こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

何度も繰り返して物語の最終地点を目指す「Ever17 -the out of infinity-」

Ever17 -the out of infinity-」は、2002年にドリームキャストプレイステーション2で発売されたゲームソフトである。その後、PSPXbox360でも発売された。

 

 このゲームがスゴイということは前々から耳に入っており、セガっ子の私はDC版を入手していたものの、色々あってプレイ出来ないままに時間が流れた。気づけばゲーム世界の2017年もすっかり越えた2020年になってしまった。

 

 少し前にゲームバラエティ番組「勇者ああああ」で本作のすごさを紹介していたことがあった。ここでちょっとやってみるかと思い、それから更に少しばかり時が過ぎて今のコロナ自粛がやって来た。活字好きな私がコロナのせいで図書館にも行けず、物語を読むことに飢えている。やるなら家にこもり切りの今しかない。

 

 以上のような過程を踏み、18年も前のゲームをプレイしたのである。

 

 DC版、PS2版共に所有していたが、本体を出してテレビに接続するのが面倒。せっかくの機会なので、ヤフオクでお安く落としたPSP版でやることにした。これならもっと気軽に楽しめるではないか。移植バンザイである。

 

 タイトルに「infinity」とある通り、幾度となく物語を繰り返すことがクリアに向けて不可欠となる。このゲーム、はっきり言ってバラすのに根気がいる。もちろん楽しい一作ではあったが、全部で11もあるエンディングを全て叩き出すのは……ちょっとだけ苦行だったりもする。

 

 数多くいる本作ファンの間では、本作に限って過度のネタバレを行うことはマナー違反とされているらしい。そんなわけで、ネタバレは控えめに本作を振り返りたいと想う。

 

ever17 ~the out of infinity~

 
主なストーリー 

 話は2017年からスタートする。発売当時からすると15年後の世界だ。であれば色んな技術も進んでいる。高度なAIが活躍し、法律で人間のクローンを作ってもOKな流れになっている。本作はSF要素を含む大作アドベンチャーとなっている。

 

 遊園地を丸ごと海に沈めたような海洋テーマパークLeMU(レミュー)で事故が発生し、逃げ遅れて閉じ込められた登場人物達の一週間の物語が展開する。

 

 主な舞台はレミューで、ほぼここオンリーなくらいこもりっ放しである。ゴミ程人で溢れかえっていただだっ広いレミューに、たった数人しか残らないことを考えるとゾクッとする。

 

 レミューは各フロアが縦17メートルの4階建となっていて、海に沈む最下部は水深51メートルに位置している。こんな所に閉じ込められるとかどう考えても怖い。だったら、飛び降りてワンチャン助かるかもしれない上空51メートル基地にいる方が良い。海にこんなデカイ建造物が沈んでいるのなんて「仮面ライダーX」の神ステーション以来だ。

 

 4階建てのレミュー上階が浸水し、脱出困難を極めた状況から生還することが目的となる。閉塞された空間で展開する物語を倉成武、記憶喪失の謎の少年、二人の視点から辿って行くことになる。

 

魅力的でしかないヒロインを振り返ろう

 無事脱出まで導くのがクリアへの条件となるが、この手のゲームにありがちな「ラブ」の要素ももちろん盛り込まれている。 

 閉塞された空間ゆえ、後から後からキャラがほいほい追加されることもなく、主要メンバーは序盤から出尽くしている。狭い空間に共生するからこそ、数少ない登場ヒロイン達とも蜜になれるというもの。数が少ないながらも、ヒロインは魅力的で大分強い。キャラが少ない割に尺がたっぷりなので、1人1人の魅力を十分に掘り下げる事が可能となっている。ていうか、これだけ長い間一緒にいるヒロインがクソだったらダメだよね。

 

 ヒロイン達はとにかく頭が良く、小難しいことだってべらべら喋るのが印象的だった。

 

 いずれのヒロインも顔面、お声共に良しということで楽しめた。各ヒロインとの想い出は一生ものなので、ここにその軌跡を打ち込んでおこう。

 

 

小町つぐみ

 最初に攻略したのが小町つぐみルート。

 やかましく、明るく、ノリが良いヒロイン達が光る中、圧倒的に言葉少なめで、むしろこちらに敵意を向けてくる異質なヒロインが小町つぐみであった。

 黒髪ロング、黒衣に見をまとうミステリアスな美少女だった。かなり可愛い。

 

 扱いが面倒かつ難しく、そして怖い。そんな彼女と仲を深めていくと、後半ではツンデレぶりと笑顔を見せてくれる。このギャップにはやられる。

 凶暴な一面も見せるが、武が作るタツタサンドは大人しく食いにきておかわりもしていく所は可愛い。この少しずつ手懐けていってる感じが良い。

 

