「アビス」は、1989年に公開されたアメリカ映画。
本作には劇場公開した140分のもの、後に未公開シーンを贅沢に追加した170分の完全版のツーバージョンが存在する。見るなら当然完全版。今回見たのは完全版の方である。約3時間もあったからなかなかのボリュームに疲れもしたが、しっかり楽しめた。
令和に入ってちょっとの段階で見た平成一年目公開作品である。前時代最初期のヒットSF映画と思えば、なかなか感慨深いものがある。これが平成初期作品の貫禄か、と思わせてくれる素晴らしい作品である。
この映画はテレビで何回か放送されているので、7、8年くらい前に一度見たことがある。だが、結構内容を忘れていた。パッドが片道切符と分かった状態で深海に潜る後半シーンのみ怖かったからよく覚えている。
母なる海というくらいだから、我々の生命の根源は海にあった。しかし、これがよく分からない世界でもあるといえる。故に興味がわき、そして恐怖もするのが海の底の世界。本作は深海の底も底に迫る物語になっている。やはり深海は興味、恐怖、ロマンなどの対象となるコンテンツなのである。そんなわけで、深海を目の前にすれば少年心も復活し、結構なお兄さんになったけどドキドキワクワクしながら本作を楽しんでしまった。
すっかり古い映画だが、前時代初期のものだという古臭さをそれほど感じさせない面白いSF作品だった。
内容
物語の取っ掛かりは、海底で原子力潜水艦が事故を起こして行方不明になってしまうこと。主人公のバッドら海底油田の海中採掘チームは、事故を起こした原子力潜水艦探索のため海溝「アビス」を目指す。そこでバッドらは海深くに住む人間ではない謎の生命体との遭遇を果たす。都会的ですぐれたデザイン性がよいから
感想
作品がスタートすると「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」というニーチェ氏の有名な文句が表示される。一発目にこのメッセージを持ってくるということで、きっと何か深いメッセージ性を秘めた作品なのだろうと予想することが出来る。
やはり海底を映すシーンは迫力があって魅入ってしまう。海溝ってやっぱり怖いなと思える。
海底で作業するマシンがすごい。登場マシンはフィクションなのか、それともマジで現場で使われているのか分からないが、とにかく潜水艇から発進する海底作業用マシンの技術がすごい。中盤はこのマシン同士でのバトル展開もあったが、あのシーンも迫力があって楽しめた。
作業用マシンに乗り込んで働くワンナイトの顔が、マテンロウのアントニーぽかった。ちょっとかわいい。
マシンにラジカセを搭載して皆で歌いながらご機嫌に働くシーンは良い。仲良しホワイト企業の感じが見て取れる序盤シーンは印象的だった。
酸素を含んだ特殊な水みたいなのが出てきて、これを使用して水の中でも呼吸できるようになる。ネズミで実験するシーンでは溺れて死なないのかと心配になった。なんかすごい技術が出てきたのも印象的。
ロマンたっぷりの深海世界とそこで機動するメカ達の仕事ぶりを迫力満点に見せるのが楽しい要素だった。
海の底で楽しめるヒューマン・ドラマもある。
バッドとリンジーの複雑な夫婦関係を持ち込んだ深海のラブ展開も楽しめた。
リンジーと別居しても未練があったので結婚指輪をしたままだったバッドが、ちょっとした喧嘩で一度は便器の中に指輪を捨てるシーンがある。だがその後、頭を冷やすとやはり大事なアイテムだと気づき、便器に手を突っ込んで回収するところなどは実に等身大の人間感があって良い。結局好きなんだってことが分かる。
ここで回収した指輪のおかげで、この後の火事騒ぎ時には扉に指を挟まれることを回避出来る仕掛けがまた良い。
戦争の傷跡が見て取れる展開も印象的だ。
パッド達に同行して深海に潜った特殊部隊の男は、原子力潜水艦が沈んだのはソ連の攻撃を受けてのことだと信じ切って、とにかくソ連を恐れ、そのことにばかり執着する。
中盤からはアクシデントが起きて深海から海上に上がれなくなり、潜水艦の中に閉じ込められてしまう。命の危険がある状態で密閉された空間にいる、日常生活を大きく離れたこの状態が、特殊部隊の男の精神を徐々におかしくしていき、やがては暴走してしまう。
狂った男が、沈んだ原子力潜水艦から持ち帰った核弾頭を海溝深くに打ち込むという暴走行為に出て、一行がそれをなんとか止めるというパニック展開に入って行くところには興味を惹かれた。
下手をすれば自分達を含め、辺り一帯が吹っ飛ぶ危機を回避するミッションを行う展開はハラハラするものだった。
最も注目すべきは、実は海の底に住んでいた謎の生命体の存在にある。くっきりはっきり輪郭や全体像が分かるものではないが、とにかく人外なのは確かな生命体と遭遇することになる。
この謎の生命体の描き方が特殊なのが一番記憶に残る。当時最先端のSFXを用いての演出は現在見ても違和感なく普通に「すげぇ」と思えるものだった。
映画「バックドラフト」では、まるで意志を持って生きているような炎が見られたが、今作では謎の生命体によって深海の水が生きているように動くシーンが見られる。潜水艦の中を筒状に伸びた水の塊が移動するシーンは他では見られない不思議な一面だった。このシーンの描き方にはかなり力を入れているらしい。水面がリンジーやバッドの顔を模写するシーンもとにかく不思議だった。
先に核が絡んだ深海での騒ぎのことを明記したが、そんな核の使用などをはじめとして、地球を汚染してきた人類の歴史を謎の生命体は深海から見ていた。バッド達が深海にいる間、彼らは一度は津波を起こして地上の街を襲おうとした。人間ではない者に、人間の地球での過ごし方の不得手を責められる、この点には反戦思想や自然保護などのメッセージが見て取れる。海に潜ってなんか楽しいことをやる映画と思ったら思わぬ重きメッセージ性が込められていて考えさせられる。
海の底から人間の愚かしい歴史を見つめているという点で「ウルトラセブン」のノンマルトの使者を思い出す。
そうして陸上で悪さをする連中がいる一方、海溝深くに落ちた核弾頭を処理するため、バッドが単身ダイブする姿は勇ましい。潜って作業しても、潜水艦に帰ってくるエアーはないという片道切符の戦いに出る展開にはマジで怖いと思った。たくさんアクシデントがあっても怯まずに対応していくパッドの対応力の高さがよく見られた。
30年前の作品でも地球を大切にと言ってるのだ。
海は地上の民をきっと見ている。
地球を綺麗に、心も綺麗に生きよう。
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