こしのり漫遊記

どうも 漫遊の民 こしのりです。

人と人が交差して生きづらい世界「CROSS†CHANNEL 〜To all people〜」

CROSS†CHANNEL 〜To all people〜」は、2010年2月25日に発売されたPSPソフト。

 オリジナルは2003年にPC版で発売されている。その後に色んなハードに移植された本作の内一番遊びやすいPSPを選んでプレイしてみた。PSP版の段階でオリジナルから既に7年も経過しているのか。そしてオリジナルなら今となっては20年も前か。すっかりオールドゲームだな。

 

 で、このゲームなのだが、シンプルにこうとは言えない非常に難解な内容になっていた。はっきりいって安易に感想が言いづらい。

 サクッと頭の中で言葉を並べてべらべらよく喋る方な私だが、この作品については簡単に意見が言いにくいような。そんな特殊な想いにしてくれたこともまた本作との強い思い出。

 

内容

 主人公 黒須太一が通う群青学院は、普通の学校と異なる特殊な学校である。そこに通う子供達は、どこか人間的に欠けた心の問題を持っている。

 太一はその学院の放送部に所属している。ある日、放送部の面々で合宿に行って街に帰ってくると、街はもぬけの殻になっていた。そこから誰もいなくなった街で主人公を含めた8人の学生のみの生活が始まる。

 人がいなくなった街での生活は、月曜日から始まると日曜日の終わりにループしてまた月曜日に戻る。

 人が消えた謎世界で謎のループが起きて謎だらけ。そんなおかしな世界の中で、どこか心におかしい部分を持つキャラクター達は生きていくしかないのだ。

 

感想

 最近もどこぞでたまに見かけるループものであること。街から人が一気に消えること。この不思議世界での物語であるという基本的な触れ込みを受けて「なんかおもろそう」とは思ったが、そんな簡単な話ではない。

 

 世界もおかしければキャラクターにも人間的におかしい部分がある。そこが深いポイント。

 最終的に人が消えるとかループの不思議の究明よりも、8人の人間の「心の欠け」の部分を掘っていく内容が重要になる。

 変な世界に迷い混むという派手な要素が最重要要素に思えるが、これは「人」というものの不完全さをなるたけ完全に描いていくためのもので、舞台設定は余計なノイズを消すためのお膳立てに過ぎなかったのだな~と今になれば思えてくる。全部終わればもはや人が消えることやループなんておまけ要素に過ぎないくらいに思えてくる。

 重要人物8人を描くなら周囲の大人も他の人間関係も不要。先生や家族も出てこず、ずっと学生だけで進んでいく。

 途中で他の学生人物も出てくるが、そいつの存在はミスリード的に見せて、実は過去回想だったと分かる。世界にいる重要な人物はあくまで8人。

 

 それまでは仲良しな部活グループだった面々の人間関係が崩れ、更にその奥の個の部分でも壊れが見えてくるようになる。集団でも個でも社会不適合な者は確かにあると気付ける。

 皆パッと見や表面上での付き合いでは普通の人間に見えるのだが、やはり奥に闇を持っているから人って簡単ではないと分かってくる。

 

 これは「人」の複雑で難解な部分を彫り込んでいく高尚なものであった。最近はキャラ、シナリオ含めて特に言いたいことがないすっからかんの異世界アニメをよく見ているから、それで慣れていると逆にしっかり言いたいことが「ある」この作品がかなり強烈に響いた。

 作品も人によって描く内容の濃さと薄さ、重さと軽さが様々あるんだな。まぁそれぞれに需要があるからどっちも楽しむんだけどね。

 

PSYCHO-PASS」みたいにこちらの世界でも人が内面に持つヤバさを数値化していて、それを適応係数という。一見可愛い子ちゃんに見えてもこの数値がヤバいとしっかりヤバいから怖い。

 

 初手の掴みがなんだかふんわりしていて、世界が一体どういう状態なのか、キャラクターの関係などがすぐに掴みづらかったかも。世界のこと、学校のこと、そこにいる連中のこと、それぞれのおかしさが霧が晴れるようにちょっとずつ見えて来る。ゆっくりと崩れが見れるこの感じが後から来るスリルとなる。

