こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

重いドラマ性に見応えがある「鉄人タイガーセブン」

「鉄人タイガーセブン」は、1973年10月から1974年3月まで放送された全26話の特撮ドラマ。

 

 いきなりだけど、人生ここへ来て改めて特撮が良い。それもうんと古いの。

 ここには夢を売るロマン、それを最大限魅せる工夫が詰まっている。当時の職人達の熱意の集合体がこんな古い作品に詰まっている事に感動する。

 この時代の作品を見れば、古い人間が作った古い物なんだけど、しっかり今を生きている人間の熱を感じる。だから昭和特撮は良い。そんなことを言う一方で仮面ライダーバイスとかの最新の物も見て楽しんでいるんだけどね。別に今を否定する訳では無い。

 懐古主義にも浸れば、今日放送の物だって見る。温故知新の心得があれば人生は楽しいのだ。

 

 とかなんとか想いつつ見た古のヒーロー「鉄人タイガーセブン」が面白かった。これは味わい深い一作だ。

 

 ネコ科の獣マスクをしたヒーローなら「快傑ライオン丸」「風雲ライオン丸」が先にいたが、これもその系譜を辿って誕生したテイストのやや異なる一作。

 顔はトラ、その下は青のスーツ、グローブとブーツは赤い。先日見たスパイダーマンとメインカラーは一緒だった。このキャラデザは今見ると結構衝撃的。

 

 本編を知りもしないのに、その昔にはタイガーセブンの200円ガチャポンフィギュアを親から与えられて遊んでいた。手が通常モードとファイトグローブで付け替えれる仕様だった。付け替えパーツも失くさないようにして今でも持っている。

 そんな名前と存在のみを知っていたタイガーセブンをしっかり全話視聴出来て嬉しかった。

 

内容

 物語の最初の舞台はなんとサハラ砂漠

 滝川博士達探検隊は、ピラミッドの奥底に封印されしムー一族についての調査をしていた。ピラミッドの奥の扉を開けることで、1万4000年前に地下に閉じ込められたムー一族の封印が解かれてしまう。ここから、自分達を地下に封印した人類に対するムー原人の逆襲が始まるのだ。

 

 恐ろしいムー原人の内の一人砂原人は、人間の心臓を取り出して殺すというエグいやり口のハンターである。

 オートレーサーの主人公青年 滝川豪は、砂原人に心臓を抜かれて死んでしまう。そこで父の滝川博士は、人工心臓を移植して息子を死の淵から救う。

 手術後、豪はエジプトの守り神(トラ)を模したお守りペンダントを父からもらう。このペンダントが不思議な力を発して豪は鉄人タイガーセブンに変身するのだ。

 

 遺跡調査中、滝川博士達調査チームはムー原人に皆殺しにされる。父の無念を晴らし、地底から始まる地球侵略を食い止めるためタイガーセブンは戦うのだ。

 

感想

 サハラ砂漠の遺跡調査から物語が始まるという開幕展開は興味深い。なんと壮大。

 封印されていた連中を見れば、あんな危ないのは1万年でも2万年でも封印決定だなと思える。

 調べたところによると、実際にそんな遠くに行くわけもなく、撮影は国内の砂丘で行ったのだという。そしてバックのピラミッドは上手いこと合成している。夢の膨らむ世界を映し出すための工夫が出来ていて良いではないか。

 

 ゴレンジャーのように序盤数回分の怪人は一気に情報解禁スタイルになっていた。

 初回から登場のマグマ原人や河童原人、ミイラ原人らは、どれを見ても普通にキショい。ミイラ原人ってムー原人を地底に置いておけば普通に出来上がる産物じゃないのか。

 タイガーセブンだってヒーローにしては結構歪なデザインだし、そこへ来て敵は怖くて不気味。特に敵キャラは子供達から人気がなかっただろうな。幹部クラスの黒仮面が1番まともな見た目だったかもしれない。

 ギル太子の無って感じの表情も不気味。

 ボスのムー大帝は脳髄のみで生き残っている状態だが、それだけの姿でも帝国全員を支配して指示するだけの念力を持っている。ボスが脳みそだけってのも子供向きにしては怖いよな。

 

 結構尖った所や硬派な所もありの作風が他とは違う要素として楽しめる作品だった。

 

 豪はタイガーセブンに変身出来る事を味方の高井戸研究所の皆にも敵にも伏せている。

 多くの特撮モノの仕組みとして、ヒーローが戦っている肝心な時に主人公の姿が見えないのは暗黙の了解として登場人物も深くツッコんでこない。だって主人公=変身ヒーローなのだから。

