こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

少年は水平線の終わりに何を見るのか「海のトリトン」

海のトリトン」は、1972年4月1日 から9月30日まで放送された全27話のテレビアニメ。 

 2クール分をフルに走りきったことで、珍しいことに27話もやっている。2クールだと普通なら23~26話くらいの放送で終わる。一回も放送を落とさず、頭からケツまでフルに使っての無駄無き放送スタイルだったのだと分かる。まずはそこに注目が行く。

 

 あの有名な手塚治虫原作作品である。原作漫画はノータッチなのだが、聞くところによるとアニメ化に伴って結構話を変えて来ているという。基本設定はそのままに、アニメ版は漫画版とは別物として楽しめるとのこと。

 

 その昔親が用意したアニメ主題歌全集みたいなCDに、トリトンのOP曲が入っていた。なのでアニメの内容を知らないけどOP曲だけは昔からめっちゃ好きだった。

「水平線の終わりには~ あぁ~」の名フレーズから始まるOP曲はとても格好良い。

 放送初期はこっちがED曲だったらしい。途中でOPとEDの楽曲が入れ替わったという点で珍しい作品。確かにこれから終わるって感じのED曲じゃないものな。

 

 ED曲は須藤リカ、かぐや姫が歌っていて、なんとMVみたいに本人達が実写で顔出ししている。映像ソフトにもそのまま記録されている。これはなんともレアな映像。こちらのED曲は、最近だと森口博子が番組でカバーして歌うなどして、古くとも現代まで伝わっている。トリトンの良さは時を超えるんだな~。

 

 そんなトリトンだから古い古いとは思っていたが、ちゃんと見てみるとなんと50年前の作品だった。マジか。遠すぎる世界。余裕で昭和だ。

 

 トリトンを演じた塩屋翼が声優デビューを飾った作品である点は、声優好きなら注目したいポイントの一つ。まだ声変わり前の子役時代の芝居が見れるという点が、現代になって見る大きな価値。

 先日スラムダンクを見たのだが、そちらではしっかり声が大人になった塩屋翼がリョーチンを演じていた。トリトンからスラダン放送までに約20年空いているから、その期間だけでも長くて古いと感じる。そして今年でトリトン放送50周年だから、塩屋翼のキャリアもすごいなぁと分かる。そんなに昔の人間だったのか。

 そしてセットで気になる人物が富野喜幸の名前。今は富野由悠季名義となっているあの人の旧名義である。そんな彼の初監督作品でもある。あの有名な富野監督の極めてキャリアが浅い時代を見れるのも感慨深い。そしてレア。 

 

 お話は海を舞台にしたロマン性溢れるもので面白かったし、トリトンもイケメンだった。そんなこともあって当時は大変ヒットしたという。

 その結果、確認出来る最古の記録によると、史上初のファンクラブが発足した日本アニメになったという。すごいなぁ、いくつも伝説的要素があるすごい作品だ。

 多くのオタクを巻き込み、その中でも女子からの人気が高かったという。ウチの親戚にかなり年のいったおばさんがいる。彼女もトリトンが好きだったという。

 オタクブームに新しい動きをもたらしたことから、日本アニメ史において重要な作品だといえよう。やはり大きなムーブメントを起こそうってなら、一部のマニアだけでなく、そこらのギャルだって巻き込まないと歴史的ビッグネームにはならない。トリトンは偉大だ。

 

 今回トリトンを見るきっかけとなったのは、先にも紹介した親戚のおばさんから勧めを受けたことにある。

「日本のアニメが好きっていうならココは抑えておかなきゃ」

 そう言って彼女が寄越してきたのはトリトンのLDだった。この時代にデカいわ。

 

 しかしLDで見るにはそれなりの価値がある。このトリトンはなにせ50年も前の作品だから、セリフに出てくる言葉も古い。その中には、当時だと常用、今では色々訳あって放送禁止になっている用語が含まれている。

 LDではセーフだったが、後に出たDVD版には規制が入り、放送禁止用語部分は音声がカットされているという。見てみれば分かるが「めくら」「きちがい」のワードが複数回使用されている。ここらの言葉は今だと言っちゃ駄目なんだよな。

 時代は流れる。パッケージ化の歴史からもそのことが分かる。

 

 いかなる理由があろうとも、オリジナルを否定する編集タイプで見るべきではない。だからフルで楽しむならこのデッカい円盤を持っていけ。そのように説明を受けたので仕方なくLDで視聴。意外と驚くけど、LDでも結構画像が綺麗なものだな。ていうか有名な作品なのに、なんで50年間も経ってBDが出ていないのだろう。