 

 他ゲームでも気に入った田中ロミオ氏のテキストとなるが、今回の主人公くんがなかなか暴れたキャラをしていることから、テキストも合わせてなんか暴れたことになっている。

 これは人によっては受けつない!となって早い内で離脱しちゃうこともあるかも。かなり初手でプレイヤーをふるいに掛けてくるな。

 

 太一くんがおかしいんだよ。意味の分からんギャグを言いまくるし、しっかり分かる女子へのセクハラ言動もありでヤバい。表面的にもおかしいし、その真の部分はずっと裏にも潜んでいることから奥深いキャラではあった。だが品がないことに関しては好感度が薄い。

 テーマ自体もそうだが、この太一のキャラ性とクセが出まくりな文体と合わせて間違いなく玄人向け作品だと言える。もっとマイルドなのを期待していたからこのテンションはビックリ。同氏が関わった「加奈」「星空ぷらねっと」とはまた違ったテンションで進むからそこにも意外性があった。

 

 ではヒロイン毎に萌え要素やシナリオを振り返ろう。

 

佐倉 霧(さくら きり)

 ちっこい後輩ちゃん。品のない下ネタ男の太一に対しては基本的に好戦的。

 兄の豊の死で心が傷んでいるし、それ以前の生活でも心に傷があり、精神的に脆く病みが多分に表出するターンもあり。

 

 こうだと疑ったからイノシシのようにその思考に真っ直ぐで狂人めいた言動に出てくるのがヤバい。自分で始まって完結した思考だから人の話を聴きもしない。猜疑心がすごくて終わっている。

 気が触れたように太一をボーガンで狙ってくるアレはもうヤバいから、こちらからも息の根を止めてやるしかねえじゃんかと思ったくらい。あの狂人ムーブはきつかった。

 普段は風紀に対して常識のある真面目な感じなのに、壊れる時は派手に壊れるのがある意味では人らしいとも思えた。めっちゃメンドイから時に腹も立ったが、大人しくしている時には可愛いヤツくらいに思えた。

 豊の物語を絡めることでショッキングな色付けも施したヒロインルートだった。

 可哀想な子だが、狂ったようにボーガンで狙ってくるキレっぷりが悪く目立つことで一番萌えなくて入り込めないルートでもあったかも。

 

山辺 美希(やまのべ みき)

 霧とは仲良しコンビのギャル。

 一番萌えたかも。可愛いし明るい子で好きになる。まぁ基本はね。

 波打ったロングヘアでこの明るいギャルみだから巨乳キャラの要素があるように思える。顔的にも巨乳キャラの感じがしたが、太一も強く指摘する貧乳枠だった。

 霧、曜子、冬子あたりのコミュ障なキャラ性が目立つ中、この子が一番普通に話せる。太一のセクハラ言動に怯まずテンションを合わせてくる適応能力はかなりのものだから、適応係数とは無縁なのでは?と思えたが、あの数値はそんな表面的な所で計測するものではなかった。

 初見だと一番人間的欠けから遠い人物だと思える明るいキャラ性が目立つが、条件で発動する怖い部分がしっかりと心の奥に潜んでいた。結構怖い子です。

 美希ちゃんを見ていると、人ってのは最後には自分可愛さのためにエゴが出るものだと思えてくる。なんだかんだ自分優先で、そのためには他者を軽んじることも平気でやっちゃうもの。そんな真理も見えてくる。まぁそうだと思います。

 ループでの記憶リセットに対抗する祠の情報を知っていたことで、他のヒロインよりも世界の謎と太一の奥部分を理解していたかも。怖い所もある子だったけど、太一のことを好きになってから見せる萌え女子ムーブにはしっかり萌えました。諸々イケる。

 

桐原 冬子(きりはら とうこ)

