こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

突然提案の交換殺人「見知らぬ乗客」

「見知らぬ乗客」は、1951年に公開されたアメリカ映画。

 

 最近はアニメやゲームでお楽しみだったが、ここへ来てふとゴリゴリの古典映画が見たくなった。そこで日々大昔の映画を流しているBSプレミアムにチャンネルを合わせると、こんな素敵な作品に出会えた。

 BSプレミアムってとにかく古く、それでいて大きく外れのない無難な名作を選んで来るから優秀だよな。懐古主義者が爆発的に元気になる成分をここに求める事が出来る。同時にビギナーにとっては映画入門に丁度良いチャンネルとも言えよう。

 いつも思うけど、誰がどうやって何を流すのか選定しているのだろう。放送作品を選ぶセンスは結構良いと思う。

 

 見知らぬ映画だったので今回が初視聴。だいたい70年前の映画とか古すぎる。関わった人間のほとんどが今ではあの世だろうな。

 

 ヒッチコック監督作品のサイコスリラー映画で大変面白い。ヒッチコック作品の醸す独特の恐怖感、狂気性、そしてバエる撮影技術は時代を越えてクセになる。

 

 だいたい100分くらいで落とす構成も疲れることなく見やすいもので良かった。

 BSプレミアムってヒッチコック好きだよな。ここ数年でよくヒッチコック作品を流しているイメージがある。そこはありがとう。

 

見知らぬ乗客 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

 

 まずお話のとっかかりから興味深く、スムーズに物語の空気感に飲まれていく。ヒッチコック特有の怪しげで危なげな雰囲気漂う導入になっている。この点は良し。

 

 再婚したい女性がいるのに、今の嫁が離婚を認めないことで困っているイケメンテニス選手のガイは、旅先の列車の中でブルーノという見知らぬ乗客に声をかけられる。ブルーノは自分が嫁を消してやる代わりにガイには自分の父を始末してくれと頼む。

 誰かが死ねば近い関係の人間が疑われ殺人がすぐばれる。しかし互いがそれまでの人生の中で全く関係しなかった他人をを殺せば足がつきにくい。そこを突いてブルーノは交換殺人という闇の交渉を仕掛けてくる。

 よくもこんな事を思いつく人間が出て来るお話を思いついたものだと作家のアイデアに感心する。

 

 バカが冗談言ってるくらいに思ってガイは交換殺人の提案を無視するが、ブルーノは勝手に計画を進め、ガイの嫁のミリアムを殺してしまう。そうなると約束を守って次はガイが自分の父を殺す番だと脅しをかけてくる。ストーカーのように尽きまとってガイを交換殺人の共犯者にしようと迫るブルーノには狂人めいたものを感じた。

 

 ミリアムは確かにムカつくクソ女だったが、それをさっくり殺してしまうブルーノは怖い。

 ミリアムを殺ったのは夜の遊園地でのこと。どうやら恋人達のスケベスポットも兼ねるアミューズメントパークらしい。

 

 スケベスポットのトンネルでのシーンをミリアム達の影で映す点は映画テクニックだな。もっと印象的なのは、ブルーノがミリアムの首を絞め殺す場面を、地面に落ちたミリアムのメガネに反射させて映すテクニック。この技はこの作品が世界初なのか。普通に三人称視点でそのまま映すのではなく、メガネ越しに見せるのはなかなか思いつかないグッドアイデアだな。

 殺人シーンもおしゃれな技法で見せた点については、プロの発想からなる技だなと感心するしかない。事件性として興味深いものがあるが、ところどころに見える撮影テクニックも見所だった。

 

 ブルーノはガイとアンのデートやテニスの試合にも顔を出してストーキングしてくる。怖いしウザいなぁ。

 父の寝室まで侵入する鍵、地図、始末用の拳銃、殺しのアイテムを少しずつガイの家に送ってくるブルーノは怖いしムカつくなぁ。

 

 ガイのテニスの試合の観客に混ざっているブルーノだが、他の客がラリーを追って左右に首を振る中、ブルーノはガイだけをまっすぐ見ているのが不気味だった。でもシューツで面白いシーンでもある。