 でもタイガーセブンでは、豪がいなくなってタイガーセブンが出てくる事について作中キャラが触れてくるというある種のタブーを含むドラマ展開が見れる。

 戦いの途中で姿が見えなくなった豪の事をビビって逃げたと北川が罵るシーンがある。もちろん変身を見られないために隠れたわけだが、それを言えないので豪は罵りを受け止めることしか出来ない。こんな感じで、正体を言えないことために豪が苦しむ事が結構ある。

 

 高井戸研究所のメンバーでムー原人討伐に当たることになる。

 高井戸博士は協力を得るため、早い段階で政府に原人達の存在を報告している。OPで高井戸博士が国会議事堂に向かうシーンがあるが、多分その時に報告を終えているのだろう。

 怖いことに、話を聞いても誰も原人の存在を信じてくれない。警察やその他の人物に話しても信じてもらえず「気違いだ」と言われ一蹴される。

 父の北川博士が砂漠探検に出たことについても、新聞では気違い博士と揶揄されていた。

 現在では放送禁止ワードになっている「気違い」をしっかり使い、初回から3、4話連続で高井戸チームは一般人からその扱いを受ける。この言葉をこんなに毎週聞くことになる番組も他に無いわな。

 

 ただ信用されずにバカにされるだけならまだしも、酷い時には警察に罪を疑われて豪が窮地に陥ることもあった。

 敵は規格外の化け物だから物理の問題で既に打倒がキツイ。加えて精神的にキツイのが、同じ人類から信用と協力を得られないこと。これについて豪は、自分達の戦いはなんて険しい道なのだと語っている。北川も人類のために戦っているのに、その人類から理解を得られないことで苦悩するシーンがある。

 かつてない脅威を相手取るにはこのような難しさがあると分かった。確かに、いきなりムー原人が攻めてくるなんて聞いてすぐに信じる方もどうかしているって話だな。難しい人間同士の信用問題について扱っている。

 

 他にはタイガーセブンに兄を殺されたと勘違いした姉弟がタイガーセブンを言い攻める酷い展開もあった。仮面ライダーだって序盤では父を殺した悪党だとヒロインから勘違いされることがあったが、それよりも事態は深刻で放送2回に渡って疑われることになる。

 瀕死の者に牙で噛みつき、そこからエネルギーを注入して蘇生させるという見た目としては紛らわしい救助だったためタイガーセブンに殺人の疑いがかかる。しかも兄が襲われていると勘違いした妹がタイガーセブンをナイフで刺してしまい、施術が強制解除となり、待っておけば助かった兄が死んでしまう。

 最後に事実を知った方は、タイガーセブンを疑っただけでなく、救えた命をみすみす逃したという二重のショックを受けるシナリオになっていた。よくもこんなキツイ話を考えたな。

 この姉弟はタイガーセブンを罵ったし、弟の方は逆恨みからタイガーセブンを騙して敵に売り渡すという悪行も行っていた。可哀想な姉弟だが、見ていて「勘違いしやがってバカ野郎!」と思わずにいわれなかった。タイガーセブンが可哀想。

 

 その他の問題のシーンは、バイクで敵を追い詰める中で豪が子供をはねてしまうこと。これはシンプルに人身事故で警察が来るヤツ。これには仲間からもバッシングを受ける。事故を起こして精神的ショックを受けた豪は戦意喪失して一時的に変身出来なくなる。

 正義のヒーローだって人をはねたら冷静でいられるはすがない。確かに戦いの中で起きても不思議ではない事故だが、それをドラマで扱ったのは何だか凄い。

 ちなみにこの時豪が追いかけていたのがコールタール原人というこれまた変わり種のやつだった。子供が何のことか分からないだろう。どこからネタを引っ張ってんだよ。

 

 鼠原人、犬原人ら動物の仲間達の原人が出る回には社会派なメッセージも込められていた。人間は動物の敵としてターゲットにされる。犬原人の回では、犬が家畜化されて人を警戒しない方がおかしい話だと言及されている。この回の犬原人の最後は悲しいもので後味が悪い。仲間を呼ぶ遠吠えも届かない都会の喧騒がある。

 

 悩める青年の豪に最も注目が集まるが、熱い男の北川さんも好きだった。豪の仲間の北川史郎は良いキャラだった。

 北川の父が敵の手にかかって死ぬことや、危険な任務にある事を心配した妹が兄を連れ戻しにくるなど、北川目線でも結構なドラマが展開する。北川さんは暑苦しくて格好良いザ・昭和の男気って感じがして良い。

