こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

ふたつの沖縄魂がヒーローを支える「ふたりのウルトラマン」

 2022年5月2日、つまりは昨日放送されたドキュメンタリードラマ「ふたりのウルトラマン」をしっかり見た。これが熱いヒューマンドラマになっていて結構楽しめた。

 

 今年は1972年の沖縄返還から数えること50年目。まずはその観点から沖縄の歴史をテーマにしている。そして沖縄から放たれた二人の作家が支えたヒーロー「ウルトラマン」の歴史にも迫る。ウルトラマンが好きならこれは見るわな。

 

 どちらも古い話であり、双方テーマについてリアルタイムで何かを知る事はなかった。でも「沖縄返還はいつ?」という問題なら学校のテストに絶対に出て来たやつだし、ウルトラマンは学校では習わないけど我が家の英才教育プログラムに組み込まれているのでめっちゃ知っている。元から知っていたそれらを、このドラマを見て更に深く知れた。よき気付きと学びがあったと思う。

 これはBSPで取り上げるだけのお勉強要素もあって良かったのではなかろうか。

 

 金城哲夫上原正三、二人の沖縄出身の脚本家の人生をメインにウルトラマンと沖縄の歴史が語られる。

 

 上原正三なんてあれこれの特撮を見ていればテロップに何回も出てくるので、脚本家なんて何をするのか知らないし興味もないっていうガキの頃からだって字体を覚えているくらいだった。よく名前を見る人だが、まさかウルトラQの頃からだって仕事をしていたとは知らなかった。そんなに古い人間だったのか。

 

 上原と金城が沖縄語でやり取りするシーンが多く見られる。そこは丁寧に字幕がついていた。「ちゅらさん」とかを見た関係か、意味は知らないけどなんか聞いたことあるなってフレーズもしばしば出て来た。こういう現地言葉も知れば面白い古からの文化だよな。

 

 ウルトラQウルトラマン、セブンの映像も出しつつドラマが進行した。やっぱり怪獣もヒーローも良いな。魂が震える。

 社会的テーマを盛り込んだセブンは子供に難しいとされたらしい。でもあれは見世物として完成されている。チビの時にも見たが、大きくなってまた見るとセブンのメッセージ性は深く大人向けだと分かる。

 ちゃぶ台前のメトロンの有名なシーンも出ていた。あの回では、怖い作戦内容をあくまでも穏やかに聴かせるメトロンが不気味に思えた。人類なんて愚かでバカだから分かりやすく暴力に出ずとも自滅に導けばよい。そんな事を考えて地球を狙ってくる。敵も頭が良いから怖い。

 タバコに発狂成分を潜ませ、吸った人間が狂って暴れる。メトロンはそんな作戦に出る。普段は正義の人をしている優秀なウルトラ警備隊メンバーも、そんな悪のタバコの魔力で野蛮人と化す。チビだった私は、コレを見て恐ろしくなったことから、大きくなってもタバコは吸わないと誓ったのだ。今でも吸った事はないし、そこに割く金と時間の都合もつかない。

 セブンがめっちゃ好きなので、セブンで言うとギエロン星獣やノンマルトの使者のエピソードでも、難しくも深い社会性あるテーマを用いていたと記憶が蘇る。セブンはすごいなぁ。

 

 ちょっとだけマイティジャックの話題も出ていた。怪獣メインではない硬派なSF展開で魅せたマイティジャックは、ウルトラマンと違って数字が出ず、会社が赤字に追い込まれることになったと分かった。

 マイティジャックも親にビデオを見せてもらっていたが、あれはあれで良かっただろうが。あれも一応ウルトラシリーズの仲間に入れて問題ない良きものだったじゃないか。そう思う人もたくさんいるはず。

 それにしても会社がそこまでやばくなる失敗のプロジェクトだったのか。長い歴史だもの、会社の浮き沈みだってあるよな。

 子供の時なら絶対に分からない大人の都合も見えたな。

 

 ドラマの中では、怪獣の気持ちに寄り添ってクリエイター達があれこれ考えている様子が描かれている。ウルトラマンはそこが違うよな。主人公が正義の人であるのはあたり前。かといって怪獣が全部悪者かと言えばそうではない。怪獣も思考し、理由があって行動し、そして人間と同じく泣く。脚本の中で怪獣を泣かせたいと考えるクリエイター魂が見えたのは印象的。

