こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

愛はすっかり学習済みだ「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」

「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、2020年9月18日に公開された劇場アニメ。

 

 前情報無しにBDを見て大変感動した。まさかこんなにとんでもない内容だとは!

 京アニもとんでもない大作を世に放ったものだ。

 本作の台頭により、アニメ業界の斜陽も遠のいたことだろう。日本アニメ業界はまだまだ元気だ!そんな角度からも明るくなれる素敵な一作になっていた。

 

 これにてヴァイオレットの愛を知るための旅も完結を迎える。

 優秀な彼女が他者よりも遅れを取った学びが「愛」だった。本作をもって完全なる愛を胸に宿し、学びは完了する。この決着を見た時、愛を持つ人ならきっと涙することだろう。私はたくさん泣けて疲れた。人は泣くと疲れて眠くなるのである。そんな訳で晩に視聴した後にはぐっすり眠れた。

 

 そんな泣けてしょうがない本作の感想とかを書き殴って行くぜ!

 

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』主題歌「WILL」

 

愛を知リ尽くしたヴァイオレットの成長

 ヴァイオレットは自動手記人形として更なる躍進を遂げ、先輩のアイリスもぶっちぎる程の売れっ子になっている。

 序盤シーンでは、海にたくさん船を出して行う大いなる儀式で読む声明文の代筆を担当している。このレベルの仕事が普通に来るようになるとは、もう業界のトップに立っているではないか。

 

 見所は様々な本作だったが、中でも一番注目する点は、まさかのギルベルト少佐との再会シーンがあること。

 お墓も作られ、ヴァイオレット、兄のディートフリートも死を受け入れた段階に入っていた。なのでもう死んだものと決定して進むのだと思っていた。ここへ来てこの展開になるとは読めなかった。

 

 年齢の割には揺れない女のヴァイオレットも、少佐が生きている、会えると思えば、かつてないくらいに取り乱す。彼女の精神が暴れているのがよく見える点は印象的。

 

 ここで難しいのがスムーズに再会とはいかないこと。

 少佐の消息が掴めて、ヴァイオレットは死ぬ程会いたがっている。しかしギルベルトの方ではそうではなく、ヴァイオレットを不幸にした負い目があることから会えないと意見するのだ。

 これは難しい。ヴァイオレットが大事だったのに、そのくせ危険極まりない戦場に長く彼女を置いていたという愛の矛盾でギルベルトは苦しむのである。分かる、分かるけども、可愛がった部下がこんなに会いたがっているんだからさっさと会ってやれや!と想いながら、グズグズやってるギルベルトを攻めてしまう私がいた。

 

 現在田舎の島で教師をやっているギルベルトは、やっぱり優しいし格好良いことから、ここでもちびっ子にモテている。ギルベルトの優しさが分かるのが良いんだよな。

 愛を持つ心の豊な青年である一方で、ずっと苦悩を抱えんで苦しんでいる男でもあるギルベルトならではの二面性が濃く見える。この難しい精神状況で生きる男を演じた浪川大輔の芝居にも、グッと引き込まれるものがあって良かった。

 

 ギルベルトが気にしている戦争に関する要素もやはり作品全体を覆う要素の一つだと分かる。この点も作品の持つ深いメッセージの一つだな。

 ギルベルトが教師をしている田舎には、戦争に取られたことで若い男がおらず、女、子供、老人しか残っていない。その若い男達を討ったのは、かつて逆の勢力に属していた自分であると思うと、ギルベルトは自責の念からもこの土地で働くことを止められないのだと思う。軍人や兵士の悲しい精神の末路がここに見られる。この要素はファンタジー無しで厳しくリアル路線で攻めるんだな。

 

 序盤にお偉いさんがヴァイオレットの手紙を褒めるシーンがある。

 褒められはしても、それ以前に自分はたくさんの人を殺している。だからやはり讃えられる人間ではない。そう自分を戒めるヴァイオレットの想いもまた確かな事実なので、この点はシリアスだ。

 

 少佐に関わるちょっとの事でも一喜一憂するヴァイオレットに乙女を見た点には萌えた。

 少佐に会えないなら、地元のチビッ子からでも情報を得る作戦に出る。少佐の事なら何でも聴きたい。子供達と話すヴァイオレットの態度にそんな切実な想いが見えるシーンにはウルリと来た。

 

 少佐が絡めばとにかく人間が出るヴァイオレットの言動には注目出来る。これも愛がそうさせることなんだなぁ。

 海でやっと二人が再開する後半シーンはドラマティックでキュンと来る。ここは一大ロンス。

「先生は片腕になっても足が速い」というちびっ子達の情報通り、ギルベルトが丘から海に向かってビュンビュンと走る走る!

