こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

沈みゆく日本の中で光るヒューマンストーリー「日本沈没」

日本沈没」は、1973年に公開された映画。

 

日本沈没」と言えば、今年には「日本沈没2020」と銘打ってアニメ化もされたことで再び注目を集めている。私の推し声優上田麗奈主演でアニメ化したこちらはまだ視聴していないのだが、その内絶対にチェックしたい。

 

 小松左京の原作小説を実写化した「日本沈没」の名は有名なので知っている。しかし、色々あってこれまで原作も小説もノータッチだった。それが2020年のクソ暑い夏休みにも入った時期になってやっと見ることが出来た。

 

 この作品の思い出といえば、ビデオ屋の特撮コーナーの端の方に置いていたことだ。チビの頃から私はとりあえず特撮コーナーのものを端から手にとっては視聴していた。この作品には私の大好きな「仮面ライダー」に変身する本郷猛を演じた藤岡弘が出ている。ジャケットに本郷猛が写っている!だったら興味を持つではないか。しかしこの作品、見れば分かるけど怪獣も怪人もヒーローも出ない。今回視聴したところ、明らかに名作だと分かったのだが、当時はチビだったので怪獣とヒーロー無しならいいわと思って借りずに帰っていたのだ。

「透明人間」「マタンゴ」「美女と液体人間」など、東宝の単発ヒット作品群に並ぶコーナーの中でこれだけは借りなかった。

 東宝特撮を漁っていればバカでも覚える田中友幸の名前が本作でも見られた。私にとっては懐かしい名前で嬉しい。

 

 私の記憶に強い印象を残しながらも未視聴である、そんな訳で珍しい立ち位置にある作品だった。

 

 それがありがたいことに先日BSで放送されたのでレンタル賃無しで見れた。コロナ&猛暑の恐怖のダブルパンチによって限りなくヒッキー化された私の家庭生活を大いに楽しませてくれた一作だった。

 

 はっきり言って名作!激しく感動した!

 

 これまで視聴していなかったなんて損している。本郷猛にも会えたし、とても良かった。

 

 視聴もせず内容が分かっていない状態でも、タイトルやパッケージのみで多々思い出がある今作をしっかり視聴したことにより、また新たな思い出が増えた。

 

 そんな訳で名作の感想を殴り書きして行こう。

 

日本沈没

 

 巨大地震津波、火山噴火、そこから街々が大火事、水責めに合うなど、とにかくとんでもない天変地異によってコテンパンにのされた結果、看板に偽りなく最後には日本が沈没してしまうお話が描かれる。ものすごく怖い。後半シーンで地図を作る外国人達が「もう日本は世界地図から消していいっすかかね?」という会話を冗談無しで繰り広げているのがもっと怖い。

 

 特撮技術を用いて終わりゆく日本を描くフィクションだが、ジャンルは特撮やパニックではなくヒューマンドラマの要素が強いと想う。終わりが見え、終わりの始まりに差し掛かった段階で動く人々のアクションが見どころだ。

 

 小林桂樹演じる田所博士、丹波哲郎演じる山本総理、我らが藤岡弘演じる小野寺ら登場人物は、迫り来る絶望を前にしても強い生命力を感じる魅力的なキャラ性を発揮していた。魅力的なキャラ達が交錯する物語、そして滅びゆく日本とどう向き合って行くのかという日本人の生命力が試されるドラマ展開が熱い。

 二時間半という相当頑張って作っていないと客に飽きられる尺の作品ながら、そこをしっかり頑張ったために中だるみなく面白い作品に仕上がっている。

 

 序盤の潜水艇で潜って海底操作するシーンは印象的だ。暗く恐怖を感じる海底シーンを見れば、絶対に出てこないと分かっていても、いつゴジラガメラみたいな怪物が出てきてもおかしくない雰囲気だと思えた。

 

 日本が無くなるのはもう変えられない未来だから、そうなると生き残った者達の今後を考えなければならない。国が消えたならよその国に移るしかなくなる。日本は1億総移民となる。作中では役人が外国に出向いて、日本人が住めるようアポを取る会談シーンが描かれる。結構リアルな感じで交渉の場を描いてるから怖くなる。こうなるとおとなしく移住するか、領土と共に心中するか決めないと行けない。差し迫った恐怖の中で自分ならどちらを選ぶのだろうと考えてしまった。

