こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

僕らの学校生活に襲いかかる限界突破のヤバさ「漂流教室」

漂流教室」は、1972年から1974年にかけて週刊少年サンデーで連載されたとんでもないマンガ。読めば分かる。マジでヤバい。

 漫画家 楳図かずおが手掛けた傑作である。

 まことちゃん以上にグワシな怪作だったぜ。←意味不明評価

 

 サンデーコミックスでは全11巻がリリースされた。

 これを小学校か中学校の時に全巻セット購入し、1日で読破したのは良き思い出。ぶっちゃけ、こいつを読んだ後には色んな感情がこみ上げて眠れない夜がやって来ました。同じ事になった少年達が多くいたはず。そしてそいつらは今ではじいさんになっていることだろう。なにせ半世紀くらい前のマンガだし。私が読んだのは21世紀に入ってだいぶ経ってからです。

 それを大切に倉庫で保管していたのをこの度引っ張り出して読んでみた。このマンガも漂流しまくって私の元に舞い込んできた中古マンガだな。そう思うとロマンス。

 

 楳図かずおの絵も世界観も超好きなんだよな。この怖くてキモくて狂気性溢れる感じが私の趣味に大変マッチしている。

 さっぱり爽やかな青春はそりゃ良いが、時には楳図ワールドがくれるその手の揺らぎだってあった方が良い。人が青春に求めるものは安寧とスリル。ここの比率はほぼフィフティーフィフティーなのだ。なので私はドラえもんオバQも読めば、真逆ジャンルの楳図ホラーもしゃぶり尽くす。

 

 ウチの父親が怪奇マニアだから、水木しげる楳図かずおやその他キモくて怖くて楽しいホラー作品を手掛ける作家にならなんでも突っ込んで行くんだよな。そこの子供の私も自然とその進路を取ることになった。かえるの子はかえるだし、鳶の子だって鷹でなくやっぱり鳶なのね。自然の流れです。

 私がこのマンガを自分用に買ってきたのも父の楳図推しがあったからだ。

 それからこれの小説版も出ていた。そちらはそちらでやや異なる風味の面白さがあった。割と薄いサイズで5巻くらいのが出て、サクッと読めるやつだったような。

「漂流は全部行った方が良い」という言葉と共に父が与えてくれた小説版も楽しんだものだ。名台詞だな。それと「楳図の絵ばかりに頼るな。この作品のヤバくておもろい世界観を活字だけでも感じ取れるようになれ」的なことも言っていた。

 だな(共感)。確かに楳図先生におんぶに抱っこに担ぎ上げでは情けない。イマジネーションの構築からの読解力は活字だけでも出来ねば!

 というわけで活字まみれの小説も楽しむ私はいつだって国語の評定が5だった。純日本人です。

 

 あとお兄ちゃんがこれの実写ドラマを見ていたことで、マンガよりも先にそっちを楽しんでいた。ドラマと原作漫画で結構違っていたりもするが、どちらも面白かった。

 まずはドラマを好きになったんだよな。山Pとか山田孝之とか出ていた。実写ドラマもかなり古い。まだVHSの時代だったし。

 ドラマの主題歌が山下達郎の「LOVELAND, ISLAND」で、陰鬱な話にしては明るいポップスだったなと感じたのも思い出。曲も超好きだったからCDを用意してフルで聞いたものだ。

 

 とまぁ思い出がいっぱいの作品なのだ。それをこの度久しぶりに読んで大変感動した。そのことについてあれこれ殴り書いていこう。もうめちゃくちゃ語りたくなる事が多い作品なのだ。

 

漂流教室〔文庫版〕(1) (少年サンデーコミックス)

 

内容

 主人公少年 高松翔くんは、多感な時期にある小学6年生。

 ある日、彼は些細なことで母親と喧嘩してしまう。そのまま学校に登校したらマジでビックリ!

