こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

心理戦に長ける犯行が見どころ「ガス燈」

「ガス燈」は1944年に公開されたアメリカ映画。主演はイングリッド・バーグマン

 

 5年程前にたまたま見たことがあり、面白かったので記憶している。このくそ暑い夏に再び視聴してみて改めて面白いと感じた。

 マジでものすごく古いけど大変好きな作品だ。

 

 まず気になるのはタイトルの「ガス燈」の存在。オール電化もかなり普及した時代の人間である私からすれば「ガス燈ってなによ?」ってな話。

 余裕で50年以上前の作品なので、電灯が完全なるメインの時代ではなかったのだろう。マッチを擦って灯をともすこともあれば、ガス管を通して部屋に灯を送る「ガス燈」なるものが家庭に存在して当たり前の世界のお話らしい。そういえばマッチだって何年と触っていないとも想う。

 一度に家のあちこちで「ガス燈」をつければ、各部屋の火が弱くなる。この仕組を巧みに取り入れて展開する一流のサスペンス映画だった。

 古の世界ならではの仕掛けが見られる古典的名作だ。

 

ガス燈(字幕版)

 

 作品内容は、ロンドンの一軒家で起こる事件を扱ったサスペンスものである。それにしても行ったことはないけど色んな映像作品で見る霧に烟るロンドンの夜の街並には、なにやら一事件起こりそうな怪しげな雰囲気を見てしまう。雰囲気たっぷりな作品である。

 

 主人公ポーラは伯母を殺され、その後グレゴリーを夫に迎え、亡くなった伯母の家で夫婦生活をスタートさせる。伯母殺しの犯人はまだ捕まっておらず、伯母が殺された後の新生活の中でも事件は続くというものである。

 

 なかなか気になる引き込まれる導入が敷かれている。幸せなスタートを切ったと思われた夫婦生活に徐々に影が射してなんだかおかしなことになってくる展開にも惹きつけられる。

 

 実は夫のグレゴリーが伯母殺しの犯人で、伯母の家にあるとされるすごい宝石を狙って家を管理化に置き、夜な夜な探し回っているということだった。犯人は殺人現場に帰ってくるとよく言うが、こいつの場合は住んじゃってるから相当に肝がすわっている。考えてみると犯人が犯行現場で暮らしているってどんな心理だよとも思える。そんな大胆とも取れる策に出るグレゴリーだが、もちろん馬鹿ではない。かなり狡猾に攻めてくる悪党だった。

 

 この作品の面白い点、特徴的な点は、ガス燈のシステム上の特性からグレゴリーの悪事が明らかになる点と、そのグレゴリーが妻のポーラに仕掛けてくるいわゆる「ガスライティング」と呼ばれる心理的虐待にある。

 

 グレゴリーは自分が家で主導権を握り、自由に立ち回れるようにするためポーラを手篭めにする。このやり口がマジで女の敵だと想う。分かりやすく蹴る殴るの暴力を使ってくる、めっちゃスケベ心をぶつけてくるという従来の女の敵と呼べるやり口ではない変わり種の攻め方が「ガスライティング」である。

 

 ある意味洗脳的なもので、ポーラの身の回りの物を隠したり、自分で作り上げた嘘を相手に事実と思わせるなどして、最終的にポーラは自分に物忘れや虚言、妄想などの癖があると信じるようになる。少しずつ相手の精神を汚染していくグレゴリーのやり口は恐ろしい。途中でポーラが可哀想になる。

 

 記憶に残る映像といえば、ポーラを言い責める時のグレゴリーのあの冷たい目。まず怖いし、次にムカつく。この俳優は良い演技をしている。

 

 とかく男は女よりマウントをとりがちだが、グレゴリーのやり口は自分が格上であるとガンガン言ってくるのではなく、少し角度を変え、相手ににいかに自分が信用のない正気を失った人物かと自覚させることを目的としている。自分を上げるのではなく、とことんまでに相手を落とす心理的攻撃が見られる。心理戦に長けたグレゴリーのやり口は頭が良いが、それだけにえげつない。

 

 結局のところ、犯罪者が自分の罪がばれないよう人を欺く行為に出ているわけだが、他作品ではあまりみない特殊な欺き方だったのが激しく印象的だった。人の勘違い、思い込みに漬け込んだ興味深いトリックだった。

 

 若手刑事のブライアンが無事事件解決まで辿り着くが、それまでは迷宮入り事件となっていた。トリックを見抜いてグレゴリーの正体を知ったブライアンが「なにが迷宮入りだ?」と独りごちるが本当にその通りだと想う。だって犯人が犯行現場の家に住んでいるのだから、警察はもっと頑張れよとも思った。

 

 ずっと悪い夫のグレゴリーにしてやられていたポーラが、ラストでは正気を失ったという自分の設定を活かしてお縄についたグレゴリーをぎゃふんと言わせる展開が爽快だった。

 

 事件に関しては蚊帳の外の存在ながらも、なんだかんだで最初からラストシーンまで出ていた老婦人が可愛くて面白い。良いキャラだ。ポーラとグレゴリー、ポーラとブライアン、それぞれのラブシーンを覗いて「まぁ!」とか言うのが面白かった。恐ろしい事件を扱った作品だけど、最初と最後にこの夫人のコミカルな要素をぶっこんだことで、つかみと後味が良いものになっていた。

 

 メイドのナンシーとエリザベスも無駄キャラではなく目立っていて良かった。

 特にナンシーの舐め腐った感じの態度が印象的。これはおもしろい役どころだけど私にこの感じで接してきたらクロスチョップをお見舞いすることになりそうだ。そんなムカつくナンシーもお気に入りのキャラである。

 

 

 キャラも良く、事件の内容も興味深いもので、古典的サスペンスとして名作としかいいようがない。人生2回目の視聴だが面白く見れてまったく退屈しなかった。

 

 今日にも生き残っているグレゴリーのような心理的DV男はクロスチョップで滅殺だ!

 

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