こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

グルメを通して学べる倫理観「美味しんぼ」

美味しんぼ」は、1988年10月から1992年3月にかけて放送された全136話のテレビアニメ。加えて後に2度SP回が放送された。

 

美味しんぼ」といえば、父の部屋に乱雑に置かれていた漫画の内の一冊がそうだったと記憶している。巻数の長い作品だが、全然揃っていない状態で適当に買った巻だけが数冊部屋に転がっていた。それをなんとなく読んだ思い出がある。

 

 そしてもう一つの思い出はというと、悪いけど個人としては別段「面白くなかった」の感想しか出ない美味しんぼファミコンソフトがあったなということ。美味しんぼ好きでも、アレはそんなに楽しめないのではないかと思う。原作だと真面目な作風なはずが、ゲームだとバカゲー要素もまぁまぁ盛り込まれていたと記憶している。

 

 そんなこんなで人生の内でちょこっとしか振れず、有名ではあるものの、内容はほとんど分かっていない美味しんぼを、この機会にアニメでしっかり見て楽しむことにした。

 この機会というのは、オリンピックやお盆のため諸々のテレビ番組がお休みで見るものが無くて暇だった期間のことである。136話もあったのに、見る番組が減ったため、かなり短い期間に詰めて全話視聴出来た。だいたい2週間弱くらい。

 

 古い作品であり、内容は地味めなグルメものだが、とても面白く連続して見ても疲れない。そしてグルメに関しての色々な知識が身について勉強にもなった。こいつはなかなか秀逸な作品だった。

 

美味しんぼ DVD BOX1

 

内容

 メインとなる登場人物は、東西新聞文化部に務めるしがない新聞記者の山岡士郎、そしてその後輩女性社員の栗田ゆう子。

 

 二人は社の命運を賭けた企画「究極のメニュー」作りを担当することになり、方々のグルメを巡って取材を行う。

 

 その過程で、山岡士郎の親でもある芸術家兼美食家の海原雄山とグルメに関するあれこれの揉め事を起こして越えては忙しい毎日を送ることになる。

 

 途中からはライバル新聞会社が海原雄山を招いて「至高のメニュー」作り企画を進める。コレってパクリじゃないと思わずにはいられない。

 そこで究極と至高、2つのメニューが戦うという展開に入っていく。最強の矛と最強の盾、強いのはどっち?みたいなことになって面白い。

 

 国内のあちこちはもちろん、時には国境をも越え、とにかく山岡と栗田は、どこなりと巡り、食って飲んでの取材を行う。楽しいから良いのだけど、ぶっちゃけコイツらいつまで食って飲んで回ってるの?とつい疑問に思ってしまう。そのくらいに、究極のメニュー決定までの道のりは長く険しいものなのである。

 

感想 

 

山岡の生き様に見るグルメ理論

 本作以前、以降を問わず、イケメンをわんさかと演じてきた名優井上和彦が演じるにしてはぐうたらでだらしのない男なのが山岡士郎である。

 井上和彦の格好良い声なのに、会社に来て寝てばかりで同僚からの業績的信頼が著しく低いのが山岡の真実。でも愛されキャラであり、なんだかんだで皆に好かれている。

 普段は冴えない記者だが、グルメ知識はずば抜けた物を持っている。幼い頃に特訓を受けたことから、料理人としても一級の腕を持っている。

 だらしのないおっさんと出来るグルメ人の二面性で魅せるキャラ性が良い。

 

 グルメアニメではあるが、同じくグルメをテーマにした同時期放送アニメ「ミスター味っ子」のような熱血性、ともすればギャグアニメのような感じはなく、淡々とグルメの真実を語っていく展開を楽しむことが出来る。味っ子的なのを期待すると全然違ってびっくりする。

 

 父である海原雄山が、美食家を気取るあまり家庭を顧みない父としての失敗者だったことを未だ恨みに思う山岡は、半端な美食家の存在を許さない。気取った美食家共に対する山岡の怒りの現れが見える点は印象的である。

 

 グルメに関してなら、山岡は歯に衣着せぬ物言いでズバズバと切りこんで行く。メディアで持て囃されたからといって天狗になって料理の質を落とすような店があれば、不味い物など食っていられないとはっきり言ってのける。

 グルメ知識にかこつけて己の思想や道徳を語る山岡の雄弁なセリフまわしにも注目出来るものがある。理屈っぽいが、人間の真実性が出ている山岡の喋りは小気味良いもので好きだった。間違った知識と考えでグルメ界を汚すエセ美食家共を切って捨てるグルメ界での世直しモノ的展開も見えて面白い。

 

 製造の効率化を優先して食品自体の品質を落とし、その中で添加物、着色料、科学調味料に頼りすぎることへの痛烈な批判を行う山岡をみると、ハッとするものがあった。

 製造過程で楽できたり、長期保存が可能になるというメリットがある新しい技術の到来が、元々の品質を落とすことにも繋がるという普段の食生活の中では深く考えない気づきが得られた。