 飛んで跳ねてヴァイオレットを目指すギルベルト青春の滑走は、とても良い出来になっていた。

 

 船からでも少佐の姿が見えれば迷わず海にダイブして陸を目指すヴァイオレットの迷い無きアクションには、真の愛と男前さを見た。どっちかというと男の方から見せそうなアクション。

 少佐とやっと再会を果たしたら、感動で言葉が出てこないヴァイオレット。ここにも泣ける。実際はそんなものだろう。言いたいことはたくさんあってもいざ会えば会った感動で考えていた言葉も引っ込むものだ。

 少佐に想いを告げろ、言いたいことを言え、と思って自分を鼓舞するアクションなのか、泣きまくりながら自分の脛をポカポカ打つヴァイオレットのアクションが可愛くて愛しい。

 

 二人の再会のシーンでは、二人の愛の思いが溢れすぎていて真顔ではとても見ていられない。これは泣く。

 アフレコ無しの段階でも画がものすごく感情を訴える芝居をしていると分かる。普段はお面のようなポーカーフェイスのヴァイオレットの表情が、これでもかと崩れる点に泣ける。作画の上質な出来に感動する。

 そこに魂から絞り出したような石川由依の真実の声が乗るのでもっと泣けた。役者の芝居も良いんだよな。

 

 少佐と会い、自分は愛を知ったと意識し、報告もする。

 もうヴァイオレットのハートには愛の塊があるばかりだった。これにて真の愛をインプット完了なのである。

 すごいなぁ。ぶっちゃけ、フリルのついたあの傘を入手した段階で既に「愛してる」をしっかり学習済みだったとも言えるが、より奥底の深みを知ったのが今回のラストスパートにある。

 まじで泣けた。

 

文明開化により手紙から電話へ

 前作「外伝」から更に時は進み、時代は文明開化の真っ只中。

 外伝でベネディクトが完成はその内、と言っていた例の電波塔も遂に完成を迎える。

 電波が飛び交う時代になれば、新たな情報伝達手段として「電話」が手紙を食う勢いでメインになって来る。

 手紙文化が廃れて電話がメインになりつつある過渡期が描かれている点は印象的。素敵な文化であり仕事でもあるけど、利便性を思えば、ヴァイオレット達が戦う現場も縮小するわなと納得も出来る。

 そんな中でも、敢えて手紙で想いを伝えることの素敵さをプッシュして勝負を仕掛ける点に注目できる。

 

 いつかは忌々しい商売敵の電話に仕事を取られる。それが視野に入っているからこそ、電話以前にはこういう仕事があったことを歴史に深く刻もうと思って更に仕事に邁進するアイリスのガッツは良し。

 後半のユリスの遺書を書き上げる展開では、本土を離れたヴァイオレットに代わってアイリスにピンチヒッターが回ってくる。ここでアイリスの大仕事ターンに入る。

 

 憔悴しきったユリスの姿は痛々しいものだった。たくさん喋る元気もなく、手紙を書こうにもユリスの命の時間が足りない状況になる。そんな時にあって良かったのが電話だ。

 まだまだ新参の発明の電話の扱いが、一般人にはよく分かっていないことも印象的だった。

 電話で友人に本当の想いを伝えて果てていくユリスの物語にも泣けてしまった。

 ユリスを水橋かおり、友人のリュカを佐藤利奈、ゲストキャラそれぞれに伝説の女優達が声を当てたことで作品に華を添えた点も良かった。

 

 自動手記人形達にとって困った存在になる電話が、このように活かされるとは憎い演出だった。忌々しい発明と思っていた電話にも良いところがあると最後には認めているアイリスを見ると、彼女の人間性の良さも見えてくる。可愛い。

 

ホッジンズとディートフリート

 主役はもちろんヴァイオレット、そして今回では回想ではなく現実世界にも登場するギルベルト少佐がいるので、二人の物語が当然メインになる。

 そんな二人を取り巻く人物の中で、ホッジンズとディートフリートがかなり良い立ち回りをしていた。劇場版を見ると、このおっさん二人のことも好きになる。特にディートフリートはテレビ版の頃に見えたヒール感がまるで抜けていてデレすぎ。そこが良い。

 

 まずはホッジンズだが、今まで以上にパパ感が出過ぎ。ヴァイオレットが可愛くて仕方なく、ゆえに気になって仕方ない。部下よりもパパ目線でヴァイオレットを気にしている彼の父性が爆発している。こんな具合だから、自分に本当に娘がいたら精神が持たないとも発言していた。

 ヴァイオレットのためとあれば、普段は大人しい社長から父の顔となって怖いディートフリートにも殴り込む一面を見せる。こういった点は格好良い。

 ヴァイオレットとの面会を拒んだギルベルトに「大馬鹿野郎!」を言った所には父の本音が出ていた。

 最近はテニスを始め、ベネディクトにボコられている点はちょっとダサい。

 