 

 帰ったら母に謝って和解しようと考えていた翔くんの未来は閉ざされた。登校後にヤバい地震が起き、揺れが終わった後、学校が丸ごと消失していた。敷地内全部が一瞬で無くなったのだ。大事件である。

 

 では学校はどこにいったのか?それはヤバい所。なんと学校ごと時空を越えて未来世界に転移してしまったのだ。

 未来の地球はほぼ終わったヤバヤバ状態だった。そんな終わった世界で小学生の子供達が生きていくのは至難の業でしかない。

 

 翔達が飛ばされた先がいかにヤバい世界なのか、それは私の拙い文章表現能力を尽くした所で3分の1も伝わらないだろう。これは是非多くの人間に読んで体感して欲しい。

 

 とにかく条件が厳し過ぎる中で展開する少年少女達の未来サバイバルを令和に入ってもしっかり刮目せよ!

 

感想

 ハード過ぎる。

 かつてこんな代物が少年サンデーで連載されていたなんて信じられない。今なら絶対載せたらあかんやつだろ。怖すぎだっての。

 週刊少年サンデーからのアニメ化作品といえば、コナンくんとか犬夜叉とかMAJORとかがメジャーかな(いやシャレでなくて)。あれらと同じ雑誌に、かつてはこんな怖いマンガも載っていたと思うとなんかすごいなぁ。

 

 少年の日曜読書の時間に持ってくるにはキツすぎる超怖いマンガ過ぎてひっくり返った。めちゃ怖くて陰鬱としたSF劇なんだけど、その恐怖には面白さも付随していてマジでめちゃくちゃ面白いマンガに仕上がっている。名作です。

 

 眠い行間抜きで、ずっと脳を覚醒させる狂気性と恐怖性による面白さがある。脳が刺激されて物語にめちゃ引っ張り込まれる。そのためページを繰る手が高速化し、気づいたら11巻あったのが割とあっさり終わってしまう。

 たった11巻でこの情報量、考えさせられる重いメッセージ性、あと終始不気味で怖い、そしてそれらを包括して面白い。つまり満足感ありありなのだ。

 ダラダラしないコンパクトにこねまくった作品になっているのも評価出来る。長い割に言いたことがない、あってもはっきりしない下手な作品創りも見られる中(丁度今やっている深夜の変なアニメとか)、この作品はそこの所をうまくやっている。この私なんかも言いたい事の核を引っ張りまくる冗長の塊人間だからそこのところは見習おう。

 

 70年代という誰も生まれてないやんけ!(んなことはない)ってなくらい古い時代にこの異質なジャンルの娯楽コンテンツがあるとは、ヤバいなぁ。

 作家の才覚が恐ろしい。漫画家 楳図かずおの頭の中どうなってんねん?凄まじい才覚を持つ稀有な作家だな。

 惹きつけられるシナリオの作り込みもヤバいけど、臨場感があり過ぎる作画もやべぇ。絵が上手い分余計に怖い。

 

 陰鬱さバリバリマックスの未来世界の風景、未来のキモい化け物や植物など、マジでどこを見てもおどろおどろしい。

 漫画家先生だからこれが出来て素晴らしい!となるけど、まだ幼い我が子がこんなキモイ世界観を描いていたとしたら、その家の親はきっと心配することだろう。

 

 要素としては未来転移、環境汚染、親子愛、人間が持つ社会性を含めた深い心理、子供だらけのサバイバル生活などなど、濃いメッセージ性がたくさん。

 教養があり感動も出来る。なにより少年漫画に一番欲しい「これ、この先どうなるねん?」のワクワクさがすごい。

 

 まず印象的なのは、翔くんがまだ現代日本にいた短いターンを描く導入の物語。

 子供らしく楽しい玩具が欲しいと思って小遣いを貯めていた翔くん。その彼がいざ貯まった小遣いで売り場に行った時、なぜかスッと購入を止めてしまう。そしてその金で腕時計を欲しがっていた母のため腕時計を買うのだ。

