こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

ヌーヴォー・ロマン台頭「消しゴム」

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「消しゴム」は作家ロブ・グリエによる長編小説。

 

 その当時、フランス文学界に新しい風を吹かせた作品群を「ヌーヴォー・ロマン」と言い、この「消しゴム」という作品はその内でも代表的な作品とのこと。

 

 秘密捜査官ヴァラスがとある殺人事件を追うのだが、犯人も分からなければ死んだ者の死体も見つからない。そんな中、八方手を尽くしてヴァラスは真実に迫る。

 内容はこんな感じでミステリーものに思えるのだが、その実ただのミステリーとは何か違っている。この点が新たな風、つまりはヌーヴォー・ロマンたる所以。 

 割りと長い話だけど作中ではたった一日のことしか描いていない。

 

 物語の筋は簡単に追うことが出来るが、はっきり言って読み進めるのが難解で玄人向けな本だと想った。この私が読んでもちょいちょい内容が入ってこない箇所がある。事件の真実に迫ること、登場人物の心理に迫ること以外に、ともすれば余計ではないかというくらい情景や物体の描写が細かく成されている点がある。印象的だったのはトマトを食うシーンでトマトの食レポをするがごとく細かく「トマト」という事物を書き表していること。表現力豊かな作家だと想う。

 

 文章スタイルも何やら癖がある。三人称での語りが行われるが、物語の視点が各キャラへとコロコロ切り替わる。この部分はマルチサイドゲームみたいで結構好きだった。

 

 あとがきを読めばオイディプス王物語を下敷きにしているとあった。カフェのシーンでスフィンクスのごとくやたらとなぞなぞを言ってくる変なおっさが出てくることでそれが分かる。

 

 捜査官ヴァラスが事件を捜査をする過程での進行スピードが遅く、彼が凄腕な感じはしないかも。ミステリー系のアドベンチャーゲームでどこに行けばよいか分からなくてなった時にマップをぐるぐると周るあの感じを思い出した。

 

 タイトルにある「消しゴム」をヴァラスが購入するシーンが数回あるのがやはり印象的だった。

 

 オチは個人的に好きだった。

 死んだとされるデュポンはヒットマンに襲われたけど実は生きていて、世間的には死んだということにして身の安全を守っている。最後はいたずらな運命に引き合わされ、ヴァラスとデュポンが同じ場ではち合わせになる。互いが互いを狙っているヒットマンと思い込んで銃を構え、結果ヴァラスがデュポンを撃ち殺してしまう。死体の行方を追っていた捜査官自らの手で死体を上げ、ある意味では目的が達成された訳だが、これはこれでまずいことになっている。ラストは皮肉めいたものだった。事件の真相が分かったものの、言いようのない喪失感が残った。

 この物語の後引く謎の不条理加減は、カミュとかカフカを読んだ後に感じるそれと似ていた。

 

 

 ただのミステリーものではないヌーヴォー・ロマンを楽しめた。

 

消しゴム (光文社古典新訳文庫)

消しゴム (光文社古典新訳文庫)

 

 

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