「仄暗い水の底から」は、2002年に公開されたホラー映画。
おぉ!コレやっと見れたぞ。
かなり昔に親が家で見ていて、それのマジで後半部分だけ見たんだけど、なにせ昔のことだから内容は全然覚えていない。ただ雰囲気として水っ気が多いものだったかなってのと黒木瞳は綺麗だったことだけやんわり記憶している。
それがこの夏、なんとYouTubeで全部見れた。DVDレンタルも購入もしなくてよければサブスク課金もなし。完全無料で見れるなんて嬉しいじゃないか。当時高いチケット代を払って映画館で視聴したリアタイ勢がいたことを思えば、なんてシメシメなお得イベントなのだろう。
それからガキだった当時はタイトルを見て「えっ灰?炭?」となったのも思い出。似ているけどどちらとも違う「仄」というニューワードだった。漢字のお勉強になったコンテンツです。
これと似た間違いで「ヒカルの碁」の碁の字を知らない時分には「墓」と思って読んでいたハズい過去を思い出した。
つうわけでありがたくしっかり見ました。雰囲気が出て良いかなと思って雨の日に見たら狙い通りしっかり出ましたわな。
で、これはとても面白い!好きになったので家族に勧めたところ、ホラーが駄目な人が多いのでウケが悪かったっす。まぁホラーは一人でしっかり楽しめってことっすね。
楽しめたので感想とかを書いて行こう!
内容
まずは幼い娘の親権を巡って離婚調停が勃発。
とりあえず現在は母 松原淑美が娘の郁子と二人暮らししている。
母と娘の二人は、新しい生活の地として、なんとも湿気が豊富なアパートを選んだ。それが全ての始まりで終わり時にもなるのだった。
アパートに越して以降、松原親子は不思議かつ不気味な現象に度々お目にかかることになる。
親子が引っ越してくる少し前、その地域では河合美津子という少女が疾走した事件があった。
親子を襲う怪奇現象と疾走した少女 美津子との関係性がだんだん濃いものとなっていく。
果たして美津子疾走の謎と松原親子の運命は如何に!
という内容でお届けする湿度多めな切ないホラードラマをどうぞ。
感想
いきなり不穏な内容だな。
親権をどちらにするかという離婚調停が勃発し、展開として曇天模様。それは空も同じくで、なんとも晴れやかな気分とは遠い内容と絵面だな。
子供が6歳以下で争う場合、データ的には母親がかなり有利だとされるとか。そういうことも作中で言っていた。こんなのを見ると、これの渦中の人物にならない平和な幼少期で良かったよと思ってしまう。我が家は離婚も引っ越しも無かった。でも転校生になるという変わった体験はちょっとだけしてみたかったかも。
親権争いの要素から「クレイマー・クレイマー」を下敷きにしたホラードラマみたいに思えた。あの映画以来の離婚問題が面倒臭い枠だった。
今振り返ればこれが生死の選択地点となった松原親子の新居物件選びターンに突入。
物件内見や決定の過程ってこんな感じなのか~。普段物件に関わることがないのでちょっと新鮮なシーン。
まだかなり序盤なのだけど、このアパート内見に踏み入った段階でなんかもう怪しい。不穏な感じが画面からめっちゃしてくるんだけど。
アパートのエレベーターで親子が手を繋ぐシーンがあるのだが、ここで既に違和感。郁子ちゃんがいる場所から考えると、あのように手が繋げるかどうか怪しい。ママンはそこに気づいて、じゃあ今握ったの誰の手やのん?と部屋に入る前からも不気味体験をしておる。これ、絶対何かいるじゃん!と予感が確信に変わる瞬間だった。
ママが一発決定しちゃうのも浅はかだったなぁ。これは普通に事故物件だった。
天井に雨漏り染みがあるのを管理会社が隠しているのは悪い。そして上の階のかつての住人が例の事件に関わった人間だったのも事故物件になる対象になるマイナスデータだった。
住んで早々に天井雨漏りしているのは可哀想。あんなことがあったらマジで最悪だろ。これを管理人のジジイ、管理会社のメガネ男に言っても聞き流して全然対応の仕事に出ないのがクソだった。それと後半で重要な場所となった屋上の貯水槽の点検を長らく行っていないのもバッドだった。
映画を見た第1の感想が、物件選びは慎重に行わないと身の破滅を呼びこむということだった。これから人生計略をやろうって時に基地になる城をテキトーに選ぶものではないよな。
引っ越し後からずっと生活が怪しく不思議なことになってくる。
娘の郁子に、疾走した少女 美津子の亡霊がコンタクトを取ってくる。そしてアパート屋上から出てきた子供用の赤いバッグも怖い。何度捨てても返ってくる恐怖のバッグがキーアイテムになってくる。ホラー物でよくある始末しても勝手に帰ってくる物品の要素は、令和時代に見てもやっぱり普通に怪奇現象でキショい。