 チームの仲間同士ではあるけど、序盤から最後にかけて所々で豪と北川のギスギスした関係性が見えるのも印象的だった。最終回まで揉めてしまう2人の関係性は気になる。

 

 そんな北川さんだが、勢いのみで言動に出る無謀な男ではなく、勢いのままにしっかり強い。変身無しなら豪よりも丈夫で戦闘力が高いのではなかろうか。父を殺された怒りから捨て身の突撃で海坊主原人を倒してしまったのは凄すぎる。変身無しで怪人を倒してしまうとか超人的な偉業。

 

 全体として作りが硬派すぎて子供受けしないだろうなとは思っていたが、特にそうだったのがクライマックス展開。

 ラスト2話はとにかく話が重い。流れをギリギリ理解出来るくらい年齢の子供が見ていたらトラウマになるかもしれない。そんな鬱な空気が漂っている。

 

 25話では無害な少女が敵に殺され、少女と触れ合って悪には無用の感情が芽生えたマリオネット原人も処刑されてしまう。少女とマリオネット原人が手を繋いで絶命している画は子供が見るには酷。

 これも見て、もうこんな悲しいのも怖いのもたくさんだと思ったタイガーセブンは戦場から逃亡する。何もかも忘れてバイクでぶっ飛ばしたいという願いから豪はオートレーサーに戻る。若い青年が背負うには怖いしキツイ運命だったと分かる。

 多くのヒーローは基本的に一年、ゴレンジャーみたいにそれを越えて戦い続ける者達もいる。タイガーセブンは半年で精神の限界が来たが、決してハートがヤワな弱虫ではない。むしろこんな状態で半年間逃げ出さなかった事を評価すべき。

 

 戦いの日々に精神が疲れる事にプラスし、主人公は迫りくる死とも対峙することになる。戦っても逃げても死は追ってくる。これは怖すぎる。

 第1話で豪が人工心臓移植を受けたアレがキツイラスト展開への布石となっていた。最終回の第26話では、人工心臓の機能停止までもう2日を切っていることが判明する。

 残り48時間も無い最後くらいは、危険な使命からおさらばしたい。そんな豪の事情を知った上で誰が彼の逃亡を責めることができようか。高井戸博士は事情を知っていたので攻めなかったが、事情を知らない北川さんは後に豪をボコボコにする。北川に事情を話せない点がココでもキツイ。

 

 ショッキングな点はまだまだ続き、高井戸博士が敵の手によって殺害されてしまう。高井戸博士だって一般人にしては強い部類。戦闘員を船から海に投げ込んで応戦するが、ムー大帝に敵わない。

 負傷して額から血を流しながらも、執念でムー大帝の髪の毛をもぎ取ることで仲間達に敵の情報を残した高井戸最後の仕事には涙した。

 豪や青木姉弟にとっては親代わりであり、チーム全体としては精神的支柱だったリーダーを失うことになり、チームは完全にお通夜モード。

 

 高井戸博士が豪に向けて残したボイスメッセージには、死から逃れるのでなく、最後まで生きることに立ち向かえという内容が込められていた。難しい事を言っているが、とにかく同じ生きる、死ぬでも前を見ろという良い内容を話している。

 ラストにして子供向け番組には難しい死生観がテーマとして取り上げられたのは印象的。

 

 恩師の死によって奮起した豪が最後の戦いに出てムー大帝打倒を果たす。悲しい戦いが終わった最後にチームの皆にタイガーセブンの正体がバレてしまう。そこで北川さんがどうしてその事を黙っていたのかと尋ねるが、豪は答えを返さない。ここが悲しい。この後、実直で誠実な北川さんは自分を攻めて酒でも飲んだのだろうと予想出来る。

 

 悲しいのは妹分のジュンの告白の返事も良い答えを返せないまま終わること。ヒロインのジュンは、豪の事をずっと豪兄さんと呼んでいたが、妹でなくただの女として向き合う覚悟をしてからは豪さん呼びに変わっている。ここにジーンと来るものがある。細かい変更だが、ジュンから豪への恋心がマジだと分かる。

 

 残された時間がない豪は多くを語らずただバイクで皆の前を去って終劇となる。

 この後、2日と待たずに豪は死ぬことになる。最後はどこで何をして終わっていったのか。そんな悲しい想像を膨らませる記憶に残るオチだった。

 

 すごい暗い話だったけど、ドラマ性があって大人目線なら頷いて楽しめる点も多いと思う。こんな内容だったとは思いもしなかったのでビックリだった。大人向けな硬派な特撮「鉄人タイガーセブン」を令和時代にも推したいと思う。

 

 

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