こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

時間の止まった世界で育つ乙女の友情「フラグタイム」

「フラグタイム」は、2019年11月22日より劇場公開されたOVA。2020年5月にパッケージ化された。

 

あさがおと加瀬さん。」を手掛けた陣営で臨んだ次なるユリものということで、視聴するにあたり待ったをかける要素が皆無だった。なのでしっかり楽しんだ。

 

あさがおと加瀬さん。」同様、先に劇場公開するOVAという一般の劇場アニメとはちょっと違う謎の形態を取って売り出すアニメだった。最近あるこの手法がややこしい。分類分けではOVA作品ということになる。

 

フラグタイム

 

内容

 前情報はゼロで視聴した。

 冒頭いきなりのナレーションで、もしも3分間時間を止めることが出来たらなにをするか、という問いかけがされる。どういうことだ、何を言い出すのだろうと不思議に思って見ていたらその謎はすぐに解けた。

 

 まずこのアニメは学園を舞台にして、二人の女子の友愛を描く青春ストーリーとなっている。そこに3分間だけ時間を止める異能力というファンタジー要素がぶっ込まれている。

 メインで登場する二人のヒロインの内、守谷は3分間時間を止める力を有し、村上は守谷が時間を止めた世界の中で自由に動けるという特性を持っている。

 時間が止まった二人だけの世界で友情を深め合い、末には友情を越えた愛が生まれるという美しい物語が展開する。

 

 青春ストーリーにちょっとのSFと素晴らしきユリ世界を合わせた強い要素で魅せる良作になっている。

 

感想

 ユリがイケるのでこの手の作品は大好物。守谷、村上共に可愛い。

 

 劇中で守谷が初めて時間を止めたのは、クラスメイトの小林がうるさいから逃げるためだった。この小林も第三のヒロインといった感じで結構出てくる。うるさいけど明るくていいヤツで、守谷をやたらと卓球部に勧誘してくるのが面白い。でも小林が卓球をしているシーンは一秒たりとも出てこない。

 

 小林から逃げて校庭に出た先で、守谷はベンチに座っている村上を見つけて近づく。何をするんだろうと気になって見ていたら、守谷がやった行為がスカートめくりだったのが意外だった。可愛い女子が好きで、どんなパンツを穿いているのか気になったらしい。時間が止まってバレる心配がないのだからバサッっとめくればいいものを、少しの罪悪感が行動を控え目にするのか、指でチョコンとつまんでペロッっとめくるアクションが守谷らしくて良い。このシーンには笑った。中2男子の願望やん。

 

 大人しくめくられることで村上は動かないものだと思ったらそれはフェイクであり普通に動き出す。謎の時間止め能力とそれが効かない特性という2点がここで分かり、面白うそうだと引き込まれた。

 

 大人しくスカートをめくられてやるという段階で、村上は只者ではないと思っていたが、その通りだった。

 時間を止めて変態行為をしていたという弱みを握られた守谷は、以後村上と行動を共にするようになる。時間がとまった世界で二人は深く関わり合うことになる。

 時間を止めて保健室でチュウしたり、テスト中に時間を止めて村上がストリップするのを守谷が写メるという危険と美が交錯しあう色っぽい展開も用意された。これは変態チックだが良かった。

 

 品行方正、成績優秀、八方美人などの評価を周りから得ている真面目な村上が、守谷の前ではアブノーマルなアクションを取る。彼女の奇行を見て守谷が「村上さんは罪を犯したがっている」と発するのが印象的だ。

 

 守谷を翻弄する村上の謎ヒロイン性にはドキドキされられ、惹きつけられもする。守谷が見せるたじたじなリアクションも可愛い。

 開始早々にして守谷に壁ドンを決め込む村上のややSで来るスタイルが良いし、トゥルントゥルンの口唇から発せられる挑発的メッセージにもときめくものがある。とにかく可愛くて、あとはエロい。後には守谷とお揃いで身につけることになる白と紫の下着姿も美しかった。

 

 二人がデートでパンケーキ屋や服屋を巡るシーンも可愛らしい。二人の私服姿も見れるシーンで良かった。

 時間止め能力でいたずらをすることはもちろん可能であり、デート先で会った村上の元カレに能力を使い、頭にパンツをかぶらせたことがあった。あれは酷いと思う。時間が動き出すと即刻変態扱いだ。

 

 