 これちょっと分かるかも。小6という義務教育では真ん中の段階を過ぎてワンステップ大人になる時期にあるから、こういうちょっと進化したマインドになるのだと思う。

 お金を貯める大変さも分かってきたし、そこで玩具を買うのもなんだかなぁ~と子供そのまんまのマインドに一旦の冷めを感じてしまう。そして周囲を見れるようになったことで母への感謝を知り、ちょっとプレゼントしてみるかってなったのだと思う。

 あくまで導入に過ぎない短いエピソードだが、翔という人間が精神的に過渡期にあることがうっすら見えてくる味のある内容で心に残る。

 

 その翔くんも基本はまだまだお子様ってことで、勝手に部屋を掃除された件でママンに口を荒らすのだ。あの歳の男子って微妙に繊細で結構面倒なんだよね。

 しょうもない物でもお宝扱いする年齢であり、そのしょうもない物は大人から見れば普通にしょうもないから無慈悲にも廃棄されてしまう。そうして自分の物品を始末されたことで翔くんは激オコ(怒る)なのである。激戦を勝ち抜いてビー玉のお宝とかしょうもないけど結構共感も出来て笑う。ビー玉を弾いて行う机上の戦争を休み時間にやりまくるのも義務教育時代にありがちなイベント。

 これが最初で最後の翔くんが子供らしく大人げないシーンだったかも。この後未来に飛ばれされてからは、大人マインドでいないと生き残りが不可能な厳しいことになる。

 

 学校まるごとがよその世界に飛んでしまい、その被害者は思った以上に大きい。 

 物語の途中で子供達の捜索が打ち切られ、社会的には死んだものとみなされる。その結果、学校跡に慰霊碑が立てられる。そこに刻まれた眠れる者の魂の数はなんと862。眠りすぎ。

 この数字、ビックリです。生徒、先生、入学出来る年齢ではないけど校舎で遊んでいたユウちゃん、給食センターのおっさんなどなど含めて一つの学校にそんなにいたの?

 826人ってゴミほどの数じゃないか。これってマンモス校じゃないのか。確かに次元転移でえぐり取られた敷地面積もかなり広そうに見えた。

 私の学校なんてマックスで1学年30人くらいで、40には届かなかったぞ。少ない所は15人くらいしかいなかったし。学年で30人いない場合もあるから当然クラス替えもなし。

 舞台は神奈川県だというが、50年くらい前の神奈川の学校ってこんなに子供いたのか。ベビーブームの時の子供達だったのかな。

 テーマとして扱う事件内容が信じられないものだが、それ以前の現代日本で設定された学校の人間の数にも「信じられん!」と驚いた。 

 

 未来世界に行ってからまず印象的なのは、先生達大人に見る異常。

 ここでは常識の中に非常識がぶっ込まれた異常事態において、人はどこまで常識を保っていられるのかという奥まったテーマ性が見られる。

 子供以上に常識がある。だからこそ非常識を重く見てしまう。それが大人の弱点になる。

 学校の異常に子供は怖くて泣きじゃくるだけだが、大人は泣いてなんとかなる絶望状態ではないと早くに気づく。ゆえにどん詰まり状態をモロに食らうことになり、涙も枯らして精神崩壊を迎える。

 狂って暴れる、自ら命を絶つ者まで出てきて大人が先に自滅してしまう。先生がいなくなった状態で、子供達が自分で考えて絶望を脱する策を考え抜くすごい展開になってくる。

 

 なんか社会実験みたいな感じもするが、これは案外リアルな正解なのかも。大人だからこそ耐えられない酷い現実もある。その中でしぶとく最終巻まで生き残った給食センターの関谷のおっさんは印象深いキャラだった。

 この大人達に見る狼狽ぶりについては、子供の時に読むのと、大人になってから読むのとで感じ方が変わる要素かもしれない。

 

 ギャグ要員にしか見えないけどIQがとんでもなく高い我猛くんのことは久しぶりに読んでも覚えていた。

 彼が大変賢くて顔の割に重要キャラなのも印象深い要素。彼が言うには、こうなったら学校は一つの国。国には政治が必要。でないと集団の方針が定まらず騒動の元になるという。これは我が国日本でも一緒。まぁ政治を行う人間の腕前の是非につていは賛否色々あるけどね。