 怪獣を殺してしまうのか、その道以外を選ぶのかっていう事も作家達はたくさん考えている。巨大雪男のウーのエピソードが例にあがっていた。人間のために骨を折ってくれるいいヤツもいるからウルトラマンは深い。

 

 ああでもないこうでもないと皆で集まって熱く論じるあの感じがなんだか良いんだよな~。そりゃあんな事をすればいくらかは揉めるが、そこを越えて深まるのが良い。共同で物を作る良さも描かれている。

 

 仕事については厳しく言い合う金城と円谷一だけど、二人で良いものを作りたいという想いは重なりあっているというのが見える点が良かった。本当のところはとても仲良しな二人の関係性には男の熱い友情を見た。円谷英二が惚れたかぐや姫の世界を自分たちの力で作ろうと酒を飲んで語り合う二人の感じがなんだかいいな~と思う。めっちゃ青春していて楽しいそうなシーンも見えた。

 

 子供番組は「ジャリ番」と揶揄されていたと分かる。初めて聞いたワードだな。 

 職人達は、子供達の未来を希望で照らすために奔走している。偉いよな。作っている人間達だってちょっと前まで子供だったのだから、その学びを経てしっかり作っているなと実感出来た。

 実際子供はそこまでバカじゃないから「子供騙し番組」といっても、子供は簡単には騙せないと作中で語られている。これは良い点をついているよな。

 子供は知識が少ないけど感性が豊かだから、ある分野では騙しが効きづらいとも言える。特撮魂として良い事言ってる。

 

 沖縄からやってきた仕事人ってことで、内地の人間には上原が結構珍しく見えたのだろう。沖縄は国内か外国か、遠くで暮らすよそ者達にとってはそこら辺の定義があやふやだったみたい。沖縄人は日本人なのかって尋ねられるシーンもあった。

 考えて見れば不思議な感じがするな。私にとって沖縄とはテレビで知るのみの世界であり、一度も行ったことがないし、今後も行くことはないだろう。日本地図の端っこにあることから「外国」のワードを想起する事はなくとも、国内だと強くイメージすることもなかった。

 安室ちゃんなんかが出て来た時には、ファッションやスタイルから外国人のお姉さんみたいだって思ったくらいだから、知らない人はなんとなく外国とは言わずとも遠い場くらいには思っていたのだろう。

 

 沖縄から来てそういう事を聞かれたら、悪意は無くとも差別が働いていると思うだろう。上原がちょっとムッとしちゃうシーンがあったのが印象的。時代柄なコミュニケーションだよな。今ならこんな事はないだろう。

 

 印象的だったなというのは、上原も金城も沖縄に愛着を持っていること。だからこそ変に差別の目で見られると嫌だったのだろう。金城は最後まで沖縄にこだわる職人だった。

 私は故郷に対して極めて愛着の薄い人間だが、ああも故郷を愛して働けるスピリットは清くて良いと思える。

 

 金城は沖縄返還記念の式典を日本とアメリカの架け橋とするため、プロジェクト成功のために奔走する。しかし良かれと思ったその取り組みが地元民からはよく想われていないことで険悪なムードにもなったという。

 まずそんな式典があったんだと初めて知った。参考資料として当時の映像が流れていた。貴重だな。こういうのは地元民の魂の問題に触れるから方針をどう取るかで揉めることもあるだろうな。色んな人の想いが交錯した上に成る随分複雑な問題だったと分かった。

 

 晩年の金城のエピソードには痛ましい点もあった。仕事をはじめ私生活が上手く行かずアル中状態になっていた。古い映画の「失われた週末」を思い出す感じになっているな。そういえばこのドラマは酒を飲んでいるシーンが多かった。美味そうに飲むからちょっと味も気になるってもの。

 

 沖縄も特撮も、そしてもっと規模を絞ってただの一人の人間にだって歴史あり。そんな事が分かる。

 歴史を上手いことまとめて伝える技術に長けるNHKならではの良さが見えた作品だった。

 私はウルトラマンが好きだからコレを見たワケだが、改めてウルトラマンっていいなって思えた。やっぱりQ、マン、セブンの初期3作は永遠に嗜好だな。特撮の基礎にして究極が含まれている。

 ウルトラマンもそうだが、コンテンツを支えた二人の沖縄人の熱き魂も称えたい。

 

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