こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

現実から逃げたいその想いと逃げずに向き合え「グッド・ナイト・ワールド」

「グッド・ナイト・ワールド」は、Netflixにて2023年10月に配信された全12話のアニメ。

 

 ネトフリ秋の陣だな。この秋クールのネトフリ枠はどれも大変面白かった。

PLUTO」「悪魔くん」「ケンガンアシュラ2」、それぞれに夢中になれた。そしてこちらも大変良い。

 世間的な良い悪いは私の査定に反映しない。私としては今期の中でトップクラスに好きでした。出会えて良かった。

 

 内容はSAOとかみたいにヘッドギアを被ってゲーム世界に行く系。ベースの要素としてコレがあるだけで危ないと思うだろう。私も1話目冒頭を見た時には「もういいわ!地上波でたくさんあるからネトフリでまでネトゲーせんでいいわ!」って怒り混じりにツッコミました。でも後で意見が変わってきます。

 今気のネットゲーム枠といえばシャンフロ、とあるおっさんのクソアニメなどが顔を並べているが、あれらより本作の方がずっと良かった。視聴後一番良く眠れる満足感が得られるのはコレ。ちなみにとあるおっさんアニメは、仕組み上視聴中からも眠くなる。

 

「プラネット」という楽しいゲーム世界内で、主人公達は赤羽一家という疑似家族チームを結成している。メンバー4人はいずれもやり手プレイヤーとして活躍していて、周囲には廃人軍団扱いされてている。

 最初はネットで家族がのんびり楽しく過ごす感じで行くのかなと思った。これが今年前半にやった「異世界のんびり農家」みたいに、コピペ女をどんどん迎えて家族を増やす間抜けな家族ものになるなら、この私がわざわざお気に入りとして紹介するわけがない。

 

 いきなり明かされる仕掛けが、疑似家族と思って集まったプレイヤーの中の人が現実世界でマジ家族だったこと。誰が仕組んだでもなく偶然に偶然が重なって家族達はそれぞれの正体を知らずネット家族ライフを楽しんでいる。

 ヤバいなコレ。やばい気がしてくる。同時に面白い!面白い設定で引き込まれる。

 コレは自分がこういうことをしていて、相手が本当に家の人って後で分かったらめちゃハズいていうか、それとも違うすごく変な気分になりそう。実際に後で各員の素性が分かってしまう時にもそれぞれ普通でない反応を示していた。

 

 赤羽一家の現実の姿は、機能不全家族の有馬家の皆さんだった。

 ヒッキーの兄、優等生の弟、説明が厄介なヤバいパパ、心を病んだママ、皆心に問題を抱えている。母は出て行っていることから心身共にバラバラの家族だ。

 家族各員は戸籍上だけの家族しかやっていない。そのため深層心理からネットに家族の温もりを求めたのだろう。結果赤羽一家が結成となったのだろう。

 この偶然すぎる設定を成す家族各員のキャラ設定が現代的でリアル寄りといえばそんな感じにも見えるから興味深い。同時にこうも家庭内の人間関係が希薄となると怖いし悲しい。

 

 機能不全家族という概念を知ったきっかけといえば、映画「理由なき反抗」を見たことだった。あれにも悲しい家族図が見え、落ちもかなり悲しかった。

 有馬家を見ると笑えない。リアルにありそうだからこそ笑えないな。

 ネットゲームに逃げ込む人間心理とは不思議なもので、非現実世界入りする理由を聞けば実に現実的なのだ。

 現実的に物事を見てショックを受けた人間だからこそ、虚無とも呼べる非現実世界に逃げ込む。難儀な話だなぁ。

 

 我が家の家族関係は暖かいもので有馬家ほど凍りついたものではない。外が好きだからヒッキーではないし、現実が楽しいってことで私はネットゲームなんてろくにやったことがない。ファミコンはめちゃやったけど。

 こういう狭い世界でしか生きられない間もいるのだなと思うと笑えねぇ。今ある幸福な生活に感謝だな。

 

 プレイヤー イチこと有間太一郎が主人公。この彼はなかなか好感が持てるキャラだった。

 彼の持つキャラ性はすごい素直だと思う。根暗でヒッキーでいかにもな現実逃避キャラだが、逃げたい自分がいることを全面に出す描写があることから、これはこれで今を生きている人間の鮮度が感じられて良い。

 基本腐ったお兄ちゃんだが、口ではあれこれ言っても弟や父に対して優しさも見せる。ヒールを演じたい自分を押し切って根っからの善意が出ることで良い人間だと思える。

 弟が死にかけた時には自分を犠牲にしてでも助ける。あれだけ「死ね死ね」言っていた父に死が迫った時にはなんだかんだ助ける言動も取る。根っこは良いやつじゃねぇか。ヒッキー体質に共感は出来ないが、人としては好感が持てた。