 生徒達の間でリーダー的人間を決めて会議を行い、食料問題など生きて行くための方法を模索している。すげぇハードな流れだな。

 

 小学生のガキの集まりとはいえ、学校ってのもミニマムな社会コミュニティである。子供だらけの物語にもしっかりと集団心理ありきの人間性が見えるのがジワる面白さだった。

 子供でもしっかり人間だ。人間の人間らしいところを嘘なく克明に描く点に教養がある。

 ヤバい状態であれば、小さな力でも結集して乗り切ればよい。そういう清い友情、協力関係ももちろん見られる。だって少年マンガだもの。

 しかしその逆の真実もあり。密接な関係にある集団だからこそ始まる内部分裂のターンも巡ってくる。

 リーダーの方針が気に食わないなら次なるリーダーになってやると息巻いて暴動を起こす者も出てくる。序盤に出てくる女番長や後半で謀反を起こす大友くんなんかの言動がそれ。

 小学生の高学年くらいの段階なら女子の方がフィジカル、メンタル共に男子を凌駕して伸びる時期にある。だからってことで男子よりも喧嘩が強く、発言力も強い怖い女子が出てくることもあった。こういうリアル思考な展開も面白い。

 女番長達が男子でもしばき倒して素っ裸にして放り出すのは印象的。怖っ!

 

 裏切り、憎しみの関係も子供の間で見られるようになる。ここは正直なところではあある。人間心理の闇の部分もしっかり描くのだな。

 途中でペストが流行るエピソードが超怖かった。あそこでは感染者、またはその疑いがある者は友情を廃して徹底的に排除する残酷さが見られた。

 まぁ確かに生き残りを賭けたギリギリの戦場だからな。子供とはいえ危険対象なら排除にかかるわな。

 ここらになると同士討ちも辞さない流れでマジに酷い地獄絵図だった。感染者を一箇所に押し込んで火をつけて燃やすなんてこともしちゃう。

 

 翔くん派閥、大友くん派閥に分かれて抗争が始まる終盤展開なんて人間の醜い本性が見えすぎてヤバい。 

 終盤では食料が遂に底をついてもう次がない状態になっている。そうなれば生徒同士が食料をマジで取り合う酷い争いに発展する。

 栄養を求める理性の行為ではなく、ただ飢えの苦しみから解放されたい野性的食欲から遂に同級生を食うまでに至る。ヤバいってコレ。絶対に今日のサンデー本誌に載せられない極限の表現。

 でもここにも嘘はないのだと思う。生きるためなら何でもやらないといけない極限状態が描かれている。

 

 人間関係でこじれる流れなら大友くんのエピソードが印象的。

 翔くんとは最初の世界からも仲良しの友人だったが、やがてはラスボスのライバル的ポジになる。そういや微妙に巨人の星の花形ぽい見た目だったような。

 大友くんの想いを全て知れば切ない。そしてとても正直な人間性が見える。

 大友くんはおそらく翔くんのことを尊敬していて好きだったのだな。それが分かるくらいに近い距離で親しんできたからこそ生まれる憎しみがある。清い友情が憎しみに変わっていく過程が見える彼のキャラ性が良かった。

 

 翔くんの事が好きな咲っぺのことを切なく愛していた大友くんがいる。ここに少女漫画に見るような儚い三角ラブ感があって好きになる。ガキとはいえ小6になれば愛の片鱗くらいは見て感じてが出来るってものだ。最終的に大友くんが好きになるなぁ。

 そういう理由があって親しい関係の翔くんに事あるごとに反発していたのかぁ。ネタが分かれば愛せるキャラだったな。

 

