こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

自然と人間で仲良くしよう「手塚治虫名作集④ マンションOBA」

「マンションOBA」は、手塚治虫による短編漫画。

 

 GWだしゆっくり読書でもするかぁ。そう思って倉庫をあさったら出てきたぞ手塚マンガ。

 シリーズを組んでいくつか発刊された短編集のその4が出てきた。これは読むっきゃない。

 

 手塚治虫名作集④「マンションOBA」は、1995年に発刊された文庫本。

 このタイプでの発刊自体がもう30年くらい前か。そして掲載された作品の発表時期はもっと古い昭和時代のものだから、日本マンガの歴史も長いなぁとしみじみ思っちゃう。じいさんの時代かそれより前の作品群になる。

 

 色んな物を読んで来てもやはり日本マンガの父だとか、もっと崇めて神なんて呼ばれるこの人の本に戻ってくるよな。

 我が家も英才教育が過ぎるから、水木しげる石ノ森章太郎手塚治虫ら大衆受けの良い名作メイカー達の本をチビの頃からも多く読む事が出来た。生まれてから割と早い段階で手塚作品とも出会っていたはず。我が家の大人達によるナイスアシストでした。

 このくらいのレベルの作家ともなれば、仕上げてくる物も芸術品扱いってことで図書館にも置かれていた。あとは親がたくさん持っていたのを読めた。それは良い環境だったと振り返ることが出来よう。活字でも絵でも書物は読めば教養だからな。

 

 手塚マンガで最初にしっかり読んだのは確か「W3(ワンダースリー)」だったはず。あの作品を読んだ時には、手塚マンガの動物って可愛いなぁと思ったものだ。

 で、今回手に取った短編集にも動物キャラが多く出てくる。動物と人間が生きる地球ごと愛するほっこりなテーマ性が目立つ短編達だった。それぞれサクッと楽しめて面白い。

 

手塚治虫名作集 (4) マンションOBA (集英社文庫(コミック版))

 

収録作品は

「マンションOBA」

「春らんまんの花の色」

「ころすけの橋」

「モンモン山が泣いてるよ」

「てんてけマーチ」

「はなたれ浄土」

「二人のショーグン」

 以上7作。

 

 表題作の「マンションOBA」、続く「春らんまんの花の色」は同じシリーズで、妖怪達が変化して人間社会に溶け込んでいる内容になっている。それぞれ出てくるメインキャラも共通している。

 平和だった森が、時代の波を受けて開拓されてしまい、そこにマンションが建つ。すっかり開拓が進んだことで、森にいた妖怪たちは住処を追い出されることになる。こうなったら人間に復讐だ!と一行の新しい戦いが始まるのだ。

 こともあろうに人間が作ったマンションに妖怪連合が住み着いて基地にしているのが面白い。お化けが住み着いているからマンション「OBA」ということである。楽しそう。

 マンションには人間の子供も出入りしていて、妖怪達はその子供を手先にして人間への復讐を考える。

 子供をこっちで囲ってすごく悪いヤツに教育して野に放つ。こうして人間界に混乱をもたらすことこそ最強最悪にイカした復讐になる。その考えで行くのだ。

 でも悪い大人がいるのに対して人間の子供はどこまで行っても根がいい奴なのだ。妖怪達もなんだかんだ根の良いやつだから子供を復讐のコマにするのが申し訳ないという流れになっていく。で、なんだかんだ子供と妖怪が仲良くやって行くところにほっこりする。

 人に化けている森の妖怪たちのデザインが良かった。主に動物の妖怪達だから変化を解けば手塚マンガの力の発揮どころの可愛い動物が楽しめて良い。でっぷりとしたガマガエルのキャラが良いな。人間の子供に恋している花の精のヒロインちゃんも可愛かった。

 

「春らんまんの花の色」では、悪い土地会社から土地を取り返すための妖怪たちの戦いが展開する。

 いつの時代にもこの手の悪い土地会社ってあるんだな。土地を取り返してから元の森に戻すのが最終目標だが、裁判して30年くらいしないとそれは無理というなんかリアルな落ちだった。でも妖怪は寿命が長いので、じゃあ30年ここでゆっくりやっていくかぁで一件落着な内容だった。