生活がダメになって来るとどめは、どんどんデカくなる天井の染み。最終的にはまともに生活していられないくらいエグい量の水が漏れ落ちて来る。これは怖い前にムカつく。業者がどんだけ仕事しないんだよ。どんどん広がる天井染みもキショさを加速させる危険信号として見れてしっかりキショい。
美津子の亡霊がゆっくりと松原親子に接近してきて、その中で失踪事件の謎もゆっくり解けてくる点に引き込まれる面白さがあった。
赤いバッグが屋上に戻ってくるあの現象は、自分を見つけて欲しいという幽霊からのヒントだったのかな。そのお陰で母が貯水槽の謎に気づくし。
これも1つのミスリードなのか、本編の見せ方的には美津子があちら側に引っ張っていきたいのは郁子のように見えるターンが多い。最初は友達が欲しくて年が近い郁子を狙ったのかと思ったが、実は母を求める子の愛が一番強い未練となっていたことから、母の淑美こそが真の狙いだった。
怪奇事件の落ちを見ればそっちが狙いだったのかと意外に思った。狙いは娘でなく美人のママンの方でした。
疾走した少女の謎に迫るミステリー要素もありのホラー展開だった。その中に見る母を求める子供の心理というのに切なさを感じた。
幼稚園が終わっても親が迎えに来ない。その寂しさを強く感じて現世を彷徨った美津子の亡霊の事を思えば、なんとも切なくて胸が締め付けられるような想いになる。あの瞬間は子供からすれば大変心細いものだ。
最後は人の母をあの世に引っ張って行ってしまうわけだが、その恐怖現象にも切ない児童心理が見えるから怖いけどなんか悲しくてしんみりしちゃった。
娘を生かすためにエレベーターの中で戦う母の最後の姿にも強さと清さと悲しさを見てしまった。それまで離婚調停、子育て、再就職、怪奇現象などの生活問題で精神的にオロオロした状態だった母が、郁子を守るために戦う女の顔になるのは格好良かった。
母は子供に求められるものである。なぜ求められるかといえば、子を守る強さがあり、そこに安心感があるから。最後の最後でそこのところのパワーを発揮したママンの言動は格好良かった。ここの黒木瞳の芝居も良し。
後半のエレベーターが開いたら死ぬ程水が溢れ出て郁子ちゃんをぶっ飛ばすシーンはビックリ。あそこは特撮的にもありそうなシーンで印象的だった。
水とホラーで魅せる陰気な作風だったが、多くのシーンで見られる水の演出には少女の霊の悲しみの涙という意味合いも込められていたのかもしれない。とにかく湿気と水気がすごくて切なくなるホラーだった。
怪奇現象のせいで淑美の精神状態が徐々に荒れてくる中でも休みなく続いていく離婚調停。この要素も強いな。
元夫に対しての猜疑心も強くなって母の方がなんかおかしくなってくる。この精神の揺らぎをリアルに表現してきた黒木瞳の演技も印象的。
というかこの映画の顔ともなった彼女のビジュは、陰気なホラーに似合わず華があったな。黒木瞳の顔が綺麗で格好良いし、妖艶なシンママさもあったことで、あくまでも健全ではあるが弱くはないエロスを感じた。そういうプラス点から全体の怖さがやや緩和されたかもしれない。というのは私の趣味を反映した個人的にして特殊な感想なのかもしれない。
離婚した元夫役は小日向文世だった。彼は朗らかなおじさんをやるイメージの方が強いから、怖くてちょっと悪そうな元旦那の役をやっているのが新鮮だった。
親権争い時の面談のシーンには、ホラーを離れたリアルの緊張感があった。
本筋の脇のエピソードでホラー要素無しに結構怖かったのが、郁子ちゃんが通う幼稚園で先生が悪ガキを叱るシーン。
デブな先生をバカ呼ばわりした男の子が、バカにされた先生本人と園長先生に理屈でガン責めされて泣いちゃうところも怖い。悪いことは悪いけど、ガキ相手にそんなにガンガン行く?
デブな人間は皆バカなのか?と園長先生が問い詰めて叱る内容は、言っていることとしてはまぁそうだけど、あの言い方と圧で殴るかのような緊張感の出し方は子供目線だと怖い。
最後のシーンで10年後になり、大きくなった郁子が廃墟と化したあのアパートに戻ってくる。
10年後の汚くなったアパートは、外装、内装含めてキショいな。どこにこんな陰気で気味の悪いアパートがあるのさ。そっちの雰囲気としては一級品のアパートだな。
10年後の郁子と母が交流する最後も切ないわ。母はずっと美津子の亡霊に捕まったままの状態ということなのか。怖いし悲しいエンドだな。
ドラマ性としてとても面白かった。20年以上も前の作品だけどなかなか良い作りで意外だった。また雨の降る陰気な週末に見たいものです。
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