こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

世界の闇を見る船旅「闇の奥」

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 コンラッド作の中編小説「闇の奥」を読んだ。

 映画「地獄の黙示録」の原作となった作品である。ちょっと前にBSでやっていたなと思い出す。

 

 本編は船乗りマーロウによる昔語りとして展開する。マーロウの達者な語りには引き込まれるものがあった。しかしよくもここまでべらべらと喋れるものだ。

 

 象牙交易の権力者クルツ氏を迎えにいくため、マーロウはアフリカ奥地の河を遡る船旅に出る。

 クルツ氏の登場はかなり遅れてやって来る。旅の途中でマーロウが出会う人間からクルツの情報が語られるが、そのどれもこれもがクルツ氏を上げる情報だった。情報は増えてもクルツ氏の全貌がなかなか見えない中で、一体どれほどのカリスマ性を持つ人間なのかと期待して読んでいた。クルツ登場を焦らすこの流れがちょっと面白かった。

 

 しかし、いざクルツ氏が登場してみれば、その正体は妄執的なまでに象牙を求めるワーカーホリックというか、狂人めいた男だった。自分の女もほったらかし、象牙ゲットのため人生を使い果たした儚い命がクルツという男であった。労働は程々にして一生懸命向き合わなようにしている私は、疲れない生き方を実現するための黄金比の力配分を心がけている。狂ったように仕事をしているクルツを見ると胸が痛んだ。

 

 本編はただワクワクするだけの冒険ものではない。

 クルツ氏にたどり着くまでの旅の中で、マーロウは世の黒々しい真実を目にする。象牙に魅せられた白人が、黒人をこき使う植民地支配などの差別表現が見られ、そこから当時の世の中の闇の部分が見えた。数人の奴隷同士が鎖で繋がれた状態で、ジャラジャラと音を立てて行進するような描写は生々しく痛ましいものだった。

 不気味な森の奥に住まう未開人から船を守るために激しい戦闘を繰り広げるシーンもあった。

 

 冒険譚に絡めて当時の世の悪を暴くという風刺がかった仕掛けが「ガリバー旅行記」のようで良かった。皮肉やディスリが含まれながら展開するマーロウの昔語りには強いメッセージ性を感じた。

 

 お金儲けばかり考えて心身共に健康を失って死に向かう命は虚しい。清く正しく生き、程々に仕事はサボって、もとい休憩を取りながらやろうと思った。

 

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 

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