こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

るーみっくわーるどの怖い部分「笑う標的」

「笑う標的」は、1987年3月21日に発売されたOVA。約50分のアニメ。

 

 みんな大好き高橋留美子先生が生みし素敵ワールド、通称「るーみっくわーるど」の一角を担う作品である。

 当時はテレビ作品とは一味違うOVAシリーズ「るーみっくわーるど」という企画が展開していた。本作はそのシリーズの第3弾目作品にあたる。

 

 にしても古い作品だな。もう35年くらい前のものか。高橋留美子の経歴もすごい長い。

 

 このタイトルから、古い映画好きの私は、思わずポール・ニューマン主演映画「動く標的」の事を思い出してしまった。あれは出だしと落ちがとても印象的な映画だった。もちろんその繋ぎとなる物語の重要な部分も楽しかった。つまりはよく出来た作品だった。

 そんな「動く標的」とはタイトルが似ているのみで、内容は何も関係ない。ジャンルとしても似通った部分は無し。関係ない話はここらで止めておこう。

 

 タイトルに「笑う」とあるが、内容は全然笑えない。

 ギャグ、ラブコメ、お色気など、元気で明るい要素を売りにした作風で有名になった高橋留美子作品とは思えない程ダークで怖い内容の作品だった。そこがかなり意外。「るーみっくわーるど」と銘打っておいて、こんな意外な物を上げてくるとは、高橋留美子の世界観も幅が広いと分かる。るーみっくわーるどに潜む闇の深淵が見える点に面白みがある作品だった。

 

 では、そんな笑えないけど面白くて結構好きになれた本作を振り返っていこう。

 

るーみっくわーるど「笑う標的」音楽篇

 

内容

 主人公少年の志賀 譲(しが ゆずる)は、高校生で弓道部のエース。同じく弓道部所属の里美とは恋仲にある。部活も恋も充実した譲の明るい青春ライフが見えるのは冒頭だけの話。

 

 ある日、譲の従姉妹であり許嫁でもある梓が学校に転校してくる。譲の青春に潜り込んで来た梓には厄介な秘密があった。

 

 梓には、人間の血肉を好んで貪る化け物が取り憑いていた。

 許嫁の自分を差し置いて譲に近づくガールフレンドの里美に激しく嫉妬した梓は、化け物の力を使って里美を襲おうとする。

 

 今、譲と里美の青春が危ない。

 

感想

 テーマとして、少女が化け物の力で人を殺して食ってしまうという怪奇性が上げられる。そして梓の言動を見れば、嫉妬から発する女の恐ろしい情念の要素も見えて来る。メインの男女3人の間に見るダークな三角関係も強いテーマになっている。

 

 現在は、同じ作家が生んだ名作「うる星やつら」のリメイクアニメが放送中。あちらを見れば、あたる、ラム、しのぶで愉快に展開する三角関係が楽しめる。対してこちらの作品の三角関係に冗談は無し。早々に「殺し」という手札も切って来る荒い展開で関係性が進んでいく事になる。

 

 序盤だと薄幸の美少女といった感じの梓だが、徐々に怖い。あと、なんかエロい。

 演じた鶴ひろみの声が懐かしい。とても綺麗な良い声。色っぽい女の芝居はお手の物で、今回はヤバ怖い狂気性を出した芝居も見せていた。良い演技。

 

 5年も会っていなかった中で、他の男子と関係せずただ譲を想っていた。この期間で梓のヤンデレ属性は十分に育ってしまった。

 梓は、人生の早期段階からも男をその気にさせる妖艶さを持っていた。そのため幼い頃にも男に襲われたことがある。その時には石で殴って撃退した、というか多分キルしちゃったことが回想で描かれている。ここも暗く怖いシーン。

 このせいもあって譲以外の男が駄目になり、譲への依存と執着がマックス状態になっている。不憫な娘だ。

 ここから里美が邪魔だから消すという簡単な思考回路でマジに消しに来るから怖い。先に里美の飼っている犬を消しに来るが、あれも可哀想だし怖かった。

 

 化け物の力で攻撃的になるらしく、それを制御しようと苦しむシーンも見えた。本人としては、殺すまでせずともと想っていたのかもしれない。でも化け物の力の暴走がなくとも、譲に執着する心は天然のものだったと思う。つまりは、どっちにしろヤバい女だった。

 

 るーみっくわーるどにいるよその女を見てもこういう怖いヤンデレはなかなかいないだろう。うる星やつらのリメイク放送期間中に交互に見たことで、同じ作家でこうも違う世界観を描けるのかと驚いた。

 梓というヤンデレサイコ女の存在感が際立つ作品になっていた。

 

 梓の周りにウヨウヨと発生する化け物も印象的。発生時にはネズミのような鳴き声がするので、最初はネズミ型の化け物なのかと思った。でも見てみるとデカいヒルみたいな見た目も謎な化け物だった。この化け物がキモい。

 らんまやうる星やつらでは、萌えヒロインがわんさかな綺麗な世界を見せてくれた高橋留美子作品でこんなキモい化け物を見ることになろうとはな。当時のるーみっくわーるどユーザーはびっくりしたのではなかろうか。

 

 最初の見た目だけなら里美とお別れして梓に行っちゃえばと思ってしまった自分が恥ずかしい。ヤバヤバ女だった。

 

 梓は人や動物も殺しているし、最後は里美や譲まで襲ってしまう。

 一度は降参して大人しく死ぬのかなと思ったら、それはフェイクで譲を道連れにしようとまた襲ってきた。性根も悪いな。

 可哀想だが、化け物の力に取り憑かれ、精神も病んでしまった梓の事はキルするしかない。譲と里美は愛の力で梓を葬ることになる。

 梓に救いはなかったのか。化け物が剥がれて元通りに生活するという甘い未来はなかった。こんな救いのないオチに持っていくのもこの作家にしては意外。

 

 里美は助かったように見えたけど、アニメのラストは、譲と里美のツーショット写真から里美だけが消えてしまう不気味な演出でオチとなる。これを見るに、梓の怨念に殺られて結局消されたのでは?とも予想出来る。不気味だし気持ちの悪いエンドだったな。

 

 後味が悪い暗い作品だけど、人間心理としてリアルな所を突いた面白いドラマ性があったと思う。この手のダークな作風も結構好き。私には受けが良い異色作になっていた。

 家族とかにもちょっと見せてあげたい。留美子もこんなの描くんだぞと自慢と布教を同時に済ませたい。

 最終的に女の情念は怖いと知れるものだった。

 

 それから配役として気になる点は、里美を演じたのが人気アイドルの松本伊代だったこと。ヒット曲を放ち、後には芸人のヒロミの嫁になったあの人だ。

 これさすがに見るまで知らなかった。伊代ちゃんファンなら是非見た方が良い。随分昔のことだけど、これの収録をした事とか本人は覚えているのかな。こんな仕事もしていたのか。意外な発見だった。

 

 というわけで、不気味で怖い側面も持つのが「るーみっくわーる」である。楽しみ方の幅広き素敵世界で今後も楽しもう。

 怖い思いをした後は、令和版うる星やつらを見てしっかり萌えよう。

 

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