 それから本人さんは意識を失ったままだからなんともだが、西さんもここの関係に混ざってやんわり四角の関係にもなっていたかも。

 翔くんは西さんが好きだと思っていたことで、咲きっペの思考にも迷いが生じていた。咲きっペの込み入ったラブの想いにもちょっと萌えだな。

 地獄みたいな世界だけど、ここでなら愛しの翔くんと一緒にいられる。怖いけど、そこのところだけは居心地が良かった。最終局面でそこのところの想いを文書で吐露する咲きっペの想いときたら小6にしてはおませさん、ていうかアダルト。

 この4人の関係性はその後どうなったのだろうか。想像すると楽しくなる。

 

 たくさんあった事件の中でも忘れられないのがペストの猛威。

 そういやペストを知ったのはこの作品が初めてのことだった。これは怖すぎたのでよく覚えている。本を読んだ時にはペストって今は大丈夫なの?と親や先生に聞きにいったものだ。

 これきっかけで後にはカミュの小説の「ペスト」も読んだし。あれも怖い本だったなぁ。

 

 終盤で訪れる未来テーマーパークの入口には、映画スター マリリン・モンローを象ったロボットがいる。これも覚えていた。あのロボも怖かった。

 マリリン・モンローをネタにしたキャラなら水木しげるのマンガにもいたな。本物より先にどちらかのマンガで知った人物だな。 

 

 未来世界で起きる事が次々と最低でマジ怖い。

 食糧危機の問題なんて初手の面倒で、次にはムカデとサソリが合体したような怪虫が攻め込んでくる。これがもう怪獣だから。化け物ヒトデにグロくてキモい未来人間なんてのもやって来る。

 未来人間のヤバさにあてられて生徒の間で一つ目教という宗教が流行ったりもした。閉塞的世界で魂の救いを求める宗教信仰の概念が生まれる。そこにも微妙なリアルがあった。

 

 自然もマジでおかしくて学校の周囲はヤバい範囲で砂漠化状態にある。食料もだが水を求めるのも絶望的。

 たまに雨が降ったと思えば豪雨レベルでヤバい。恵みの雨で人死が出ることもあった。

 風に乗って毒スモッグがやって来る恐怖もあり。

 ペストも来るし、翔くんが盲腸になって死にかけることもあった。休み無くヤバい。

 終盤では火山噴火からの溶岩責めも起きる。最低のイベントの連続で怖すぎる。

 

 子供達だけで盲腸手術をして輸血も行うところなんて怖すぎる。こんなの子供が読む漫画雑誌でやってたのかと驚くばかりだ。

 

 後半になって人類が滅んだ理由について解明される。

 このくらいの時期だとノストラダムスの存在が世に広く知れて終末思想が流行ったなんて事もあったのかもしれない。でもそこはよく分からん予言の流行無しのリアル思考で語られる。

 やっぱり人間が自然に対してナメた態度をとっているからしっぺ返しを食らって終わっていった。また別の見方をすれば自ら滅んでいった。そんな言及がなされている。

 人類のおつむが発展すれば文明も発展し、その文明が地球を蝕む。これは古くから言われていることだが、文明と時の流れは進んだからには後に戻れないのだ。つまりどんどん侵食は進むわけ。

 今は良いが、自分から見た一世代、二世代向こうの世界はマジでどうなっているか分からない。今だって温暖化が進んでだんだんと環境もヤバいことになっている。それの最上級にやばくなった世界が、翔くん達が飛ばされた世界。マジでクソみたいに終わった世界だから怖すぎた。

 ホントこうならないようになんとかせにゃ!と読む者に訴えかけるメッセージ性があった。

 

 物語の中ではかつて海だった場所がカラカラに干上がっている。環境がおかしくなったことで異常発達してデカくなったキモイヒトデなんかも出てくる。そのヒトデも本来は上手いこと調理すれば食えたはずなのだが、焼いてみると毒々しい臭いがして食えたものではない。汚染された環境で育った化け物ならその内部も汚れているため不味くて食えない。ここの所は説得性がある設定。

