こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

憎しみを越えて行け「PLUTO」

PLUTO」は、2023年10月にNetflixにて配信された全8話のアニメ。1話約1時間構成になっている。

 

 この秋は地上波だけで止めろって数のアニメをやっている。その上ネトフリ独占配信分までチェックするとなるとマジで大変だ。アニメを見るのにも時間がかかるものね。

 

 で、今期話題の楽しいネトフリ枠が「PLUTO」でした。コレ、マジで良かったっす。見始めたら世界観に引き込まれて一気に見れてしまった。この長さで挑むだけの重厚なストーリー性だった。素晴らしく面白かった。

 これを見る前に同期放送作品「とあるおっさんのVRMMO活動記」を見ていたのだけど、マジで天と地がひっくり返ったくらい色々違いすぎてそれはそれで面白い比較が出来た。すごいよなぁ、何にだってっぺんと底があるものだな。

 

 この「PLUTO」は、装いも新たになりすぎているから気づきにくいが、実は鉄腕アトムの派生作品である。アトムの人気エピソード「地上最大のロボット」の回をまずはリメイクし、更に色々肉付けして話を面白く膨らませてこうなったものである。リメイクとリブートが重なる記念作だな。

 原作設定ではアトムの誕生は2003年になっている。リアルに西暦がその年に入った時に発動した記念プロジェクトの一つとしてこの「PLUTO」のマンガが始まったのだ。

 マンガだって2003年で今から20年も前だ。そこから数えてアニメ化決定までの歴史だけで十分深い。

 最初のテレビ版アトムでプルートゥが登場したのは60年代の話だから、そこを見てもマジですごい歴史だなと思える。じいさんの時代からもあったプロジェクトの最新版が今回のアニメだ。

 

 マンガは浦沢直樹が描いている。知人のオタクがこんな事を言っていた。

 

浦沢直樹のマンガならとりあえず読んで大丈夫」

 

 これはつまり面白いから退屈しない。だから安心して手に取って良いということ。なるほど、それで納得。

 先に同氏が手掛けた名作柔道ガール作品「YAWARA!」のアニメを見た。確かに熱くて面白いものだった。この作家は情熱的アーティスト活動をしていると信頼できる。

 それと「YAWARA!」で主人公を演じた皆口裕子は「PLUTO」にも出演していた。彼女の役者歴も相当だなってことも分かってくる。

 

 この「PLUTO」のマンガも面白いから読めと人から勧めを受けたことがあったのだが、アニメに慣れると段々マンガがシンドい。それにアニメ以上に時間がかかって大変。時間がないんだよなぁ~。って都合からいつかチェックしようとは思っていてもマンガにノータッチで令和時代まで来てしまった。

 

 マンガだって10年代に入る前には終わっていたという。すっかり古いマンガだな。それをこのタイミングでアニメにしてくれて良かった。大変見やすい。そしてめっちゃ良かった。今年最後にとても良い作品に出会えた。

 

 ネトフリも良いカードを持っているなぁ。最近のネトフリ作品は個人的に当たりなやつが多いから助かる。地上波もグダグダヘタったやつばっかりやってないで頑張れと想うこともあったりなかったり。

 

PLUTO」のマンガはノータッチだが、最初の白黒アニメのアトムは全部見ている。親がDVDを持っていたからね。だから黒き巨人のプルートゥのことは知っている。とはいっても随分昔に見たっきりなので結構内容を忘れている。

 予習復習はきっちりやるとはいわないものの、必要だと思った時にはすぐにやる。それが私という人間だ。

 父がライブラリを持っているので、新作を見る前に60年代のオリジナルのプルートゥのアニメを振り返った。その後新作アニメをチェックしたぜ。

 

「地上最大のロボット」は、深い話ゆえ力を入れて2周連続放送になっていた。25分×2話のオリジナルを今回は1時間×8話に膨らまれているのだから、新しく肉付けした要素がかなり多く、その部分が光って見えるぜ。

