「装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー 」は、1985年8月21日発売されたOVA。翌年には劇場公開もされた。
先にリリースされたOVA2作の内容はテレビシリーズの総集編だったが、今回は満を持しての完全新作OVA。
その内容とは、かつてキリコが身を置いていた恐ろしき部隊「レッドショルダー」の未だ燻る問題を解決するというもの。かつての仲間グレゴルー、バイマン、ムーザと合流し、キリコは古巣のボス ペールゼンを討つべく激戦の地へ赴く。
時間軸としては、テレビシリーズのウド篇とクメン篇の間に位置する物語となっている。
その後も長く続くことになるキリコの戦いの歴史の幕開けを飾ったのがレッドショルダー部隊。ここでもやはり兵隊の扱いが雑。殺伐とした軍人生活が見える。
ペールゼンのせいで酷い目にあったグレゴルー、バイマン、ムーザの痛みも見えてくるというもの。
今回の新キャラのグレゴルー、バイマン、ムーザは、それぞれが良い味を出す戦士達でグッド。三人それぞれを小林清志、塩沢兼人、中尾隆聖のむさくて渋い名優達が演じている。ゲスト声優が豪華な点もグッド。
作戦準備段階からとにかく揉めるバイマン、ムーザの関係性が目立つ。口でも手でもよく喧嘩する二人だった。
ムーザにいくら殴られてもやり返さないバイマンの持つ秘密が解禁されるシーンには、悲しき戦士の末路が見えた。激しい戦闘で腕を無くしたバイマンは、鋼の義手をしている。これは中盤の喧嘩シーンまで解禁されない。序盤にキリコがバイマンに戦いで何を失ったのかと問うシーンがあるが、そこでは答えをはぐらかしていた。それがムーザと喧嘩する流れで分かる。無くしものの正体は腕だったのだ。残酷な世界。
人間の腕と違って固い義手で殴り返せば、戦友のムーザはタダでは済まない。そんな気遣いもあって自分から手を上げないバイマンからは、男前な心意気とただ悲しい戦士の傷跡が見えた。このシーンには、むさいミリタリーもの感が濃く見えた。個人的に好きな流れ。清々しく気障なバイマンを演じた塩沢兼人の演技も良い。
テレビシリーズ以上にロボットアクションシーンは迫力があって格好良い。
キリコ達が乗り込む火力増し増しカスタム済みのスコープドッグがとても格好良い。
レッドショルダー最後の戦いもそうだが、もうひとつの注目要素は、二人目のパーフェクトソルジャー イプシロンの誕生にある。テレビシリーズでは描かれなかった、成熟前の中身が赤ちゃん状態のイプシロンを見ることが出来る。
何も分からない状態のイプシロンを教え導くフィアナの存在が、聖母のように清きものに見えるのも印象的。穏やかな野原で二人が親交を深めるシーンは、殺伐とした本作の中では貴重な癒やしの場面となっていた。自然の緑の中で屈託なく微笑むフィアナが見れるのは珍しい。フィアナの醸す純としたエロスはグッド。
誕生して早々に戦士として覚醒するイプシロンの無双ぶりがすごい。やり手のレッドショルダー4人を余裕でぶっ飛ばしてしまう最強ぶりを誇っている。
ここで、クメン編以前から実はキリコとイプシロンは対峙していたことが確認出来る。キリコ側ではイプシロンの顔は見ていないが、実はやりあっていたという歴史の裏が見えた。
キリコ達の部隊とイプシロンが激戦を繰り広げる中で魅せるロマンティックなシーンが、フィアナとイプシロンのキスシーンだ。ここは注目所。
このままではキリコはイプシロンに殺されてしまう。そんな切迫した状態でも、フィアナはキリコを生かすためには何でもする。そのガッツが見られたのが、このキスシーンである。
愛を知らぬ殺戮兵器のイプシロンに愛を刷り込むことで、キリコの逃げ道を作る決死の作戦に出る。キリコの前で他の男とキスをするという、フィアナの大胆なアクションにはやや興奮を覚えるではないか。
意識を戻したキリコにキスシーンを見られたと知ったフィアナが「まずい!」という女の反応を見せた点も強く印象に残る。女として男の目を気にしたフィアナの言動が見えるのが意外だった。
愛無き悪い大人が手掛けた作り物の命が、また別個の作り物の命に愛を伝授するという何とも不思議な愛のリレーが見えた。
ここでイプシロンは、女としてフィアナを強く意識するようになるのだろう。
この後の物語となるテレビシリーズ本編では、激しい戦いの中に見るキリコ、フィアナ、イプシロンの男女三角関係が一つの楽しみ所となっていた。
目的のペールゼンのお命を頂戴した後、戦場は大爆発に巻き込まれる。3人の仲間達は死んでしまい、ペールゼンも死んだ。ただ一人生き残ったキリコは、これにて最後のレッドショルダーとなるのだった。切なく虚しいレッドショルダーの奇跡を見ることが出来た。
そしてラスト数分だけは、クメンの飲み屋でキリコの到着を待つゴウト、ココア、バニラの賑やか三人衆の出番が回ってくる。今回の本筋に何も関係のない3人の少ない出番だが、良い掛け合いのユーモラスな三人でやはり落ち着くものがあった。
シリアスで硬派。だいたい一時間で終わるが、話もむささもしっかりとコンパクトにまとまっていて良い。テレビシリーズと合わせて考えても名作エピソードだと思うくらいに面白かった。
私が良いと褒めたように、世間的にも本作は高評価を受け、なんと第3回日本アニメ大賞OVA最優秀賞を受賞した。すごいではないか。
スポンサードリンク