへ来てまさかのアフロディアへと転向が計られた。このちょっとした三角関係みたくなっているのも楽しい。

 

 敵軍のヒロインアフロディアは、最初はマジで悪どいクソ女としか思えなかった。ガットラーの命令とは言え、なかなか酷いことをたくさんした女である。そこへ来て中盤からはかなり良い方向に化ける。マリンへの想いに気づいたことで苦悩し葛藤するが、それでも軍人としての生き方を貫くという精神の強い女としての一面が描かれる。これがズルく、前半にあれだけ好き勝手に悪さしておきながら、後半で憂いを帯びた良い女の顔を見せられると、私はころっとジェミーよりアフロディア派になってしまった。

 普段はメガネに軍帽でお堅い感じがするが、オフ時にはメガネを取り、緑色のロングヘアスタイルになる。ここにエロスを感じないわけにはいかない。

 結果的にはアフロディアがすごく良いヒロインだったという感想が言えるまでになった。

 

 

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