 

 プルートゥの行動目的は、世界最高水準のロボット7体を破壊することにある。これはイコールして世界最強の7体だな。その中に我々のアトムも入っている。割りとイカツイ連中が目立つ中、アトムが圧倒的小僧に見える。

 この設定だけでワクワクする。7つの力が一括りになったすごい軍団になっている要素ってオタク的にワクワクするんだよな。王下七武海とか七つの大罪とかトリニティセブンとかオリジナルセブンとか他を見ても7つの力の軍団って結構いる。

 

 オリジナルでも新作でも7体のロボやその他キャラの名前は一緒で、世界観は統一させている。アトムはともかく他6体だってまさか令和になってまたテレビ映るとは思わなかっただろう。

 

 まずは英雄モンブランが討たれる入りは一緒なのな。モンブランが死んだ時の国民の反応がただ事じゃなく、どんだけ愛されていたんだと胸が傷んだ。

 ターゲットを殺った時には、プルートゥのトレードマークの長い2本角のオブジェをそこに残しておく。犯人のヒントをくれるプルートゥの粋な行いが印象的。

 

 原作だったら2番目にアトムが狙われている。割りと速くにターゲットにされたんだな。最初はアトムが負けるし、次は引き分けと一回で勝負がつかずに最終戦まで行くことになっていた。

 

 オリジナルだといきなりプルートゥが出てくるからすぐにこういう巨人だと分かる。でも新作の「PLUTO」の方だと明るみに出て全身がはっきりと見えるのはかなり後半まで待つことになる。

 回転して黒い竜巻になって移動はどちらも一緒だが、「PLUTO」だと竜巻の規模が違い過ぎる。あの大竜巻だったらそりゃすぐには姿が見えないわけだ。

 

 オリジナル版だと尺の都合でポンポン倒される世界最強のロボ達だが、「PLUTO」では各員の物語を広げている。そこが見所。

 悲惨な戦争を経験してこその今がある。そんなロボット達が背負う悲哀、憎しみが端々にまで見えるのが印象的。

 戦場で命を奪いすぎたノース2号が、平和な世界にある音楽を愛するようになったエピソードは尊い。序盤に描かれたこのエピソードで一気に引き込まれたなぁ。

 ノース2号のエピソードに「潜りの医者」と呼ばれる人物が出てくるのが、あれはブラックジャックだったな。この世は手塚ワールドで繋がっている。

 

 アトムでもプルートゥでなく、第1のキャラとしてゲジヒト刑事を置き、彼目線で進むターンが多い設定が意外。トップクレジットにもゲジヒトの名前が来る。ゲジヒトのこの出世ぶりは読めない。原作者がゲジヒト推しだったのかな。

 

 ロボットたちのストーリーも大変良い。ロボのブランド、エプシロンが家族を持って愛するようになったエピソードは心が温まる。

 エプシロンは推せる。他のロボは戦闘実績から評価される者が多いのに、エプシロンは戦うのを嫌って徴兵を蹴った過去がある。戦士ヘラクレスはその過去について臆病者の所業だとディスる一方、それが正しい選択だとも評している。このヘラクレスの意見は深い。それと小山力也の渋い声のヘラクレスが良かった。

 エプシロンは強くて愛があるイケメンで良かった。どこまでも優しかったからプルートゥに首を持っていかれたが、本当はプルートゥをぶっ飛ばせるくらい強かった。

 エプシロンとプルートゥが激突する所は作画とストーリー含めて良かった。体がふっ飛ばされて手だけになっても我が子を守ったエプシロンの行いこそ、エプシロンが嫌う戦士そのものだと評したボディガードロボの言葉が忘れられない。泣きました。

 戦いを嫌って平和を愛す優しきエプシロンを演じた宮野真守の芝居も良かったな。ていうか全体的に声優が有名人揃いで良かった。

 

 アトムやウラン、お茶ノ水も現代テイストになっていてこれはパッと見誰だか分からない。ひげ親父もいた。皆懐かしい。

 アトムについてはまず「服を着ている」ってだけで誰か分かりにくい要素になるし。しかし日笠陽子のアトムが見れるとはなぁ。ひよっちもデビューしてからまさかアトムをやる日が来るとは思ってもみなかったのでは?

