「めまい」は、1958年に公開されたアメリカ映画。
巨匠ヒッチコック監督作品である。
昔見たことがあるのだが、高所恐怖症の主人公が教会に登って自慢の「めまいショット」がお見舞いされるところくらいしか覚えていなかった。この度再度チェックしたところ、大変面白い作品だと改めて分かった。
というかこれも半世紀前の作品なのか、古いけどそこまで昔の作品とは思わなかった。
内容
刑事スコッティは、犯人追走中に仲間が転落死する憂き目に合い、それをきっかけに高所恐怖症になってしまう。同僚の死と高所恐怖症のため、スコッティは刑事を辞めてしまう。
そんなある日、スコッティは旧友から変わった依頼を受ける。先祖の亡霊が取り付いたために奇行に走る妻マデリンを尾行して欲しいという内容だった。
マデリンは海に飛び込んで自殺しようとしたり、昼間に街をブラブラしていた記憶がないなど、かなりオカルティックな現象に取り憑かれているようだった。
そんなマデリンを尾行し、自殺の途中に助けたりもする内に二人は恋に落ちてしまう。
しかしマデリンの奇行は止まらず、最後には教会に登って投身自殺してしまう。スコッティも教会の階段を駆け上がって止めようとしたが、高所恐怖症のめまいに襲われて階段を登りきることが出来なかった。
マデリンの死から精神的ショック受け、スコッティはリハビリを受けることになる。それから数日たったある日、スコッティは街でマデリンそっくりのジュディという女性に遭遇する。マデリンの影を見てジュディに接近し、二人は恋仲になって行く。
ある時、スコッティはジュディとマデリンが同じネックレスを身に着けていることに気づき、そこで事件のトリックを見破る。
顔がそっくりなマデリンとジュディの二人の特性を利用し、スコッティの旧友が妻殺しを行なったことが明らかになる。
全てを知ったスコッティはジュディを連れて再び自殺事件の起きた教会の階段を登る。
二人が教会に立ち入るのを不思議に思ったシスターが様子を見に来た時、シスターの人影に驚いたジュディは、足を踏み外して教会の屋上から転落してしまう。再び転落死を目の前にしたスコッティのバックで教会の鐘が鳴り響いて物語は終わる。
感想
これは以前見た「サイコ」同様、初見ではオチが見えないものだった。
スコッティが高所恐怖症なことと顔がそっくりな二人の女をトリックに利用した点が上手い。
マデリン、ジュディを一人二役で演じた女優の仕事ぶりがナイス。
スコッティに依頼を持ち込んだ旧友は、マデリンを消した後に街からも姿を消してそれっきり出てこない。作中では描かれなかったが、恐らくその後に捕まったのだろう。学生時代の昔のお友達から急に連絡が来たら何かあると疑ってかかった方がいいのかもしれないと思った。
最初こそ妻に亡霊が取り憑いたというオカルティックなミステリー展開で行くが、これがあんなオチに向かうとは予想がつかなかった。しかしこれを計画し、金を払ってジュディに奇行の芝居をさせた旧友はたちが悪い。
スコッティが高い所に登ると発症するめまいを独特なカメラワークで見せる技法は作品の目立ったポイントだ。私なんかは全然平気でむしろ高い所が好きなくらいだが、高所恐怖症の人だとこんな感じの違和感に襲われるのかとちょっとだけ気持ちが理解出来た。
精神を病んだスコッティが見る特殊効果を使った変な夢のシーンも印象的だった。
マデリンが海に身投げするシーンがあるが、演じた女優は泳げなかったらしい。酷なことをさせるよな。スコッティ役のジェームズ・スチュワートの救出が遅かったら危ないじゃないか。
結果妻殺しが目的だったから夫としてはそこはスルーでいいのだろうが、通常ならば夫から依頼を受けた調査員がターゲットである妻と恋仲になるのはダメだろうと思った。しかも友人の嫁だからな。
スコッティが調査中にマデリンを愛したように、マデリンの芝居をしてスコッティを騙すのが仕事のジュディもまた途中でスコッティを好きになってしまうラブロマンス要素にはときめくではないか。
マデリンと同じ服を与え、髪色、髪型も指定することでジュディをマデリンに近づけようとするスコッティの愛にはやや異常性を見ることもあった。
マデリンが死んだ教会に再度向かって展開するラストシーンが印象的だ。
事件が起きたここに再び戻ることで、忌々しい過去から自己を解放し、高所恐怖症も乗り越えるスコッティの勇ましい戦いが見れる。
結果としてはあの憎たらしい夫と共に自分を黙していたジュディに怒るスコッティだが、一方で彼女に向いた愛も本物ということで、全てが明らかになった後には再び熱き抱擁を交わす。酷い仕打ちではあったけど、愛したからにはジュディのことも許すわな。
謎の事件が丸っと解決し、一旦こじれたラブロマンスの方も綺麗に完結すると思ったたらそうは問屋が卸さない。最後にはジュディまでが死ぬというまさかのキツイどんでん返しが仕掛られていた。まじで突然すぎる死で、スコッティが呆然として転落したジュディを見るのも分かる。これがこの作品の後味が悪いところで、ゆえに名作として強く記憶に残る要素にもなった。
犯罪の片棒を担いだという罪悪感があっただけに、ジュディには自分に近づくただの人影が恐ろしいものに見えたのだろう。ジュディが必要以上にシスターの影に驚いたのはにはそういった心理が反映されていると分析出来る。
しかし残されたスコッティが可哀想。また精神を病んで病院送りになり、以前よりも高所恐怖症がひどくなりそう。結果として愛した女を二度失ったことになる救いのないラストだった。
スコッティがヒロインと二度恋をし、二度転落死を迎えることになる二段構えの悲劇の構造が上手い極上のミステリーを味わえた。
スポンサードリンク