 ロクでもない国とも思える一面があったりなかったりするが、結局日本での暮らしは楽しく幸福なものだ。やはり私は日本が良い、という愛のある気づきが得られた。

 

 国がなくなろうとも日本人が生きて行けるあれこの方法を政府が模索する中、山本総理が渡老人と会話するシーンは必見だ。渡老人が「なにもせん方がええ」という最後の道を指し示すシーンは印象的だった。生きるのを諦めたマイナス思考を働かすのではなく、覚悟をもって愛した国と共に滅んでいくという滅びの美学の提唱に心打たれるものがある。この時に涙しながらも意見を聞いている山本総理の芝居が良い。表情全部を使うのではなく、目に集中して泣きの芝居に走っている。俳優丹波哲郎の高い演技の腕が発揮されていることが素人目にも理解できるものだった。

 

 この作品で一番魅力的だった人物はやはり山本総理だ。総理大臣ってカッコいい!初めてそんなことを思えた。

 日本一地味な総理で終わるつもりでいたと口にするくらいだから、あまりガツガツと熱血的な政治はしない控えめな総理だったが、日本が沈没するという事件を前に一念発起し、日本のために全力で仕事にかかる姿が格好良い。裏でも表でも正義の人間として生き、国を愛し日本人を信じたからこそ、日本人からの信頼を獲得した熱い男だった。

 

 山本総理が地震に詳しい先生から講義を受けるシーンが印象的だ。このシーンの先生の教え方は、頑張れば猿でも分かるくらい大変分かりやすいもので感心した。急に学校みたいになる緩急をつけた展開で興味深い。地球を卵に例えて地震が起こる過程を説明したこのシーンは面白くてためになる。

 総理大臣という職業はよく耳にはするけど、実際何をやっているのかは皆目とまで行かずもほとんどが分かっていなかった。このシーンを見ると、総理大臣ってこうして勉強しているんだという気づきを得られた。色々意外なシーンだった。

 

 私は政治屋を批判するのが趣味の人間ではないが、それでもなんとなく知っている。政治を行う者の中には、政治を行うプロの資格を持ちながらも結果を出せない者がいて、中には魔が差して悪さをする者もいる。こんな具合に感情が流されやすい業界なのだろう。だから心の奥底では政治家って悪者のイメージも少なからずある。しかし山本総理にはそれがない。 

 政治家は正義の者であるというのが望ましいことであり、元々はそれが真実だったのだろう。しかし悪しき前情報があれば、山本総理の生き様はフィクションでもあるわけで、だからこそ真っ直ぐ真実の人をやるという山本総理のキャラ性には歪さと美しさを見た。

 人によれば日本が海に沈むことと同様、ちゃんと仕事をしている政治家もまたフィクションなのかもしれない。そんな皮肉なメッセージ性はないのだろうが、多面的に物語を見たい人間だからそういう闇の部分にも目が向いてしまった。

 

 日本を厳しい未来に追い込むシナリオをベースに敷いているが、あとは日本への愛が感じられるものだったと想う。田所博士は日本が好きだったと口にするし、山本総理も日本人を信じている。終わっていく日本の上で頑張る人間を描くことは、原作者から日本への愛とエールが込められているのではないかと思える。最終的には地図から日本がなくなるような話だが、全体として日本愛も感じる不思議な作品だった。

 

 

 この状況とはまた別だが、奇しくも現在の日本はコロナでパニック状態にある。現在の状況と重ねて見るとまた違った味わいがある。しかし、これを見れば疫病など可愛いものくらいに思える。疫病で人は死ぬが、大地と物は残る。その分だけマシに思えてきた。とりあえず建物が残り、大地があれば再出発出来る。コロナ騒ぎ下の現在の日本よりもっとやばい架空の日本を見たら、コロナなんかに負けてられないという希望も生まれた。

 

 めっちゃ面白い作品で見て良かったとしか思えなかった。自分はぺらぺらな愛国心しか持っていないと思っていたが、これを見ればなんだかんだで私も日本が好きくらいに思えた。とりあえず日本がこんな未来になっていなくてよかった。

 

 日本よ、これからも海より上の世界にあり続けてくれ。そして政治家達は山本総理を見習ってくれ。

 

【東宝特撮Blu-rayセレクション】 日本沈没
 

 

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