 ウランは鈴木えりが演じていた。またオリジナルの年代から遠い最近の人間がやっているんだな。アトムの歴史も深い。

 

 びっくりなのはプルートゥに追い詰められてアトムが一旦完全停止してしまうこと。アトムが死んだとニュースが出て国葬の話も始まっている。アトムレベルになればロボでも国葬なんだな。国葬って言葉は、去年の例の事件で初めて聴いたんだよな。今年はアトム関係で聞くことになるとは思わなかったぜ。

 

 ここでアトム復活のために天馬博士が立ち上がるのもすごい展開だ。実子の飛雄とそのコピーでもあるアトム、2人の息子を亡くしたことで強い悲しみの中にある。

 天馬博士が滔々と語る完全なるロボの話が印象的。パターン化された全人格と知識が入ったロボなら、目覚める事を拒否するという結果を得たのはすごい実験だな。そこに最後の成分として憎しみを足せばそのロボは起動するという研究が深くて怖い。憎しみという負の感情が最後の仕上げになるなんて皮肉であり悲しいことだな。

 

 天馬博士から常に感じる哀愁の量がすごかった。回想シーンで飛雄とアトムは顔はそっくりでも言動がまるで違っているからやはり別物だと悟る父の悲哀が見えたのがショックだった。

 

 プルートゥの事件の根幹に見えるのが憎しみだった。こっち側のゲジヒトの物語を見てもテーマは憎しみになっている。

 ロボも人も共生する世界設定になっているが、中にはロボの根絶を願う勢力もある。技術が発達しすぎて人に近い心を持ったロボが人を憎む心を持つようにもなっている。そんな危うい世界バランスのSF性には考えさせられるものがった。

 全体を覆う概念は憎しみや悲しみ。人もロボも憎しみを越えて未来を歩んでいけるのか。そんな形が無いし解決例も見えてこない大きなテーマが見えた。これはしっかりずっぷり考えさせられる。

 

 近年は視聴時にストレスが発生しないようそもそも内容が無い作品を流すことが多い。それに慣れた来たところで見たこちらの作品はどっかりと想いメッセージ性を投げてくる。受け止める用意なく見たからビックリした。

 

 憎しみからは何も生まれないという意見も作中で語られている。憎しみが行動の原動力になっている者もいるが、そんな負のエネルギーが連続する悲しきサイクルは、どこかで誰かが勇気を持って断たなければならない。 

 最後は復活したアトムとプルートゥが共闘してボラーを討つことで憎しみの連鎖に一旦のストップがかかる。でもそれも油断があればまた再発する。だから気をつけて生きろ。そう学べるものでした。

 プルートゥが本当に目指していたのは花いっぱいの世界だった。それをを想うと切ない。プルートゥというキャラにもかなりの肉付けがされていて良かった。

 

 ストーリー、アニメーション、声優、音楽も良かった。OP、ED、プルートゥの登場時にも聞こえるドゥンドゥン言ってるBGMも耳に残るものだった。 

 あと事件の黒幕の1人でもあるダリウス14世を演じた飯塚昭三の芝居も印象的。今年亡くなった方なのでもう声が聴けない。人生のかなり終盤まで芝居をしていたのだな。亡くなった後にも声を届けてくれてありがとう。

 

 今年最後の名作だったな。これは総合的に良いのでもっと布教したい。アトムのアニメも見たくなるな。

 

 憎しみを抱くのは正直な人間性。それが皆無ならそれはそれでおかしい。でも上手いことその感情にも折り合いをつけて生きていかねば取り返しのつかないことになる。

 だから人類よ、憎しみは受け入れて越えていけ。それしか言えない、願えない。

 

 

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