こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

その老人の戦いに我々は鼓舞される「老人と海」

老人と海」は、1958年に公開されたアメリカ映画。

 

 アーネスト・ヘミングウェイ作の短編小説を映画化したものである。文学青年を長年やって来た身なので、さすがにこのクラスの有名どころは読んだことがある。本は薄く、一日あれば読めるものだった。

 

 話の内容自体はなんてことのない簡単なもの。老人がカジキを釣って帰ってくる、ほぼそれだけのものである。作中で起きた主な事件はそれ一個のみだが、老人とカジキとの戦いの中に深い人間ドラマと人生観を見れる点に文学的要素が含まれている。文学とは人生における学びを文章に起こしたものである。老人から学べることは多々ある。

 

老人と海(1958) (字幕版)

 

 主な登場キャラはキューバの海沿いの街で猟師をする老人サンチャゴ、彼と仲の良い少年、そして作中におけるサンチャゴにとってのボスであるカジキマグロ、ぐらいのものである。

 

 老齢の猟師サンチャゴは、84日間も獲物を取れない状況にある。そんなサンチャゴを励ましサポートする少年の存在が尊い。 不漁が続くことで実入りが悪く、サンチャゴは貧しい思いをしている。そこに食事やコーヒーの差し入れを持ってくる少年の姿は印象的だ。

 

 すごい古い世界のすごい田舎街が映され、現代に生きる日本人の私からすると同じ地球の上とは思えない。サンチャゴの家は電気とか来てるのかな。そんな時代だが、コーヒーのテイクアウトはある。少年が店でコーヒーの持ち帰りを頼んでサンチャゴに持っていくのを見て、こんな昔からこういうサービスがあったんだという気づきを得た。

 

 かつてサンチャゴの船に乗っていた少年だが、業績の振るわないサンチャゴの元にいることを親から反対され、現在は他の船に乗っている。それでもかつての仕事仲間の老人を心配して気遣う姿が優しくて和む。おじいちゃん子の私としては二人の関係に思わず反応してしまう。

 

 本編の見どころのほとんどは、海に出て展開するサンチャゴとカジキマグロの格闘シーンにある。盛りをとうに過ぎた老人が、自分の船よりもデカいカジキと戦う。老いてもなお大物に引けを取らず頑張る老人のガッツに魅せられる。

 

 大海原を映す迫力のカメラワークも良いし、壮大な自然がさらに映えるBGMも良い味を出していた。

 海で戦うサンチャゴが心に見る景色は、幼い頃に触れ合ったアフリカの大地である。美しい海が見どころとなる中、サンチャゴの夢の中に見えるライオンの姿も印象的だった。

 サンチャゴの心理状態を伝える軽快テンポのナレーションも良い味となっていた。

 

 弱った老人が大物カジキを一本釣りするのは大変骨が折れる作業だと分かる。ガチの根気比べが続き、カジキを仕留めるまでにかかった時間はなんと3日間である。船員は一人のみなので、他から支援は受けられず、ロープを掴んだまま食事をし、睡眠もろくに取ることが出来ない。うっかり気が緩むと自分が海に引きずり込まれるという緊張の中、己の限界との戦いが展開する。

 一人ぼっちの戦いを続けるサンチャゴだからこそ、船を降りたあの少年がいたらと何度となく想うシーンに納得出来る。

 

 カジキが強くロープを引いたことによる摩擦で、サンチャゴが腕を負傷することもあった。そんな時には塩水に浸すことで回復を促す。これには海の男の知恵と荒療治を見た。捕まえたシイラを生で食ったりして栄養を補給しているし、色々とワイルド。

 

 眠ることが許されない長き戦いの中で、サンチャゴは若き栄光の日々を回顧して己をを鼓舞する。その中に一昼夜かけて行われたアームレスリング勝負のエピソード回想がある。これも印象的なものだった。海の男ならではの根性勝負だった。

 

 漁とは丘に帰ってくるまでが戦いだと分かる。疲労困憊の中やっとゲットしたカジキだが、デカすぎで船に上がらないから船の横につけて丘まで向かうことになる。そんな美味そうな餌を水に浸しておけば、鮫達が黙っていない。サンチャゴがせっかく捕まえたカジキが鮫に食われて最後には骨になってしまうのが可哀想。船の上から鮫を攻撃するサンチャゴだが、鮫の群れには勝てずに最後は成果なしで家に帰ることになる。厳しい世界を描いていると想う。大きなカジキと獰猛な鮫の迫力もすごかった。

 サンチャゴの戦いを見るに、勝負に勝って試合に負けたというのが正しい結果だろう。

 

 骨になったカジキを見て、人々はすごい大物だと驚き、少年も老人の頑張りを称賛する。最後には親の意見など関係なく、自分が良いものを得るため、自分の意志でサンチャゴの船に戻ると決心する。結果として売り物になるものを揚げることが出来なかったが、年寄が意地を見せたことに少年も私も感動したのだ。

 

 何を捕まえても丘で売り物にならなければ意味がない。その観点から言えばサンチャゴの長き戦いはまるで無駄に終わったことになる。でも、この作品が伝えているのはそんな見て分かりきった残酷さではない。

 年寄りが力の衰えを受け入れずにいつまでも前線でウダウダしていることで若者に迷惑をかける現象を老害と言うのだろうが、サンチャゴのはそうではなく、自分は老兵としてもまだこれだけ戦えると証明してくれた。だから少年も勇気をもらい、親の意見をはねのけて我道を行く決意をしたのだろう。

 なんだかんだと予想する下手な考察はやめにしてとりあえず言えるのは、私が老人の戦いに感動したこと。醜くもがくのではなく、まっすぐ己と戦う先人の姿を見て、良き後進が出てくるのだなと思った。とにかく私好みな熱きヒューマンドラマがこんな片田舎の海にあったのだ。

 

 ありがとうサンチャゴ、ありがとうヘミングウェイ

 

 全然関係ないけど、好きだったキャラなので、「ドンキーコング」のお助けキャラのカジキマグロの「エンガード」の存在を久方ぶりに思い出した。

 

老人と海 [DVD]

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