 この妖怪シリーズ2作はそれぞれ昭和47年発表作品と説明がある。あれから数えて今だったらすっかり妖怪達もミッションコンプしているはず。一回ハゲにした土地にまた自然をとなるとすごく大変だと分かる話だった。

 

 自然を削る開拓によって迷惑を被った地球の仲間達が人間に物申すという内容から「平成狸合戦ぽんぽこ」を思い出すテーマ性だった。ここは人間だけがいる星ではないから折り合いをつけて皆仲良くで行こうってことだな。学びがありました。

 

「ころすけの橋」は収録作品の中で一番好きだった。可愛いしほっこりするし感動もする。

 幼いカモシカのころすけは、吊り橋の丸太の間に足を挟まれて動けなくなってしまう。これがどうやって抜け出せず、このままだと死ぬのを待つだけ。それを少年が長期にわたって世話をするという話。

 どこかで足が抜けるのかと思いきや終始ころすけは橋の上で生活することになる。くまのプーさんが巣穴に突っ込んだらケツが抜けなくてずっとそのままという話があったのを思い出した。

 山にいるカモシカのリーダーのキヨモリとは犬猿の中の主人公少年だが、ころすけには大変優しい。橋の上から動けないころすけのためにエサを持ってくるし、雨風がしのげるようビニールをかけてやったりと季節を跨いでも世話をしてくれる。

 ころすけと少年の関係性も可愛らしいが、人には懐かないキヨモリがころすけを遠くから見守っていて、少年ともちょっと仲良くなっている感じになっているのも良い。

 

 知らんかったがカモシカは天然記念物だという。カモシカとトレードしたことで台湾ンのパンダが日本にやってきたとも説明があった。へぇそうだったのかぁ。外交の手札にもなったすごい動物。

 そのカモシカも増えすぎると人間社会にとっては害悪となる。人里に降りて作物を食い荒らすというのだ。悪さをする獣ならぶっ飛ばしてやりたいところだが、天然記念物に手出しは出来ないとルールで決まっている。ここはリアルな都合。

 カモシカの被害を受けたことで村人達からのクレームがやばい。これに答えて村長が政府にかけあい、増えすぎた分を狩っても良い特例を受ける。こういう流れもあるのか。なんかリアルな都合。

 カモシカって本当にこうして狩られた分もいたのかな。実物を見たことがないのだけど。

 

 可哀想なことにキヨモリも殺られてしまい、橋の上で動けないから害の無いころすけまで始末される。ころすけが始末されたのが可哀想過ぎる。少年の訴えも大人達には届かずで悲しい落ちだった。

 人と動物との交渉ってのはやはりあるもので、時には残酷でも目をそむけてはいられない厳しさもある。少年の父もカモシカ討伐は村の未来のため仕方ないと腹をくくっていた。子供には厳しいけど、現実的な話だったなあ。ころすけがとにかく可愛いから癒やされた。

 

「モンモン山が泣いてるよ」も自然破壊と人間生活の繋がりを描いた内容。

 冴えない少年が、大きなポプラの木の元で蛇神に憑かれた男と交流を交わし、その中で心がちょこっと大人になっていく話。なんだか切なく胸がキュンとなる内容だった。

 序盤で子供達が当時のホットな遊び「ポプラ相撲」をしているのが可愛らしい。我々の郷でいうところの松の葉相撲のポプラ版ってところかな。

 蛇神の男が口にする内容がなんだか儚い。戦争をするには軍事基地が必要であり、それを作る材料には山の木を切り倒すのも必須作業となる。マンション作りの開拓作業でなく、戦争でもいくらか自然が持っていかれたのだと知れた。悲しい時代があったと分かる男の語りにシュンとする。

 冴えない少年が男との思い出の木を守るためにマジになる熱血ターンが印象的。考えつくあらゆる妨害行為を尽くして伐採作業員達の邪魔をするが、抵抗むなしく思い出のポプラは切り倒されてしまう。切ないけどこれが現実なのよね。