 後半の電波塔をバックにやり過ぎなくらい花火を打ち上げるシーンは本当に美しかった。あそこでいつも通り隣にヴァイオレットがいると思い、誰もいない隣につい話しかけてしまうホッジンズに子が巣立った後の父の悲哀を見て泣けてしまった。あれはベストなカットだった。

 子安武人のパパの芝居に愛が出すぎな点も良い。

 

 ディートフリートも弟の忘れ形見のヴァイオレットが気になるようで、不器用ながらもかなりヴァイオレットに寄り添う態度を見せている。

 作中一の天の邪鬼キャラで、こいつは本当に仕方ない兄貴だなと思える。硬派な感じかと想いきや、かなりツンデレな点に萌える。

 テレビ版では怖かったディートフリートが、とにかくヴァイオレットに優しい点が大きな変化、というか進化。

 

 実家で所有している船の中にあるギルベルトの遺品を取りにヴァイオレットを呼ぶシーンはなんだかドキドキした。ヴァイオレットへの歩み寄り方がいまいち分かっていないディートフリートのぎこちなさにどういうわけがやや萌えた。

 ヴァイオレットが船内に残された帽子は少佐の物なのかと尋ねた時に、ディートフリーがそれは自分のと答えたら、ヴァイオレットが何も言わず帽子を置くシーンがちょっと面白かった。帽子を置くまでのちょっとの間に何故か笑えた。

 

 後半で弟と再会した時にも、なんだかんだで弟が可愛い兄貴の顔が見える。

 実家は自分が継ぐから弟には好き勝手に生きさせる。これが兄貴としての愛の見せ方だったのだろう。この点にも萌えるな。

 

 堅物の軍人だったオヤジとの回想シーンを挟むことで、幼き日々のディートフリート、ギルベルトのことが知れる展開も良かった。

 

「愛してる」が分からないヴァイオレットだったが、周りには愛を持つ人間達がたくさんいて、直ちに愛を学ぶにはうってつけの環境にいたのだと分かる。

 

テレビシリーズ第10話の流れを組む展開

 本作では、ヴァイオレットの視点で辿る現代と手紙文化もすっかり廃れた未来のお話がクロスして物語が展開する。

 作中で一気に時間軸が進むイレギュラー展開といえば、テレビ版第10話を思い出す。人気の神回となった10話の要素がココに生きる設定が憎い。この点が良かった。

 

 まず声が諸星すみれのデイジーという少女が出てくる。アンではないけど、アンの声だ。コイツは誰だ?と思って話を追っていくと、アンの孫だと分かる。アンの母が送った50通の手紙も古びた状態で登場する。これは泣ける。

 ヴァイオレットが現役だった頃よりもずっと未来の世界では、曾祖母と祖母が世話になった伝説の代筆屋の足跡を追うデイジー目線の物語が展開する。

 テレビ版10話の扱いはやはり特別で、このエピソードに関わる人間達だけは、時を超えるSF性が許されるのだ。

 伝説の自動手記人形のバイオレットは、遂には切手にもなった大人物だったと分かる点にも泣けた。

 

 ヴァイオレットは18歳で郵便会社を退社と情報が出ている。

 テレビシリーズでは、自分がいつ生まれたか正確な情報を知らないため、だいたい14歳くらいで通していた。今思えば、14で心身共にああはならないだろうと思う。

 

 

 

 

 そんなこんなで愛の教科書にもなったのが、ヴァイオレットの旅を綴ったこの物語だった。これは学校の道徳の授業とかで流せばいいのではと思う。マジで泣けた。

 あと、エリカが予てからの夢だった作家の道に進んだことが分かった点も良かったな。皆成長しているのだ。

 

 音楽も良かった。良い所で茅原実里の「ミチシルベ」がかかるし、最後は「WILL」「未来のひとへ 〜Orchestra ver.〜」の2曲が、まさかのメドレー形式でかかる。最後は唐沢美帆無双になっていたのも良かった。

 

 BDだとオーディオコメンタリーが3パターンもある。なにせ関係者が多いのでこうもなるわな。本編と合わせて合計4回も2時間20分の映画を回した。スタッフ、キャストの貴重な話も聴けて勉強になった。キャストコメンタリーでの子安武人の暴れたテンションが面白かった。 

 

 こんなに後味スッキリ気持ち良い爽やかな作品も珍しい。

 まじですごいな。視聴したことで心が暴れた。とにかく思うことが様々ある感動巨編だった。見れて良かったぜ。これを映像作品として最強の仕上がりに持って行った京アニに感謝だ。

 

 ヴァイオレットにありがとう。幸あれ。

 

 

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