 自然のことだけでなく、人の社会で経済も激変していったと分かるのが、10万円札が発見されたこと。未来世界にそんな物があることから、物価が高騰しすぎて紙幣も高い数字の物が出回るようになったのだと予想出来る。怖い。

 

 異常世界でこれだけ怖いSF物語が展開する中、現代に残った翔くんのお母さんが主役になるターンが数回周ってくる。

 救いが少ない酷い物語の中、あっちとこっちを結ぶ唯一の救いのファクターが翔くんのママンなのだ。かなり重要ポジのおばさん。

 翔くん達からすればお母さんは過去世界にいるわけだから、現代でお母さんが起こした行動が未来世界にも反映する。この遠く繋がった一つの時間軸において、時飛ばしトリックを行う展開が面白い。

 で、お母さんが凄すぎる。おまけのおばさんキャラかと思いきや主役しすぎ。お母さんがいないと子供達は全滅していた。

 

 これの感動出来る所は、母を求める子の想いと子を愛する母の想いが次元をも越えてリンクすること。夢も希望もない絶望世界の中に差し込むたった一つの希望の光が翔くんとお母さんの繋がりだった。

 翔くんのためなら全部出しきって何でもやる。無理難題でもとにかくやる。時に狂気に近いものも感じるくらい一心に息子を愛す翔くんママの行動力が凄すぎる。チートなしのリアル言動なのだが、彼女が一番超人に描かれている。それを可能とした原動力は愛のみ。たった一つのエンジンであそこまでのことが出来るおばさんがいるとはとても思えない。

 それほどまでに息子を愛した母の鑑に感動しました。

 

 こんなに良いママと喧嘩別れ状態になったことで翔くんもさぞ後悔したことだろう。

 マジで喧嘩出来る内が華だな。その謝罪も叶わない次元の断絶にあったら全部終わりだから。これを読んだら母を大事にしようって思えます。

 

 消えた862人も向こうでなんだかんだの事件に巻き込まれてどんどん消える。大人は全滅で、子供でも容赦なく命を持っていかれる。後半は内戦状態となり、子ども同士で潰し合って益々数が減る。最終的に残ったのはわずか。

 これの最後まで甘くないのが、あっちの世界で今後もやっていける希望を残すまでにして、元の世界に帰ることは遂に叶わない落ちにしたこと。厳しいなぁ。主人公の翔くんも帰れないのか。

 そんな中、皆の想いの力を繋げて本来学校にいないはずのちびっ子のユウちゃんだけはなんとか現代に送り返してあげることに成功する。ユウちゃん帰還の物語にも感動します。

 

 未就学児のただのガキだったユウちゃんでさえ、あれほど凄まじい世界にいれば強くなる。

 最後はビービー泣かずに皆の想いを背負ってしっかり生きると誓い、自分ひとりの力で家まで帰るのだ。ここに大人への依存を離れて精神的に自立する子供の成長が見えた。

 甘えるってのはいくつになっても気持ち良いものだ。でもね、それじゃいかんシーズンもその内絶対にくるわけよ。子供もいつしか子供を脱し自立して大人の仲間入りを果たす。ユウちゃんの物語のエンドには、そういった都合も見えた。ジーンと来ました。

 

 というわけで、最終的には現代の自然環境を守って親も大事にしろ。学校は適当に出ておけば良いけど、次元飛ばしに合いそうだったらすぐに逃げるか近づくな。

 てな具合でまとめが出来る作品でした。←テキトー

 

 古いけど恐ろしく面白いマンガだったぜ。

 中身が空っぽゆえ、後になって何も考えさせる事がない異世界アニメに慣れた所にぶっ込まれたら刺激的すぎてやばい。たまにはこういう脳にガツンとくる刺激的作品も良いものだ。とは言うけど、緩いクソコンテンツにもそれはそれで良さがあるからね。皆まとめて愛してあげよう。

 

 これは実写化はしているけどアニメにはなっていないのか。アニメで見てみたい気もする。規制がヤバい内容ではあると思うから、OVAとかでいつか世に出ることに期待したい。

 

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