 

 というわけで、50年前の水平線の終わりに架かるの虹の橋を見るべく、懐かしのトリトンを再生だ。

 

海のトリトン DVD-BOX

 

内容

 その昔栄えたアトランティス大陸は、たった一日一晩の間に海底に沈んでしまった。

 アトランティスに襲撃をかけて沈めた張本人は悪のポセイドン一族だった。アトランティスの民だったトリトン族は、滅びる前に未来に希望を託した。それが我らが主人公トリトン

 

 生き残って地上に送られたトリトンは、漁師に拾われ、彼の子供として13歳になるまで生活する。

 時が満ちたタイミングで、喋るシロイルカのルカーが海からの使者としてトリトンの元にやってくる。

 トリトン族の生き残りのトリトンには、一族の仇敵であるポセイドンを討つ使命がある。祖先が残したオリハルコンの剣を帯びて一緒に海に来いとルカーは言うのだった。

 

 地上人として漁師志望だったトリトンからするとビックリな話なので、一時は混乱するが、最終的には海に旅立つ決心をする。

 

 ここより海の平和をかけて戦うトリトンの冒険が描かれる。

 

感想

 ワクワクする大海洋ロマンが描かれる。この点は当時でも今でもワクワクするのでオタクに受けそう。ほとんど海の話という点も当時だと珍しいのではなかろうか。海の冒険には夢と憧れがいっぱいなのだ。

 この他に海を舞台にしてヒットしたものと言えば「小さなバイキングビッケ」「ワンピース」くらいが上がるかな。ビッケも1972年放送だというから、トリトンと同期だな。この年は海アニメが熱かった。

 

 まずはOP曲が良い。そしてOPアニメも好き。一番最初に見る映像がコレになる。

 線が多く、荒くも勢いのある元気な作画が見える。このOPアニメには職人の生命力とスピリッツを感じるぞ。

 海で大爆発が起きてタイトルロゴがドカンと出てくる最初の段階でめっちゃ古いと分かる。派手にロゴを出すココが好き。

 OPアニメ冒頭でルカーに乗ったトリトンが一瞬バランスを崩す作画がある。これって良いバランスにキープした画をそのままにしていても問題ないのに、あえてバランスを遊びを持ってきている。ここはこだわるって作っているなぁ。

 OP映像を見ただけで高まるものがあるなぁ。OP曲は格好良すぎるだろう。今もOP曲の「GO! GO! トリトン」を聴きながら書いている。

 

 海のトリトンも出は丘であり、最初の1話目は漁師のおじいさんの家で暮らしている。地上の血ではないトリトンの目立つ点といえば頭が緑髪なこと。子供達とは仲良くやっていたようだが、地元の大人からは髪が緑であることを気味悪がられていた。

 他の子供達が現地のばあさんからお菓子をもらっているところにトリトンが行くと「気味が悪い」と嫌われてトリトンだけもらえない。あのシーンは普通に心が傷んだ。

 

 ルカーが来ていきなり海の戦士をやれと言われても、トリトンは漁師志望だから拒否するしかない。世界の未来をどうにか出来る力があって漁師をやろうとしている初期のトリトンは妙に記憶に残る。

 

 敵の面々は魚人共である。ワンピースのアーロンさんとかを先取りした連中だったのか。鮫の魚人のポリペイモスなんかは特にワンピースの魚人に見た目が近い。

 化け物は等身大だけではなく、ものすごくデカい怪獣みたいなのもいる。思ったよりもハイファンタジーなテンションだった。怪物とのアクションシーンの動きも古い割には何だか元気で良い。

 こういったデカい敵が出たり、設定を見てもちょっとバビルっぽい感じがしなくもない。

 

 ルカー、イルー、カル、フィンの喋るイルカ軍団が可愛い。このアニメは動物の絵がとても良い。ピピの地元のアザラシの王国に出てくる連中もとても可愛い。可愛い動物キャラには和む。

 イルカは哺乳類でいつまでも海底にはいられない。たまに顔を出して空気を吸わないといけない。そんなイルカの生態についてもちょこっと触れたシーンがあった。ここは子供にとって勉強になる。今はそうでないと知っているけど、小さい時はイルカは魚であり、ずっと水の中にいれると思っていたし。

 