 ツンツンしたお嬢様。そこに太一がちょっかいを出して怒り出すのがいつもの楽しい風景。

 凛としてプライドの高い孤高のお嬢様の綺麗な印象もやがてめくれて行く。彼女の欠点が、表出したからには視覚的に一番分かりやすいものだった。それは他人への強い依存性で、自分のことすら放っておいてめっちゃ他人に依存してくる。そして独占欲も強い。かまってもらうためなら自傷行為もするでヤバい。太一と一緒にいるために邪魔なら他人の事もどうにかしようと考える始末で怖い。

 これはヤンデレってやつだな。こういう古い時代からもいたんだな。

 

 序盤のツンツン怒りん坊キャラはどこに行ったんだってくらいデレデレ依存コースに入ったらマジでデレるからそこは正直に可愛いと思った。色々と狂った世界でも冬子とイチャデレするターンは楽しかった。まぁそれも長くは続かないんだけどね。

 彼女のキャラ崩壊からの本性の出し方にはショックを受けたものだ。依存ってのも怖い人間心理だな。顔が可愛いだけでは許されない領域までツッコんではいけない。

 かまって上げないと自分の管理も出来ずに餓死するので、たまごっちかよコイツとなった。

 自分が異常者が集まる学校の生徒なはずがないと入学を認めておらず、ずっと私服で学校に来る。でもエンディングでは群青の制服を着ている。最後だけで見れるレアな制服姿がなんか嬉しかった。

 ツンデレヤンデレも嫌いじゃなくむしろ結構イケる口なので結構楽しめたヒロインでした。

 

宮澄 見里(みやすみ みさと)

 メガネの先輩ヒロインで一番の巨乳枠。おっとり系で包容力があり、太一くんのアホなノリにも結構合わせてくれる。癒し系で可愛いお姉さんで私は大変好きになりました。

 この人の心の問題は他よりも複雑で、一番一般的に理解しにくいものだったかも。表面に見えにくい。

 本当に何も問題ない落ち着いたお姉さんみたく見えるんだけど、よく掘っていくと異常な形で攻撃性と防御性それぞれを持っていることが分かってくる。人間の内部構造って複雑だなと分かるものだった。

 相当に神経質な子なのかな。規則に準ずるの心でいないとダメで、人情や道徳を押しのけても規則重視で行くところがある。それでいてキツい事からはマイルドな形で逃避する癖がある。

 弟の友貴くんを置くことで姉ヒロインとしても楽しめた。友貴くんと父と母を含めた4人家族の平穏も見里の異常のために崩れて姉弟間でも不和が生じている。家庭的にも崩れたシリアスな事情を持っている。

 問題に目を瞑れば後は良い子で癒やしの姉ヒロイン枠として楽しめた。

 

支倉 曜子(はせくら ようこ)

 こいつがある意味ではボスだったかも。

 こいつをなんとかしようにも困るのはコミュ障であること。意思疎通がムズい。あとはまるで忍者みたいなヤツでめちゃ強いから物理でどうにかするのもムズい。

 学校にも基本的に姿を見せず、太一くんのみに粘着状態で二人きりのターンが多い。他の皆と積極的に関わることのない特殊なポジだった。

 太一くんとは一番古い仲で、他のヒロインよりもえぐい過去を持っている。そのトラウマで彼女もまた太一くんに執着し依存している。結構ヤンなところもあり、太一くんを監禁して羞恥プレイを仕掛けてくることもあった。いくら美人さんだからといっても数日に渡って拘束されたら怖いっす。

 世界のループの謎に気づいていることで太一くんとは心理的に近い関係にあった。

 クールで完璧美少女にも見えたのだが、一部がしっかりと脆い。段々と危うい子だなと見えて来る。ビジュは良いんだけど内部が怖い子だったな。

 

他キャラ

 男子キャラに桜庭 浩という名物キャラがいる。こいつが何か変なヤツで面白かった。

 友貴が一番キャラが薄いヤツに見える中、一緒にいる桜庭がかなり変で面白い。最初の柿ピーについてのどうでもいい話や学食のカレーパンをずっと食っているのも笑えた。カレーパンは好物だけどカレーは好きじゃないという意外な趣味の話もしていた。