 

 アメリカ人の目を通して、今日本にある豆腐や刺し身の味わい方が本来のものではない間違った物だと指摘される回には深い気づきがあった。これも製造過程の面倒を省いたために豆腐が不味くなる、パフォーマンスショーとして刺し身を振る舞う中で、その風味が損なわれているという日本人がうっかり忘れてしまった大事なものを気づかせるものだった。

 

 一話完結が目立つ本作においては珍しく、クジラ漁の是非を問う回は2話連続の物語となった。このクジラ漁を巡ってのエピソードは秀逸なもので、良きメッセージ性が詰まっていた。全話の中で、特に一見の価値がある回だと言える。

 まずは鯨を減らすな、食ってはいけないという自然環境維持への訴えかけが見える。その一方で、綺麗事だけで事は終わらず、同時に命を食うことでしか生きていけない人間のエゴがあることも伝えている。食物連鎖において、ある程度はエゴを通さないと人は生きていけないという厳しい真実が見えた。綺麗事ばかり言ってそこに目をつぶるなら、それはそれで野蛮で卑劣であるという内容が山岡の口から語られる。深いなぁ。

 

 鯨漁の是非を問う騒ぎを利用して暗躍する謎の政治組織があったり、そいつらがメディアを上手いこと操作して何も知らない人々を踊らせるという怖い一面も見えた。

 一新聞記者に過ぎなかったはずの山岡や栗田が、鯨漁のこと、後には米の輸出問題などについて、政治家に直に働きかけるという規模のデカい話も見られた。政治も混ざってのグルメに関するグローバルな問題が見える点は興味深い。

 

 山岡と海原雄山が、どちらが美味いものを用意できるかのグルメ対決を行う点も面白い。山岡から見れば出来の悪い親父の海原雄山だが、やはり美食家のトップに君臨するだけあって確かな知識で山岡を黙らせることもある。なんだかんだあっても料理は心という良い事も言ってる。

 海原雄山が、美食家の天敵であるジャンクフード、主にハンバーガー、フライドポテトのことを目の敵にしている点は怖い。これらの料理は人々の味覚を狂わせるとまで言っている。

 

 良くも悪くも、このアニメを見てからは、料理に使われる素材一つ一つに対しての意識を改めてしまう。

 

 

ヒロインの栗田ゆう子がとにかく輝いている

 山岡や海原がグルメ論を通して倫理観を語る点には深い学びを得ることが出来る。そんな真面目な作品だが、やはり視覚的には地味である。これはどうしようもない。

 出てくる人物は山岡をはじめおっさんばかり。基本キャラの絵柄を見ても、申し訳ないが、メインの人物でもモブ感がある。中身は魅力たっぷりなキャラ達なのだが、その点は仕方ない。山岡も主人公だけど、イケメンではなく、やや間抜け面である。山岡の上司である富井部長はかなり楽しい好きになるおじさんキャラで良かった。

 

 こんなブサイクキャラばかりの中で一貫して光るヒロインがいた。それが栗田ゆう子である。他のキャラがそうであるからこそ、栗田の美しさと可愛さがとにかく光る。栗田の作画がとても良い。ずっと可愛いお姉さんだなと思って見ることが出来た。地味な作風でも、こうして一人輝くヒロインがいれば、あとのことをカバーして楽しく見ることが出来る。演じた荘真由美の透明感ある声が本当に綺麗で癒やされる。

 とにかく栗田ゆう子が可愛いというのが、本作一番の感想だ。

 

 なんだかんだで山岡と息があっていて仲が良い。先輩だけどだらしのない山岡を引っ張ってくれるガッツのある逞しいOLだ。こんな可愛い子ちゃんと仕事が出来るなんて山岡が羨ましい。

 

 いつも栗田に目が行くので気づくが、基本的に会社員として働くシーンが毎度描かれるのに、その中で見せる栗田の服装のバリエーションは非情に豊か。おしゃれさんでファッションセンスが良い。私服シーンに水着回もあるので、どの回でも視覚的癒やしを運んでくれた。かなりハマるベストヒロインだった。

 

 コンビで仕事をしていく内に、だんだん二人の関係が近づいていき、微妙に恋愛展開に入りそうな感じも楽しめた。

 途中からは山岡を気に入った良家のお嬢様のまり子が二人の間に割って入り、女の恋のちょっとした押し合いへし合いも見えてくる。少しばかりのラブコメ要素も作品の良さだった。

 

 

 そんなこんなで、見れば色んなことが学べてためになる良質グルメアニメだった。ファミコンのゲームは多分クソゲー扱いでいいのだろうけど、このアニメは令和の時代にも放送すればウケると思う。

 おっさんキャラが多いので、そこは渋めなお声が映える有名男性声優が良い仕事を見せてくれている。

 古い作品なので、出演者の中にはもうお亡くなりになられた方の名前もちらほら見られる。懐かしい声が聞ける点はありがたい。そんな観点からも見る価値があったと思う。

 

 

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