 少年が大きくなって子供達と山に向き合えば、山がモンモンと泣いている切ない自然の音色が聞こえるのであった。私も街か山かと言われれば完全に山育ち人間だったので、なんか刺さる話だったなぁ。まぁ私の育った山は土地的に使い道がないため今でも木の刈り取り無しでそのままなんだけどね。じゃあ良いことだ。

 

「てんてけマーチ」は、ヒノキで出来た太鼓とそれの打ち手達による魂継承の物語。

 じいちゃん→孫→その息子へと打ち手の魂が受け継がれて行く内容になっている。まぁ手塚式で見るジョジョと思えばもっと多くの人間が楽しめるはず。←脳の騙し方が雑

 

 美人のヒノキの精が打ち手達を導く。太鼓の音が好きすぎて聞く度に感じてメロメロ状態のメスの精が可愛い。自分もこのような音を鳴らしたいから木を切り倒して太鼓にしてくれ、そして奏でてくれとオファーをかけてくる。どんだけ好きやねん。

 このヒノキの精が良かった。マッチョなおっさんのヒノキでなくて良かった。植物にもオスとメスがあるんだな。

 ミーハーな感じも見せつつのヒノキの精だが、しっかりと身持ちが固い。太鼓にはなりたいが、誰にでも体を許すわけではない。最初のじいさんから続く太鼓打ちの血を持つものでなきゃ駄目。なので他の打ち手が割り込んでこないよう、この一族の勧誘に執着します。なんか情熱的だし、それから可愛い女だなぁ。この精霊には萌えました。

 

 じいさんが病床に伏せる晩年においても孫に向かってやかましく太鼓の打ち手を引き継げというシーンがある。ここでわぁわぁ言う内に布団の中で墓石になってしまう演出が面白い。ばあさまも「墓石になってしもうた」の間抜けなノリで布団に横たわる墓石に寄り添っている。

 人の死という重い要素を最大限軽くして次のエピソードにスムーズに飛べるよう考えられて表現だな。コマが変われば瞬時にじいさんの墓石化が完了しているこの発明は面白い。葬式、火葬の面倒をすっ飛ばして次に行くリズム感が小気味よい。この本を全部読んで一番感心したシーンだ。

 

 当初は兵隊になるから太鼓は打たないと言っていた孫も、じいさんの墓石化とヒノキの精の執拗な推しを受けてバチを握ることになる。最初は下手くそだけど立派な打ち手に進化する。

 ここからが辛いロマンス。最初はなりたかったが今は用がない兵隊招集の話が来る。所謂赤紙ってやつね。話を蹴れば非国民という世のそしりを受けるとか。きつい時代だな。今のアニメやマンガで慣れたオタク達なら絶対に戦場に立てんだろって思った。もちろんそこは私も例外ではない。

 

 主人公は可愛いヒノキの精を残して出兵する。無事に帰ると約束するのだが、約束の3分の1くらいが守れず、肝心な腕の片方を戦場に置いてくることになる。これは可哀想。そして当時の世の厳しさ。腕を無くすのは奏者として致命傷なダメージ。

 次は片腕を失った彼の息子へと継承する物語が始まるが、息子は太鼓なんてしょっぱい、世はロックだということで太鼓打ちの話を蹴る。郷を出てアメリカに行くが、その後になって太鼓はロックソウルを奏でるのにも使えると分かり、アメリカに太鼓を輸送して向こうで力強い音色を奏でるのだ。

 すったもんだあったが、じいさんの代から繋いだ太鼓の音はアメリカの空にも響いていると感動出来る落ちだった。

 

 リアルなご時世の都合に継承者の魂、そして自然が遣わした精霊がいるというファンファジーが融合した名作だったな。これが今の子供に一番見せたい話かも。心に刺さる。

 

「はなたれ浄土」は、ちょっと笠地蔵っぽい話。

 寂しい通りで寒さに凍える地蔵を可哀想に思った少年は、地蔵に笠を被せるよりもっと待遇良く暖かい家に招待する。良かれと思ってのことでも地蔵をテイクアウトするのはどうかと思うけど。

 主人公少年の名前は山原工一(やまらは くいち)というのだが、皆はクイナと読んで本名呼びしない。クイナってなんか綺麗で格好良い響きじゃないかと思ったが、由来はそんなに良いものではない。