 この作品で伝えていることは、思春期の若者の悩みや葛藤を克明に描いた点にあると思う。SFチックな異能力や、キッスまであるドキドキのユリ展開は表向きに宣伝しやすい要素だが、真に心を掴むのはヒロインたちの心の成長を描いて伝える文学的要素にある。よってこれはユリ文学である。

 

 守谷から見た村上は、文武両道、質実剛健の完璧人間である。最初こそ視聴者目線にもそう見えるが、それも後半展開からは事情が変わってくる。

 

 守谷が村上の家で発見した単語帳の存在にはダークなものを感じる。この闇アイテムが物語のキーアイテムにもなり、こんなものを作っている人間の心理がなかなかの謎で興味が湧くものだった。

 村上が単語帳に記載していたのは勉強内容ではなく、学校の生徒の個人情報。それもこの人はこうしたら喜ぶという好感度を上げるポイントをまとめたものだった。これを覚えて実行することで、村上はそれまでの皆に好かれる人気者の地位を確立していた。ものすごい分析力を持ち、努力家でもあることが分かるが色々怖い。

 我々で言うと、この手の分析力は美少女ゲームで意中のヒロインを落としにかかる時オンリーで使うものだから、それを必要以上に現実世界に持ち込む村上のやり口は異質に思えた。

 

 村上が最優先するのは自己ではなく他人であり、守谷をリードしていたように見えたのも、実は守谷の喜ぶであろう出方を分析して実行していただけのこと。完璧で何でも持っていたように思えた村上が、この単語帳の秘密を見知れば他者に行動を丸投げした中味のない空っぽな人間にも見える仕掛が不思議だ。

 

 単語帳の存在はうっかりミスで守谷にバレた訳ではなく、村上の方から発見されるように仕向けているのも途中まで妙に思えた。以前の行動から村上は罪を犯したがっていると守谷は感じていて、ここでも普通なら人にバラすと色々マズイこの秘密を外でもない守谷には知ってもらいたがっている。ここが村上から守谷への信頼の証なのだろう。深い展開を見た。

 

 表面は完璧な超絶可愛い美少女キャラ、加えてエロいのに、裏面を見れば襲いかかる虚無。明暗別れる村上のギャップ性が不気味で、だからこそ心惹かれる好きなヒロインに思えた。パンチのあるこの設定はかなり好き。

 

 村上の場合は誇張表現が過ぎているが、社会で上手く立ち回るには村上のように社交術を極めることが賢いとされる。作品の舞台は学校という子供社会だが、ここでも社会人と同様に人に好かれる、または嫌われない術を磨くのに必死な者がいる。本当は好きでもなんでもない、最悪の場合嫌いな相手だったとしても、自分が上手く立ち回るためには上っ面の関係というのもやっていかなければならない。もしかすると、会社で行うそれよりも、敏感な子供社会の方でこそコレが必要なのかもしれない。村上の言動から家族、親戚、学級などの狭い世界でも円滑な人間関係形成を出来る方が揉めなくて有利にやり過ごせるということが分かる。

 

 思春期には特に育つ自己と他者の人間関係形成への意識が良く反映された一作になっている。人を成長させる何かしらのメッセージ性をわかりやすく発する要素は文学と言えよう。ただのユリユリした萌えアニメではなく、社会派な一面も併せ持つ点に心を掴まれた。

 

 守谷の時間停止能力が生まれた謎について本編で触れることはない。これもトトロみたいなもので子供だから生じたことなのだろう。大人になりきれない子供からの脱却の中で生じた精神の歪みがおかしな異能力を生んだのだと思う。

 引っ込み思案で人付き合いが得意でなかった守谷は、自分と向き合い、村上とも向き合って人間を理解し成長して行く。その過程で時間停止能力の精度にブレが生じ、最後には能力を無くしてしまう。青春の歪みである時期を越えて大人の階段を一段上がったから能力は消えたのだろう。

 

 なんだかんだ考察しておいて、結局は可愛い女子の秘密のイチャラブ関係を覗き見るそれこそが良いと言えるものだった。

 

 青春は儚く美しい。人生はおっさん、おばさんになってからの方が長いから、のびしろがあるこの時期こそ人の成長が見られる。フラグタイムはそれを改めて教えてくれるものだった。

 

 1時間少しの作品だが、時間の割には濃密な内容となっており、感覚的には2時間ものくらいに思えた。名作だったと思う。

 

 

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