 人魚ヒロインのピピが可愛い。これが貴重な人型のメインヒロイン。よその人魚作品のように上半身を覆うビキニ的な物は無し。すべて取っ払った全裸状態である。

 ピピはトリトンよりもっとガキに見えるから今の段階だとセーフ。でもこれより大きくなったら前をフルオープンは駄目じゃないかなと余計な事を気にして見てしまう。

 このピピが序盤ではワガママお嬢様で大変ウザいしムカつくのだが、早々に慣れて「まぁ良いか」と愛せるようになってくる。そこはマジック。

 トリトンとめっちゃ喧嘩をし、その際はトリトンの良心であり、旅のチームの調整役でもあるルカーが「まぁまぁ」と宥めて仲を取り持つ。中間管理を行うルカーの役目はかなり大きい。

 喧嘩ばかりだったトリトンとピピが、旅を続ける仲で互いを大事に思うようになり、自然と助け合うようになる関係性の変化に和む。

 トリトン族の生き残りはここだけだから、二人が仲良くして数を増やさないと駄目でしょと思って私も二人の仲を応援して見ていた。ピピに萌える。

 今思えばピピはまぁまぁなツンデレ要素も持ってた。半世紀前からもこの属性は日本にあったのか。萌えってのはいつの世にもあるらしい。

 

 敵にもメスの怪人がいたりするが、ポセイドン族はほぼブス。そんな中、向こうの出だけど美人だったのがヘプタポーダだった。貴重な貴重な大人で美人なヒロイン。多分ここだけか。

 ピピはちびっ子、ルカーはイルカのメスの中ではきっと上物だろうが、イルカをやった経験がないので断定は出来ない。しっかり安心な大人のヒロインがとりあえず一人は出てきて良かった。

 ヘプタポーダの物語は儚い。光溢れる太陽の下の世界を愛して求めたのに、体質や運命の関係でそことは相容れず海で死んでいく。彼女の悲しい最後を描く回はシリアスだった。

 向こうの勢力がデカく、トリトン側は数が少ない。そこに味方してくれる数少ない助っ人だったのに、ヘプタポーダは数話で退場してしまう。儚く散っていくヒロインにも美があって良い。

 

 ワクワク楽しい海冒険ばかりではなく、結構シリアスで笑えない展開も目立つ。

 1話目からそうだったが、トリトンに関係することで周囲の人物に確実に危害がもたらせる展開が目立つ。自分のせいで周囲の者が危険に追い込まれる。その点にトリトンは傷つくのだ。

 旅の途中で出会った人間が自分のせいでポセイドン一族に襲撃され、それを助けられず死なせてしまうキツイ展開もあった。

 

 アトランティストリトン族、そしてオリハルコンという序盤からワードは明かされど中身がよく分かっていない要素を突き詰める後半展開には注目出来るものがある。

 オリハルコンってレトロなRPGとかでも見るワードだが、まさか50年も前からオタク界に顔出ししていたのか。そこにも驚く。

 

 この物語は、ポセイドン族が悪さをするからなんとかしようとするトリトン族サイドでメインシナリオを辿っている。しかし、最終回ではポセイドンの都合から世界を見ている描写が目立って来る。ここに考えさせられる要素がある。

 トリトンがそうだったように、ポセイドンもトリトンこそが自分達の平和を犯す悪だと明言してかかってくるのだ。どういうことだろうかと話を追っていると、これは勧善懲悪の話ではなく、結構込み入った難しいオチになっている。

 

 どちらも相応のことをやっているから、果たして侵略者はどっちなのかと疑問が深まる。そして問題なのは、それとは知らずトリトンがポセイドン族の生き残りを一掃してしまったこと。「何も知らん」という無知な子供の行動にも無意識の悪がある気がしてモヤる。

 

 仕掛け人が富野監督なだけに、敵のボスの語りを聞けば、それまでの正義がひっくり返るようなザンボット的オチが待っていた。

 どちらにも守るべき世界と正義がある。だからどちらが悪かなんてことは、第三者に簡単に判断出来るものではない。そんな世界だった。

 

 可愛いイルカが出てきたり、光る剣が出てくる楽しい子供向け作品かと思いきや、ラストで頭を悩ます要素をぶっ込んで来やがった。これが富野流かぁ。厄介だな。

 これは結果、子供向けではない。それだけにトリトンがポセイドンを討った最終回はスッキリとはせず、なんとも微妙な後味となった。すごい作品だったな。

 水平線の終わりに掴んだ物は決して虹の橋だけではなかったのかもしれない。こういう考察を捗らせる内容は好みだ。

 

 というわけで現代から見た50年前の世界の物語がとても楽しかった。真実は一つなのかもしれないが、そこに至る過程は複数用意されている。そんなことが見えてくる作品だった。

 

 

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