 剣のある物言いが怖い娘だが、こっそりジャンガリアンハムスターの「チャミ」を大事に飼っている点には萌える。チャーミングだからチャミという安直かつ潔い彼女のネーミングセンスにも光るものがあった。

 チャミを捜索するため、武が51メートルもの距離を潜水で進むシナリオがある。ここには「ポセイドンアドベンチャー」的シチュエーションを見てハラハラしたぜ。呼吸が短い私なら15メートルだって怪しい距離なので想像したら恐ろしくなった。

 

 つぐみを演じた浅川悠の囁き声は色っぽく、そしてエロくてお耳に心地よいからもっと聴きたくなる。

 

 

田中優

 お次は田中優。活発な感じのする短髪の美少女。かなりノリが良くて可愛い。大学にいたらモテそう。

 ファーストネームは「優」だけに終わらず、フルネームはもっと長い。「サーバント×サービス」に登場するヒロインのルーシーのフルネームみたく、親が思いついたアイデアを全部詰め込んだ的な感じの長ったらしい名前になっている。

 

 考古学を齧っている乙女で、明るくおバカなノリもいけるが、根っこは学者肌ですごく頭が良い。医療の知識もあり優秀。

 

 優と共に暗号解読をするシナリオがあり、これを突破しないことにはバッドエンドを回避できない。これはむずくて分からんので、電脳空間の力、つまりは攻略サイトを開くことで突破した。

 

 少年と優が「第三視点」の小難しい話を終えた後にキッスするエピソードがあるが、ここでもギャップにヤラれる。普段は女らしさを出してこない優が、キスに持っていくまでの展開はドキドキしたものにしてくるのでハートが震えた。演じた下屋則子のラブシーンをやる演技力が素晴らしかった。

 

 ボールペンの先にキャップをはめるというアクションを、男と女がラブの末にやるアレに例えて優がややエロスな芝居を打つシーンがある。ここが数少ない下要素であり、不覚にもいけない反応をしてしまった。

 

 優を演じる下屋則子の元気な美声がマッチしていた。下屋則子と言えば「Fate」や「神無月の巫女」で物静かなヒロインを演じているから、優のように明るくハキハキ喋る芝居のイメージがなかった。やはり女優は色んな芝居ができるのだと分かる。

 

 

茜ヶ崎空

 実はAIだったヒロインが茜ヶ崎空である。ここが一番お姉さんの見た目で背も高く、体型もややエッチである。ロングヘアーにチャイナドレスで来る色っぽいAIヒロインで、このデザインに設定した空の開発者は良い趣味をしている。

 

 何でも知るAIが知り得ない人の感情、中でも恋心を知りたいと願う空が、武から色恋の教えを受けるエピソードは印象的だった。ここでは武が先生、空が生徒というプチ設定プレイをぶっこんでくるので大変楽しくなった。

 

 空には実態がなく、武達人間が触れることは出来ない。そんな空とガラス越しでキッスするシーンに一番ドキドキした。間に何か一つかましてからのキッスで上がるのなんて「世界の中心で、愛をさけぶ」の例の名シーンを見て以来のことだ。

 実態のないもの、ロボとの恋なんて……と想うかもしれないが、これは美しい感情、関係であるので、私としては大好物のシナリオだった。

 可愛さと色っぽさが目立つ一番好きなヒロインだったかもしれない。

 

 声優好きならきっとお世話になっている笠原弘子の声がまた良い。彼女の落ち着いたお姉さん声を聴くと荒んだ心も安らぐ。

 

 

松永沙羅

 田中優の後輩にあたる松永沙羅は、高校の制服で登場する。黒髪ツインテで可愛い。

 優と同じく明るくてかなりノリが良い。忍者好きで「ニンニン」とか良く言ってくる。たまにおじさん的なノリも出してくる。 

 ただの女子高生ではなく、天才ハッカーという一面も持っている。すげぇ。

 ここでハッキングとクラッキングは似てるようでしっかり違うということが強調される。覚えておこう。

 

 顔面も中味もハイスペックな彼女にも、泳げないというウィークポイントがある。こんな海の底に閉じ込められておいて泳げないのであれば、浸水したら一番に死ぬのは彼女だろう。というわけで、沙羅の泳ぎレッスンエピソードが用意されている。

 スク水姿の沙羅に少年がレッスンをつける。やはり男の子というわけで、この展開にはワクワクしてしまった。「スクールランブル」で播磨くんも言っていたが、泳げない女子ってちょっと可愛いということを私も思ってしまった。

 

 沙羅を演じた植田佳奈の気安く近寄って来る優しいギャル感があるボイスは時を越えて良い。

 こうして振り返ると出演女優に「Fate」関係者が多いと気づく。

 

 

