こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

舞台に生き舞台に死す「ライムライト」

「ライムライト」は、1952年に公開されたアメリカ映画。

 

 国外追放を受けたことにより、チャップリンアメリカ時代最後の作品となった。

 

 タイトルの「ライムライト」とは、電球普及以前に使われていた古の舞台照明器具のことを指す。また「名声」という意味でも使われる言葉である。 

 

 かなり前に一度見たことがあるが、最後にチャップリンがドラムはまり、そんで終わる、ということくらいしか覚えていなかった。久しぶりにしっかり視聴してみたら大変感動した。

 

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 落ち目の中年道化師カルベロが、自殺しようとしたバレリーナのテリーを助けたことで二人の愛のエピソードが展開する。

 

 テリーはアパートの一室をガスで満たして自殺しようとする。様々な作品で見られる自殺パターンとして定番なものだが、こんなに昔からでもやる者がいたのかという気づきを得た。

 

 とりあえず助けたは良いが、精神を病んだためにヒロインの足は麻痺してしまい、まともに歩けなくなる。バレリーナとしては死んだも同然の状態になるが、これをカルベロが献身的にケアし、無事回復まで漕ぎ着ける。

 

 テリーは舞台に復帰し、バレリーナとしての仕事を順調にこなしていく。復帰ステージにビビって弱音を吐くテリーの頬をカルベロがかなり強めにひっぱたくシーンにはちょっと驚いた。

 

 テリーが調子を取り戻す一方で、カルベロは道化師として落ちぶれるばかり。ノミを操る芸をして爆笑をかっさらった過去の栄光の幻を見るシーンは可哀想になった。

 

 テリーは自分を復帰に導いたカルベロに感謝し、結婚したいと言うが、これは年齢が離れすぎていると想う。温情と男女愛とは違うと思ったのか、カルベロはそれを断る。愛の前に年齢のボーダーは無しと謳えど、この年の差カップルにはちょっとの違和感もある。

 

 かつてテリーが文房具屋でバイトをしていた時代の常連だったネビルが登場し、男女三角関係みたくなる。

 当時貧乏だったネビルのことを気遣い、テリーが五線紙をサービスしたり、お釣りを多めに払ったりするのはルール違反だが愛のあるエピソードで好きだった。オー・ヘンリーの短編にこんな感じの話があったなと思い出す。

 

 バレリーナや道化師らの華やかなステージがテーマとなる一方で、第一次世界大戦のためネビルが兵隊に取られる流れには時代の黒い影を見た。

 

 観客がたくさん集まるステージに上がれなくなっても、カルベロには芸の道しかない。だから落ちぶれてもなおカルベロは芸の世界から離れない。

 カルベロは小さなお店で音楽隊をやり、その時に知人であるネビルがカルベロと知らずにおひねりを払おうとする。ネビルは相手がカルベロと気づくと引っ込めようとすのだが、それを見て「そんなプライドは無いから」と言ってカルベロはおひねりを受け取る。この姿を見ると言い得ない寂しい気持になる。とにかく応援したくなる道化師だ。自分にはこれしかない、だからプライドを投げ売ってでも芸で実入りを得に行く、このスタイルは清々しい。

 

 努力の甲斐あって、後半ではカルベロが大きな舞台で大観衆から拍手喝采を得る。もうひとりの喜劇王バスター・キートンとタッグを組んで展開するコントショーは大変楽しいものだった。セリフは一切無しで笑いを取りに行くスタイルはすごい。ドアの向こうから聞こえる爆笑を聞いてテリーが涙するシーンがまた良い。

 

 特に印象的だったシーンは、やはりショーの最後にカルベロがドラムにはまって動けなくなるところ。たくさん楽しませておいて、最後は加速度的に悲しい締めくくりとなる。

 持病の心臓発作でカルベロは体調を崩し、ショーの時間は短くなる。次にステージに上がるテリーのバレエ・ダンスを舞台袖で見ながらカルベロは医者が来るのを待つ。しかし、テリーが舞台で踊っている最中にカルベロは命の終わりを迎える。美しくも悲しい最後のシーンが良くて何度も巻き戻して見た。

 

 もう動けなくなったカルベロが、スタッフに頼んでテリーの姿が見える舞台袖まで運んでもらい、そこで死んでいくのが悲しい。深い絆で結ばれたテリーを最後に見たかったという想いがよく分かる。

 死ぬ前のシーンで、カルベロが自分を雑草と例え、刈られても何度も生えてくると言い、次には自分は何度も死んでいると言う。この二つのセリフは印象的だった。かつては一世を風靡し、その後落ち目を迎え、それでもステージに帰ってくるという自分の人生を語っているようだった。泣けてきた。これらの言い回しは心に刺さるセリフだった。

 

 カルベロが死に、医者がご臨終の判断を出すラスト1、2分のシーンは音楽が流れるだけでセリフは一切ない。支配人やスタッフがカルベロの様子がおかしいことに気づき、医者が様子を見て皆が死を悲しむアクションはセリフがなくともよく伝わる良いものだった。

 

 この作品には、舞台に生き、舞台に死すエンターテイナーの矜持を見た。

 

 冒頭シーンでは「華やかなライムライトの影で老いは死に、新しきが生まれる」という印象的なメッセージが表記される。今日の老兵もかつての新兵、その逆もしかりということである。芸の世界ならず、命の順番として自然の摂理をスバリ言い当てたものだった。

 

 カルベロのように、かつてのスターもその内にはただの老いた男に成り下がる。そして次なるスターに椅子を譲ることになる。

 チャップリンはどんな想いでこの役を演じたのだろうか。奇しくもアメリカ時代ラスト作品となったことで、「ライムライト」はキャリアに一旦のカンマなりピリオドを打ち込んだ作品となったはずだ。チャップリンもエンターテイナーとしていつかは自分の時代が終わり次が来る、みたいなことを考えてこの芝居に反映したのだろうか。であれば悟りの一作にもなったのではないだろうか。

 ライムライトには深いメッセージ性を感じ取った。ちょっと歳がいったくらいに見ると更に心染みる作品になると想う。

 

 

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  • 発売日: 2016/12/22
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