 桜庭が学校に来た理由が文化祭で女装した太一くんに惚れたからだったのは意外だった。どういう趣味のヤツなんだろう。

 友貴は皆に食料を届けてくれる活動をしていて、そこは良いヤツと思えた。でもそれも一つの精神的逃避行動だと後で分かってくるからなんか悲しくなります。

 

 転校して来た豊と太一の関係が実は過去から繋がっていたと分かったのはショッキングだった。ここで太一が豊にあんな過去がありながら何で生きているのか?と問うのは自然なことかもだが酷だな。それであの凄惨な事件になるから辛い。

 

 桜庭を山崎たくみ、友貴を山口勝平、回想に出てくる新川豊堀川りょうと周囲の男子キャラの声優がベテラン有名人で固めたのも想い出深い。男子キャラの声優が豪華でそれぞれ割と良い味を出していたのが良かった。

 

 謎のヒロインキャラに七香ちゃんがいる。この子だけ制服が違っていて、皆は青なのに1人だけピンクのセーラー服を着ている。あの服は可愛かった。

 太一と2人の時しか出てこないこいつは一体なんなのだと思ったら、その正体は太一の母だと分かった。

 それとなく太一の進路を指し示してくれるアシストをしたり、気の利いた言葉もくれる。これらは母性からのことだったのか。

 七香がそれとなくサポートに回ってくれる点で、なんだかんだ母は偉大で心強いということも伝えたかったのかも。サポートキャラの可愛いキャラでした。

 

まとめ

 皆の心の問題を知った太一くんがそれぞれを更生させ、自分とも社会とも向き合えるような形にした所で元の世界に送り返す。

 これって心の甘えを持ったまま異世界に来る最近の異世界なろうキャラに対しても用いれば良い設定だな。

 

 1人ずつメンバーが減っていって、自分だけになった最後にはラジオで声を発する。なんて切なげで色々と考えさせられる最後なんだ。

 太一くんが孤独で可哀想。それでも彼は生きていくし、ラジオでも皆にとりあえず生きてくれとメッセージを発する。

 

 このゲームをプレイすれば、表面に見えにくいだけで人間なんてどこかしら壊れているものだと思えてくる。それでもなんとか整合性を保ってこの世界でやっていくしかない。そうして生きていくしかない。出来ないヤツは世界から弾かれる。つまり死ぬくらいに思えた。

 

 言いたいこと、それを伝える形として難解なものだとは思う。全部のメッセージ性を理解しきれてはいない。私以上に本作を絶賛している人もいるだろうが、私はそこまで完全にハマり切ることなかった。それでも退屈を感じず最後まで自然と読み進めることが出来た。とりあえず止めたくはないと思った。

 最後までやっても全てがさっぱり晴れ晴れとはしないが、これはものすごい熱量で作られたものだということはしっかり分かった。

 作り手の熱意を感じるのが好きで、そういう作品に出会うことも好きだ。こういう時代にこういう人がいてという条件が揃ってこそ出来たのだろうな。

 

 ここまで人間の歪み、異常さ、合わせて不完全さを描けるのは、人間として一生懸命生きた証拠だろう。作者はしっかり生きた人なのだろう。人間関係の経験値が低い引きこもりが書く小説ならこうはいかないと思う。少なくとも作り手の熱によって最低限は楽しめるものになっていた。

 

 世界やキャラに共感しきれないのは、そのまんまのことで私がそういう人間ではないから。

 生きづらさは世界のどこかしらにある。そう分かることで、生きづらい人には深く共感出来るものだったのではなかろうか。 

 私はそこまで生きづらさを感じていないので、本当のところで作品の言いたいことをまだ掴めていないのかもしれない。もっと生きて人を知ればもっと楽しめる作品になるのかもしれない。

 とにかく深い。人と人が、心と心が交差して何とも言い難い深い世界に浸れるのだな。

 大変教養と熱がある良い作品でした。ありがとう。

 

 

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