八神ココ

 ピンク髪ヒロインというわけで目を引かれた。

 序盤に「コメッチョ」という要はジョーク混じりの小話を飛ばしてくる段階で曲者ヒロインだとすぐに分かった。

 ルールは平凡だが、ネーミングが変な遊びに誘ってくるなど、掴みどころのない言動が目立つ変なヤツだった。クラスにいれば天井を突き抜けてどこまでも浮いた存在になると想う。

 おバカっていうか、全体的にガキで精神年齢が幼いって感じ。ココのこの汚れなき感じが、絶望的展開の中で光となっている。変だけど楽しくて可愛いヒロインだった。

 

 ココを愉快に演じた望月久代の脳味噌少なめなガキ感を醸す演技が印象的。「円盤皇女ワるきゅーレ」で「わるちゃん悪くないもん!」とか言ってたのを思い出す。

 

 

壮大なシナリオと仕掛がスゴイ

 このお話、ものすごく長い。

 倉成武、謎の少年、それぞれの視点から物語を辿って行く。武視点での攻略ヒロインはつぐみと空、少年視点では優と沙羅、そして4人のルートをクリアした最後には、ココに焦点を当てたルートに入り、それを越えた先には更なら超展開が待ち受けいている。

 

 最初に武視点でつぐみ編が終わった段階で約10時間使っていた。その時のクリア率はまだ20%だった。この数字を見て、これは先が長くて苦戦するとちょっと元気が落ち、同時にまだまだ楽しめるとワクワクもした。結局全クリまで44時間もかかった。日々少しずつ進め、4月一杯と5月の頭までかかった。ちなみに私は出演者達の魂の芝居を飛ばすことは失礼と考え、フルボイスのこのゲームのセリフを全て聴いている。だから時間がすごくかかっている。好きな声優ばかりが出ていて、純粋にもっと声が聴きたいと思った。

 

 小難しいSF要素がどうしても目立ち、頭に入りづらい話題も少々ある。なにせ出てくるヤツらが頭がよく、言うことも高等な学問が絡んだものなので、油断すると置いてけぼりを食らう。

 第三視点、レムリア大陸、ブリックヴィンケル、キュレイウイルス、ティーフブラウ、などの小難しい専門用語もちらほら出てくる。

 

 この作品は当然ガキ向けではない。だが、歳を取りすぎると攻略するには体力的に疲れすぎる。脳味噌から何からが一番元気でフレッシュな今こそプレイして楽しめるものだった。

 

 難しいのは作品の深い謎にもある。4人のヒロイン攻略に何時間もかかるのに、そこは序盤に過ぎず、本当にケツまでやらないと何から何までの謎が解明しない。「ひぐらしのなく頃に」のごとく、我慢して解明編まで見ないとマジでなんのこっちゃで終わる。

 

 レミューから全員が脱出するか恐怖のウイルス騒動で全滅するかで、中の生存者は0になる。はずなのだが、誰もいないはずのレミューの生命反応が「1」と表示されて各ルートが終わる。このことについてはずっと「?」なままで、ずっと後半にならないと「1」が表示される謎が説けない。機械のバグか、幽霊でもほっつき歩いているのか、様々な予想をしながら進めるのが楽しかった。

 

 プレイヤーを騙すトリックがすごくて、これには驚いた。

 武視点と少年視点、どちらをやっても武と少年が登場する。視点が異なるだけで二人は同じ場所にいる。こう考えて当然だと想う。しかし、その当然を崩しにくる仕掛けがなされているのには素直に「すごいなぁ、やられた」と思った。

 武、少年共に名優保志総一朗が演じている。ここでは色んな保志総一朗が見れて良い。

 

 大風呂敷を広げての壮大な物語だが、広げた分はきっちり畳みに行く伏線回収のお仕事は良く出来ている。これが一番スゴイから国民全部に見てほしいのだが、解明編突入までがマジで長く、正直途中で疲れて中だるみ的な感じもあった。

 

 設定上仕方ないけど、ずっと同じところにいるという点で景色的に飽きが来る。

 レミューは圧潰までカウントダウン状態にあるが、中味は食料も揃い、進んだ施設があるので怪我をしても治療が出来るという点では危機感が薄い。

 中では皆で鬼ごっこをしたり宴を行うパートもあるので、中盤からはスリル感が薄れることもあった。

 でも後半はすごかった。最後はちゃんと終わる。そこは安心出来る。とにかくラストシーンを見ると、40数時間も戦ってきた甲斐があったと嬉しく想える。

 

 

 一つの事件を角度を変えて何度も追っていく。事件は一つでも、物語はキャラの分だけある。どの物語も最終的には同じ着地点を迎え、全部が重なり合って気持ち良く終わる。そんな作品だった。名作だった。

 

 

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