 ヤンバルクイナってのは、なにかあればおどおどして茂みの中に隠れる習性があり、進化の上で弱いとされている。で、なんかはっきりしないでグズグズしている工一くんの性格もそんな感じってことからクイナってことになったらしい。蔑称でした。

 周囲がヤンバルクイナの存在とその習性までも知っていることが前提のネーミングとなるから、インテリジェンスの高いお友達が集まる地域なのかな?と豊かな想像力で当たりをつけることが出来る。

 

 地蔵様をテイクアウトして優しくしたら、後日謎のはなたれ小僧が現れる。こいつの鼻水を拭き取った紙を燃やすと、クイナくんの願いが叶うようになる。この設定を活かしてなんか面白いことになる話。

 クイナくんの実家の商売は休憩所の営業。観光客とかが来て飯を食って休む施設らしい。でもお店付近は最近益々盛り下がっている状況。儲けが危ない。

 近くに新幹線が通って近隣のバスの本数も減り人が全然来なくなっている。時代の流れで食うのに困る立地状況に変わっていく点はなんかリアルだった。

 鼻垂れ小僧のマジックで寂れた休憩所を素晴らしい施設に変えて一時は雪崩のごとく客が来るようになるが、父ちゃんはそれでウハウハ気分にはならない。特に大きく変化を望むことはなく、普通で良いのだという庶民相応の心得を持つ父ちゃんが実に人間らしい。

 最終的にはファンタジーの力にすがることなく現実を受け止めて一家は引っ越ししてエンド。時代の流れで生活が変わっていくことがあっても、強く覚悟を決めて次のステップへ行け、そう学べる内容でした。変わりゆく時代のリアルも見える作風。

 それからクイナくんの傍で「あんたしっかりしなよ!」のノリで活を入れてくれるヒロインちゃんが良かった。

 

「二人のショーグン」は、猫好き少年とメス猫が出会って起きるファンタジー物語。

 主人公少年の名前は将軍と書いて「まさゆき」くんという。ほぅ、そこそこ生きてきたが、その名前の同級生は一人もいなかった。

 そんなノーマル読みをすればショーグンくんな人物が二人になってなんか面白いことになる話。

 ショーグンくんが40匹もの捨て猫の世話をしているのがすごい。その内の一匹 ピンクキャットちゃんは、世話をしてくれた恩からショーグンくんに変身して彼の代わりにダルい学校の勉強を変わってくれるという流れになる。

 ピンクキャットがショーグンに変身してもオリジナルと結構違っている。人に変身したタイミングで本物のショーグンが丸刈りになってしまうことで余計に違う。でも同じ世界に二人がいて交代交代でショーグンとして生活するからおかしい。周囲も別人に入れ替わっているだろ?って普通に怪しんでいる。

 親には隠すこと無く息子が二人になった状態で家庭生活を送っている。これがおかしい。家族の受け入れが案外スムーズ。

 ここの家の父ちゃんは汚職問題に一口噛んでいる議員さんで学歴至上主義。本物だろうが猫だろうが、東大に行ける方がマジの息子だと言っている。酷い。

 二人のショーグンによる騒がしい学園ライフを楽しんだ後には、父ちゃんも含めた街の悪徳議員を断罪すべくシークレットミッションが遂行される。そんなこんなで暇なく楽しめた。

 しかし悪徳議員なんてのは何時の世でもいるものだな。こんなに古いマンガでもネタにされていたし。ていうかつい最近でもニュースになっていたような。まぁ犯罪に近づけるポジでもあることから、心を緩めたらすぐにでも手が出ちゃうんだろうな。そこで手を出すか引っ込めるかが人か猿かの境界線か。深い世界だぜ。

 ピンクキャットちゃんがショーグンくんに恋している乙女なターンには萌えました。

 

まとめ

 やはり手塚は偉大。

 個人的に長編の方が好きだからそんなに期待せずに読んだらどれも面白いし可愛らしい内容で癒やされた。

 地球愛や動物愛護の精神が見えるのが良い。生き物や自然は大事にしよって思えました。それと動物のキャラデザが好き。

 とても楽しい短編集でした。名作達に拍手と胴上げを。

 

 

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