 

 家族達も濃い目のキャラに描かれている。

 一見すると問題ないイケメンに見える弟の明日真だが、心の中では現実の生きづらさに悩んでいる。

 明日真のキャラネームが「あああああ」という適当すぎるネーミングなのに笑う。もっと想いを込めてつけろよ。

 サクッとオムライスを作って食わせてくれる点でスペックが高い弟だった。オムライスの作画が美味そうだった。

 

 お父さんはホントキャラが濃い。間違いなく家庭人としてダメなクソオヤジなんだけど、所々で何か可愛いし人間らしくも見える。このお父さんが本作で一番好きなキャラだった。

 ネットゲームではイケボの赤羽一家のリーダー、現実では情けないシーンが多い。それぞれを演じ分ける大塚明夫の芝居が良い。大塚明夫史上最もダサいおっさんの芝居が見れたかも。コレ、演じた本人も所々笑えたのではなかろうか。

 後半でハゲ面がバレるのに笑うし、その後にはフルハゲムキムキ半裸男になって戦闘に参加するしでもっと笑った。

 プログラムとしてアンイストールされそうになった父を引き止めるために、太一郎が父の禿頭を掴むところも面白い。後半のシリアスなところに入ってちょいちょい押し出される父のハゲネタで笑える。

 コレどうしたいんだ。笑えるどころではないシリアス展開でハゲいじりを持ってくるという作り手のユーモアとして惜しみなく笑って良いものかどうか迷う。特に最後の父が消えてしまうところなんてハゲを笑うノリじゃないのに。太一郎が泣いているのにハゲネタで来るからしっかり感情が入っていけない。

 ヘルニアが痛む要素でもちょっと笑いを取っているし。父親が悪役なのか、クソキャラなのか、お笑い要員なのか、どれにも完全に振り切っていない良いキャラバランスなのはグッドだった。

 

 母親は性格の可愛い女なんだけど、やはり精神を止んでいる。亡くなった有馬家の娘の幻覚がいつまでも見えている設定は痛ましすぎる。遠藤綾のママ声は良かった。癒やされた。

 

 かなり終わっているファミリーだけど、それでも家族は一回結成したら簡単に心身が離れるものではない。

 希望が持てる再構築がしっかり叶ったとまでは行かないが、最後は各員が折り合いをつけて未来を歩んでいるのが見えて良かった。

 

 ハゲ親父に寄ってくる神室さんも可愛いお姉さんだったな。なんであの親父モテてんだ。かつらのことは神室さんも知らなかったっぽい。

 神室さんがめちゃ酷い殺され方をして、雑に家の庭に土葬されたのは可哀想。

 

 作品の魅力的な点であり、教養があると思った点は、ネトゲーに抱くプレイヤー各員の心情が吐露されること。

 私はゲーム機でオフラインのゲームしかやらない。1人でやれば良いものを、オンラインゲームには人を求めてやってくる者がいる。現実が嫌で逃げて来るくせに、人が作ったコミュニティ、またはバーチャル空間であっても社会の一部になりたい人の心理とは一体どういうものなのか。それが見えてくるキャラ同士のディベートのようなやり取りは大変興味深い。私が普段全く考えなければ言いもしない意見がたくさんなのでいちいち頷いて聞き入ってしまった。

 

 イチは初回から最終回ラストのセリフもそれで締めるくらい現実の世界の何もかもに対して「クソ」だと思っている。こいつは本当にゲームの中でも外でもずっと「クソ」って言ってるからストレス溜めすぎ。全話合計してこれだけ1人がクソクソ言ってるアニメもないぜ。まぁクソアニメならたくさんやっているけど。

 

 イチは現実からの脱却のためにゲームに逃げている。死ぬならココだとまで言っている。

 イチの有人のピコちゃんがまた可愛いヒロインで好きだった。SAOでもゲーム内で死んでしまうキャラを演じていた悠木碧がピコを演じていた。

 ピコがネトゲーに抱く期待は、現実逃避を叶えるものではなく、現実世界で生きる人間心理のバランスを上手く調整するため。非現実世界が現実でのダメージの癒やしとなることを重視した意見だった。

 現実があってこその非現実世界での楽しみがあり、どこまで行っても人は最後には最初の地点である現実に帰って人として生きる。ゲーム世界は、現実から逃げずに戦う英気を養うための回復ポイントくらいに思っている。

 このように2つの世界の距離感を弁えた上で趣味として楽しむのが一番良い形かもしれない。

 

 ピコの海賊団に集まってくる仲間達にも、そういう前向きなネット民が多い。

 ピコの仲間には、普段はストレスの溜まる国語教師をしている者がいる。その彼は、ネトゲーでは殺しをやりまくっている。そうすることによって、現実世界で溜まったストレスを解消しているのだ。それはありそうなリアルな意見。

