こしのり漫遊記

どうも 漫遊の民 こしのりです。

倫理観はさておき、覗きは最高の暇潰し「裏窓」

「裏窓」は、1954年に公開されたアメリカ映画。

 

 だいたいのヤツがカレーが好き。みたいな感じで、映画を見るヤツのだいたいに好まれるのがアルフレッド・ヒッチコック。そんな彼が手掛ける見せ方としては地味だが、技法としては最良なものをぶち込んだ名作サスペンス映画、それが「裏窓」である。

 

 1954年と言えば、日本でゴジラ一作目を公開した年でもある。ゴジラと同じ年の作品かと思うとなんだか感慨深い。白黒映画のゴジラをやっていた時に、こちらはカラーで随分ポップな作風に仕上がっているなと思える。というかめっちゃ古いんだな。

 

 この作品、実は人生の中で3回も見た映画である。

 いぶし銀とでもいうのだろうか、ずっと部屋から近所を覗くだけの舞台固定型作品で、舞台がコロコロ変わる視覚的な刺激無き地味な作りなのだが、実に味わい深くてとにかく好きな映画なのだ。

 

 そんな訳で、いつまでも心に残しておきたい「裏窓」という素敵な一作があることを語りたい。

 

裏窓 (字幕版)

 

 カメラマンをしている主人公ジェフは、足の骨を折ってしばらくは車椅子生活を余儀なくされている。

 そんな車椅子生活はとにかく暇。なので暇潰しにすることと言えば、向いのアパートに住む住人たちの観察。カメラマンだからこそ持つアイテムのカメラの拡大レンズ、双眼鏡なんかまで使っている。

 本作はそうしてご近所を眺める、または覗くに始まって終わる作品である。

 

 ある日、観察対象となる向いのアパートの夫婦の内、嫁の方の姿が見えないことにジェフは気づく。そして夫は夜中にこっそりどこかに出ていったりして、言動が怪しい。これは嫁を殺して高跳びするつもりだと思ったジェフは、恋人のリザ、訪問看護師のステラの協力を得て夫の調査を行う。

 

 何気なく始めた覗きから近所の異変に気づき、物語は進んでいく。

 調査と言っても、ジェフは足を骨折していてずっと部屋から出ない。安楽椅子の上にいるだけでも事件を推理してしまうホームズ的な要素を見なくもない。いや、それは違うか。

 

 シナリオとしても最後までどうなるかと続きが気になる面白さがあるが、特筆すべき面白き点は、見せ方の技法にある。ほぼ全編に渡って、ジェフの部屋から見える風景が見えるばかりの作品になっている。カメラはジェフの部屋に固定されたままに話が進む。オチの一部を覗いてずっとこのテイストで攻める。

 カメラマンがあちこちを移動すること無き省エネ手法。ゆえに内容を伝える力を強く発揮しなければならない。

 

 裏窓から見える風景で、向いのアパートに住む人間達のアクションを全て見せているやり方は上手い。

 ジェフが観察ターゲットにするのは、嫁を殺した疑いのあるラーズだが、その他の部屋の住人の生活も窓からしっかり見えている。

 

 普通に自宅窓から他人の家の窓の中を覗くジェフの倫理観もどうかと思うが、それにしても皆さんの生活がオープンすぎる。

 劇中では気温が30℃前後の暑い季節に設定されているからだろうが、住人達は窓全開、カーテンもオープン。これは見放題だ。ベランダの外で寝ている夫婦なんかもいる始末。

 開放感ある時代性、そして人間性がここにある。古き良き時代だったんだろうな。今ならこの不用心はないだろう。

 

 ジェフの窓から見える向いのアパートに暮らす面々はユニークで面白い。

 犯人のラーズのみならず、セクシーな踊り子のミス・グラマー、独り身に嘆くミス・ロンリー・ハート、売れない音楽家などなど、本筋に絡まないユニークなおまけキャラがたくさんいる。このおまけキャラのオンパレードも作品の魅力。名前のあるメインのキャラだけで言うと実にキャラの少ない作品だが、何気にモブはたくさんいる。

 

 ベランダに滑車をセットし、犬を乗せたバスケットを高いところから上り下りさせる家庭がある。あれは今時ならバエルとか言われる面白いものだろうけど危ない。この犬は中盤で犯人に殺されるし。

 

 ジェフの看護に来るベテラン看護師のステラは、エッジの効いたブラックジョークを次々放つ強かな女性で良いキャラをしている。いつの時代もこのくらい図太くないと看護師なんて簡単ではない業務はスマートにこなせないようだ。

 

 恋人のリザに対して、カメラマンとの暮らしは一般人向けではないと言って結婚に待ったをかけるジェフの困った言動が見られた。結婚に待ったをかけるけど、別れたくはないらしいジェフを見ては、さっさとリザをもらってやれやと思えた。向いの殺人者を何とかする傍らで、主人公たちの複雑な愛のやり取りも展開される。いつの世も男女関係は複雑なのが常であり、未だスマート化には至らないと分かる。

 

 ジェフが怪我人で動けないことを逆手に取った演出がとても良い。

 動けないジェフに覗かれていていたことに気づいたラーズが、ジェフの部屋に乗り込んで来る後半シーンにはハラハラさせられた。

 ここで印象的なのは、カメラマンだからこそ放てる必殺のフラッシュ攻撃。車椅子で動けないし戦えないジェフが、相手の目を眩ませるためにフラッシュを焚きまくる描写はハイライトシーンになっている。フラッシュの眩しさを演出するために画面が赤くなるのは、アナログな仕掛けで時代を感じる。

 

 最後はラーズに追い詰められて窓から突き落とされる危険度マックスな流れに。

 しがみついた窓枠から手が離れてジェフが落下する時には、やや荒い合成チックな映像になっているのもまた印象的。

 

 ギリギリ救助が間に合い、一命を取りとめたジェフだが、後日片足骨折から両足骨折となって帰ってくることになる。これが覗きの代償か。

 足にダブルでギプスをつけて昼寝をしているジェフの横で、リザが雑誌を読んでまったりしているラストシーンはなんとも和むもので心に残る。

 

 ジェフが窓越しに見る世界で事件解決まで持って行くこのアイデアは凄い。視点切り替え無しで事件を追うこのやり方は難しかったと思う。

 部屋にいる中でも、ジェフの協力者の女性二人が、女性ならではの視点から、向いの奥さんの結婚指輪の在り処を割り出す展開などは、ミステリーをやってるぽくて良かった。

 

 面白い作品だが、考え方によっては、人のプライベートを覗きすぎなジェフ達もやや犯罪者チックなので、現代向けな作品ではないかもしれない。

 ラーズが犯人とは突き止めたが、窓越しの世界オンリーで詳しく事件内容に迫ることは出来ず、証拠提示や推理の面ではやや描き方が足りないかなとも思える。がしかし、そこは目をつぶっておこう。

 

 贔屓にする映画俳優をあまり持たない私だが、ジェフ役のジェームズ・スチュワートは以前からのお気に入りである。彼が出演した他作品にも名作が多い。ジェームズ・スチュワートが出ているという点でも思い出に残る好きな作品だった。

 

 

 骨折で家に籠もる人生を一生経験したことがないのだけど、その時に備えてカメラや双眼鏡を用意しておくのも良いだろう。もちろん覗き対象は空とか鳥とかのセーフなヤツにするので安心だ。

 

 

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