 ここは作中でもかなり印象的なシーンだった。ブルーノが完全にガイをロックオンしていると分かる点にゾッとするものがあった。この気持ち悪さがかえって気持ち良くなる見せ方はすごく良い。すごく好きな演出だった。

 

 ガイの様子がおかしいと気づいたアンは、得られる情報の限りで推理を行い、自力で事件の真相にたどり着く。賢い女だな。

 この賢そうでお目々パッチリなヒロインは、気味が悪い話の中に置けば更に光って見える良い配置だったと思う。

 

 アンの妹のバーバラとミリアムが似ていることから、殺しの記憶がフラッシュバックしてブルーノの精神に乱れが出るシーンが印象的。それにしても何でアンの妹とミリアムがあんなに似ているのか。アンの姉妹が似ていないんだよな。

 

 ガイは何もやっていないのに騒ぎの中心にあるから胃が痛くなる状態にある。周囲の人に迷惑はかけたくないから本当の事が言えず、そんな中で警察にマークされ、一番やばいブルーノにも迫られる。無実なのに証明する術もないからどうなるのだろうとハラハラする。

 

 途中で出てくる大学教授がガイのアリバイを証明してくれる心強い人物になるかと思いきや、酒を飲みまくっていたため記憶が飛んで役に立たない。このアクシデントが話をややこしくしてくれるエッセンスになっていた。酒なんて飲んでないで記憶しとけやおっさんとツッコんでしまう。

 

 テニスの試合をさっさと終わらせて遊園地に行きたいガイの焦りが濃く見える後半シーンにはこちらもハラハラした。ブルーノの動きが気になり、警察が見ている中でのプレイとなるから、結構なメンタルが無いと勝利出来ないだろう。あの状況でちゃんと勝つからすごい。

 

 終盤になるとガイ、ブルーノ、警察連中の皆が事件の始まりの場所となる遊園地に集結する。やはり最初の現場が最後の戦いの地になるのか。ここら辺はワクワクする。

 ブルーノが勝利の鍵となるライターを一度は手放してしまうアクシデントも挟みつつハラハラ状態に入っていく。

 

 最初の遊園地のシーンでブルーノを見て「はてな?」といった顔をしたスタッフのおっさんがここで再登場。最後まで待ったココで序盤のシーンが生きてくる。ブルーノが犯人だと見抜いたのがこのおっさんだった。

 そしてファイナルバトルは暴走メリーゴーランドの上。回転する舞台の上で取っ組み合うガイとブルーノ。そんな大事件の横で、馬に乗っている子供はめっちゃ楽しそう。

 警察がメリーゴーランド操作を行うおっさんを撃ったためにこんなことになったんだよな。そこはツッコミ要素。そんなに急いでぶっ放すなや。

 メリーゴーランドの下に潜り込んで操作装置を目指すおっさんを見て「はよっ、急げや」とこちらの気持ちも急く。考え方によっては、この潜り込みおじさんが何気に作中のMVPかもしれない。

 

 最終的にはぶっ壊すことでメリーゴーランドは停止。悪魔の使いのようなブルーノはその下敷きになって死んでしまう。最後までガイをはめようとムカつく嘘の演技に出たのが憎たらしい。恐ろしい男を始末出来て無事全てが解決。良かった。

 

 中だるみなくスピーディーに見れて面白かった。これは傑作だわ。

 親に勧めたいと思って話したところ、お前よりずっと先に生まれてもう見たわいって返された。そういやウチは映画好き一家だった。

 

 同じヒッチコック映画の「めまい」を見た時には、学生時代の級友が久しぶりに連絡を寄越して来たら何かあると疑えと学びを得たが、こちらでは旅先で会った知らないヤツとは必要以上に親しく口を利くべきではないと学んだ。それからライターは置き忘れるなということも。ガイがライターの忘れ物をしなかったら、未来は変わっていたかもしれない。もひとつおまけに、離婚でゴタゴタ揉めるような面倒な女とはそもそも一緒になるなってことも今回の学び。

 ラストでアンとガイが列車に乗っているシーンではその反省が見え、見知らぬ乗客に声をかけられてもガイは口を利かずにその場を去る。この平和はオチにはホッとするものがあった。

 

 

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