こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

子を持つ父親の苦悩「個人的な体験」

f:id:koshinori:20170703084918p:plain

 

 新たに生まれて来た子供が障害児の場合に親は一体何を想いどのような行動を取るのかということがわかる考えさせる一冊であった。

 

個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)

個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)

 

 

 主人公の27歳の青年は鳥と書いてバードのあだ名で呼ばれ本編中で本名は語られない。もれなく皆さんバードと呼ぶ。結婚して遂に子供も出来たがその子供が頭部に障害を持つ子供であった。バードは嫁との関係が円満でなく、そこへ新たな問題となる障害を持った子供が誕生し絶望と憂鬱の最中で兼ねてからの野望であるアフリカ旅行へ行きたいという想いを膨らます。 

 嫁と子から逃亡し、話の途中で仕事の予備校教師も辞めることにし行きたくて仕方のないアフリカの地を目指す計画を立てるモラトリアム青年である。 

 家庭を持つことはそこへ縛り付けられてアフリカへ旅立てなくなることだと思ったバードは鬱屈とした日々を過しその生活はどんどん退廃としたものとなって行く。この考えは何と無くわかる気もする。家庭を持つということにプレッシャーを感じて塞ぎこむというリアルにありそうなことを書いている。

 バードは障害を持った子供がそのまま死ねば自分は自由になれると考え、子供の死を願うようになる。障害児を授かった親の綺麗ごと無しの面倒事から逃げて自由になりたいという心境を語っている。道徳を無視し親としての責任を捨てても自分の希望を叶えたいバードのエゴが十分に出ている。しかし、こういう状況に自分が追い込まれたら果たして子供をどうするかと考えてしまった。

 子供の面倒を抱えたことからバードの生活は日に日に鬱屈したものへと変わり、酒に手を出し二日酔いになり、かつての大学の女友達の火見子の家に上がりこんで不貞を働く日々を送ることになる。

 火見子の知り合いの堕胎に通じる医者に頼んで子供を亡き者にしてしまおうと本格的に非道徳的な計画に踏み出すが、火見子と入ったゲイ・バーで飲む内にバードは自分を見つめ直し間違いに気づき子供を育てていくと決心し父として人間として立ち直る。

 序盤でバードは絶望の中、ゲームセンターに入りそこで出会った少年達に因縁をつけられて拳を交えることになる。終盤でその少年達と擦れ違うシーンでバードは少年達に気づいたが少年達は誰もバードに気づかなかった。ストーリー序盤で絶望と憂鬱に満ちていたバードは終盤ではすっかり立ち直っていたため心の変化の著しさが外面にも反映したとわかる。バードは短い期間でモラトリアムからの脱却を成し子供から大人の男へ成長を遂げた。

 バードの心理描写が実に細かい。バードの心理状態の変遷がわかりやすい。古い作品だが文体もわかりやすく読みやすかった。目の前にある現実から逃げずに向き合う。責任を負う大人として厳しい真実でもしっかり見つめて正しい答えをださなければいけないとわかる本であった。