「ゴッドファーザー PARTⅢ」は、1990年に公開したアメリカ映画。前作からなんと16年も経って公開されたシリーズラスト作である。
今作は前二作と比べると尺はやや短め。と言っても2時間50分もあるのでやはり長尺ではある。
前作ラストから更に時は流れ、すっかりジイさんになってしまったマイケルの晩年の物語を追う。若くて美しかったマイケルはじめ、妹のコニー、別れた嫁のケイら前作からの生き残りメンバーの老け込み具合がなかなかリアルなものだった。
一作目からマイケルが掲げていた、組織を合法なものにするという目標に随分近づき、今回の序盤では復興支援に一役かった人物として勲章をもらっている。しかし、今回でもやはり血なまぐさい事件がマイケルを放ってはおかない。教会絡みの金融関連事件が巻き怒り、マイケルはまた裏組織の沼にはまってしまう。
前回以上に社会の闇に触れて苦悩するマイケルの深い心理が描かれていた。業界で上に登れば登るほど腐った景色を見ることになり、そこから足を洗おうと想う程に引っ張り込まれる。加えて実の兄のフレドを葬ってしまった過去がマイケルを苦しめる。
結局一度でも足を踏み入れたらマフィア抗争からはおさらば出来ないという恐ろしさが分かる。初代ボスにしてマイケルの父親であるビトーが、マイケルに堅気になって欲しいと願っていた理由もよく分かるものだ。
更なる追い打ちとなる要素として、今回では糖尿病の設定が敷かれている。発作で倒れて病院に運ばれるマイケルの姿は痛々しかった。マイケルがボロボロだ。
高齢期を迎えて心身共に弱ったマイケルを見ると、「PARTⅠ」の若き日々が懐かしくもなる。アル・パチーノが魅せる老け込んだジイさんの芝居がよっぽど優秀なためか、今作ではマイケルの目がずっと死んでいるように見える。
そんな中でも心は落ち着きを取り戻し、前作でボロボロに崩れてしまった家族の絆をなんとか復活しようとするマイケルの家庭人の顔が色濃く見えた。ケイとよりを戻し、特に息子と娘との絆を求める老人の一面を見たのが印象的だった。
今作序盤のマイケルの語りに、「子供との絆は富や名声なんかよりもずっと大事」という内容が含まれている。あのマイケルがこんなことを言う柔らかいジイさん感を見せると、歳をとって孤独であることについて色々考えてしまう。
結局子供に見捨てられることが年老いた父としては一番きついらしい。
これはおっさんを深めてから見るともっとマイケルに共感できるのだろうなと想う。
今回の見どころとなったのが、マイケルの兄ソニーの息子ヴィンセントの物語。
ジョーイ・ザザと対立して耳を噛んで出血させるシーンにびっくりした。その復讐として送りこまれたザザの手下を拳銃で撃ち殺して返り討ちにしたヴィンセントの強さにも驚いた。ソニー同様に好戦的で血が登りやすく、敵を殺っちゃう時の目が行っちゃってて怖い。
作中では道ならぬ恋と言われていのが、ヴィンセントとメアリーの恋愛関係。ソニーの息子と、ソニーの弟のマイケルの娘、つまりは従兄弟同士でのカップルである。当時の外国ではどうだったのか知らないが、昔の日本の小説を読めば従兄弟との結婚とか結構あるよなと想う。私個人としては、従兄弟だからという関係性は恋の障害にならないと考えている。なので二人を応援したいと思った。
ヴィンセントがアジトでスープを作り、何かしらの料理を作るために小麦粉をこねていたシーンを見て、「コイツ料理できるんだ」と意外に思った。
メアリーと一緒に小麦粉をコネコネしてからの手を握ってイチャイチャする流れは好み。
メアリーを演じた女優は色々あってお客さんから叩かれ、その年の最低助演女優章、最低新人女優賞を与えられたとか。だが、私としては好きな顔だった。てか、最高だけでなく最低の方の賞もあったんだ。
「PARTⅠ」で若き日のマイケルが警官を殺した後に潜伏したシチリアの地が再び舞台として描かれる。景色を見るとニューヨークとの差がすごい。
糖尿病のことや心身の疲れを癒やすために田舎に引っ込んだのに、ここでも闇の事件を見ることになる。疲れ切ったマイケルがボスの座を降り、次には甥っ子のヴィンセントがボスの椅子に座る展開になる。一時代の終わりを見た。
椅子に座ったヴィンセントの手に部下が忠誠の口づけをするシーンを見ると、「ジョジョ5部」のラストを思い出す。マイケルからヴィンセントへとバトンタッチするシーンは印象的だった。
マイケルの息子のアンソニーは、はっきりと家業を継ぐことを拒絶し、学校を中退してまさかのオペラ歌手の道を目指す。後半シーンではちゃんとプロデビューするからスゴイ。
舞台に立ったアンソニーが本気で歌う裏で、悪者共を一期に始末するコルレオーネファミリーの作戦が展開する。芝居の間に挟まれる殺しのシーンが印象的。
敵対勢力が放った殺し屋が劇場に紛れ込み、息子の晴れ舞台を見に来たマイケルの暗殺のため、こちらも作戦を展開する。
このおっさんの殺し屋が強く、こちらのガードマンを倒し、最後にはまんまとマイケルにまで近づく。殺し屋の打った銃弾がマイケルではなく側にいたメアリーの心臓を貫き、メアリーは絶命してしまう。これを受けて精神崩壊したように大口を開けて泣き叫ぶマイケルが可哀想過ぎた。
ヴィンセントがメアリーを愛した事を知った時、マイケルは、愛するものがあれば敵は弱点としてそこを狙ってくるとヴィンセントに忠告したことがあった。あの言葉が巡り巡って自分の罪として返ってくる展開は衝撃的だった。
教会に行き、兄フレドを手に掛けたことを司祭に告解して苦悩するマイケルが中盤で描かれていたが、そのペナルティが「人を呪わば穴二つ」的なコレだった。
最後はシチリアの地で椅子に腰掛けるマイケルが一人静かに死を迎え、椅子から転げ落ちて終わる。マイケルの走馬灯が映るのが切ない。人生の最後がこうも孤独なんて可哀想なラストだった。
シリーズ全3作を見た合計時間は8、9時間くらいになると想う。それだけの時間をかけてマイケルという男の青春の始まりから命の終わりまでを見た。すごいヒューマンドラマだった。
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