 

 シガテラの意見は心無いものかもしれないが、これも強く否定意見がないリアルなものだった。

 ピコの海賊団については、リアル世界の落語者が集まって傷を舐めあっているだけ、それを見れば吐き気がすると悪し様に言うシガテラの発言も別に嘘ではない気がする。その目的もあって集まる仲間もきっといる。

 ヘッドギアを被って回線一本で繋がる疑似ファミリーなんて虚しくて馬鹿らしい。イチやピコを否定してそう言うシガテラの意見は、酷い物言いであれど強く否定出来るものでもない。それはそれで大事にすれば良い一つの価値観だと思う。

 

 レオンの考えも一理ある。ゲーム世界のことだし厳密にはルール違反でなくとも、ピコ達の海賊行為に対しては激しく否定意見を飛ばしてくる。

 ゲームだからといってもプレイヤーは現実世界の人間。根っこに人間の要素があり、それで多くが集まればバーチャルとはいえここは一個の社会である。だから自分だけが良ければそれで良いのエゴから平和を乱すのは許せない。このようなレオンの意見も確かにそうかも。

 ゲームの世界と現実世界を切り離して楽しんでも、現実の人間としてどの世界でもマナーは守ろうというレオンの意見も大事。

 レオンはAIの友達に愛着があり、後にはAIを蹂躙する人間こそを社会から追い出そうとする。この思想は危険だが、思考過程がまるで理解不能なこともないから複雑。

 

 正解不正解はよそに、皆ネットに対して色々な価値観を抱いている。この思考する人間性を示した内容を高く評価したい。

 よくあるゲーム世界に入ったり、ゲームみたいな異世界に行く作品だと、現実から逃げている、初手から現実の要素を消してくるものが多くある。現実に帰って来ず、冒頭以降現実を描かない物がほとんどだ。

 この作品の良い所は、現実から逃げたい人間が丁度逃げているその瞬間を深掘りしたこと。現実から逃げたいという心理から逃げずにどこまでも主人公の心理を追い込んで彫り込む攻めのスタイルが良かった。

 途中までならいつもの異世界物と似ているけど、核の部分が全然違っている。なろうとかを見ているといつも「日本から逃げるな!」と突っ込んでしまうが、これは逃げているリアタイからだって逃げずに描き込んでいる。

 第1のテーマとしてモロに非現実的要素を持ってきているが、その先ではキツいリアルと向き合う家族劇が描かれているのが面白い。

 

 後半のネット世界の脅威が現実に侵食してくるSF展開にはスリルがあった。

 ヘッドギアを通じて入ってくるウイルスによって精神と肉体が分離状態になり、精神はデータに飲まれてデータ化されていじくり回される。こうしてプレイヤーは、呼吸はしていても脳死みたいな状態になってしまう。怖い。

 これってありえんだろうとは思うけど、この手のゲーム技術が進みすぎたら、いつかはこういう人体にも効果的なネット攻撃が完成しちゃうことも無理ではないのかも。

 かつて無理と思っていたものがだんだんと現実化されていくのがリアル世界の歩みだものな。コレがいつまでもフィクションであることを願おう。

 

 黒い化け物のウイルスに感染した者は、目の色が無くなって目から血を流す。この感染者の分かりやすい身体の異常は、ホラーゲム「SIREN」のそれのようだ。もしかしてあれをヒントにしたのかな。

 

 楽しくて12話を半日で見てしまった。ええやん。

 今期ネットゲーム枠のシャンフロは、前評判がアゲ⤴だった割には始まって早々肩透かしだったし、とあるおっさんはMAHO作品なので期待するなって最初から教えてくれている。そこへ来て「グッド・ナイト・ワールド」はグッドな出来で良かった。

 

 にしても今期はネトフリ枠の調子が良い。私がこちらに傾倒しちゃうのも当然ってものだ。

 

 というわけで大事なのは、現実から逃げることでなく、現実から逃げたいその心から逃げずにしっかり向き合えってことだな。

 私は何もヒッキーや現実から逃げている人間を嫌ったり否定したいわけではない。それは出来る環境にあるならやれば良いし、私だって叶うならやりたい。だって楽しいことやり放題だし。

 私が心底ダメと思うのは、思考を止めること。ネットばかりの人達も思考はしっかり働いている。この作品に出てくるネット民達はその点で合格なのだ。

 人が死ぬ時は思考を止めた時だ。思考しない人間に魅力など皆無である。だからそこは回避だ。

 

 イチもピコもダメ親父も、皆それぞれの立場から一生懸命思考して生きている。その部分で手を抜くことはしない。そこが大事って思えるアニメでした。

 まぁでも引きこもるにしてもやっぱり清く正しく楽しく生きると良いよって思う。ネット住民になるならなるで精神は健康でいようね。

 

 

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